仲間が増えた
「何で赤城さんに戦い挑むんだよ!」
「だから囚われの王子様を助けるためだって」
「そこで伸びてる奴のせいじゃん!」
「きゅ〜……」
彼女は地面に転がっている湊を指差す。
千明は肩を竦め、
「実際のトコ、
「え?」
「私も何で自分がこいつのために動いてるのか、本当に理解できないんだよ」
湊の横腹に弱く蹴りを入れた。
さすがに目が覚めたか、「うぅん……」と呻く。
「妙義湊はな、不思議な〝魅力〟ってのがあるのかもしれない」
「魅力……」
「〝カリスマ〟って言いかえてもいい」
顔をしかめて、千明は腕を組んだ。
表情から認めたくないという気持ちが読み取れる。
「腹立たしいから絶対に言わないけどな」
「うーん……あれ、ここは?」
「おはよう寝坊助。寝過ごして夜になっちまったゾ」
「マジィ!?」
「嘘」
目を見開いた湊に短く言い切った。
非常に面倒くさそうである。
頭頂部にかけて黒くなっていく金髪――俗にいうプリン頭の日向は、明らかに疑いの眼差しを向けた。
本当に?
これが?
「信じらんねェ」
「じゃあ近くで見てみたらどーだ?」
「……つまり?」
「〝妙義派〟に入ってみるのはどうかね」
「お前もそれかよ!」
千明のあくどい顔に、日向は顔を歪めた。
状況が理解できない湊はアワアワしている。
しばらく葛藤していた日向は、やがて頭を掻きむしった。
「……っあ〜、もう! 赤城さんにはボコされるし幼馴染とは疎遠になっちまうし、こんな訳のわからん奴らには絡まれるしで大混乱だ!」
彼女は湊の胸元を掴み上げる。
「おい!」
「は、はい」
「私が赤城さんのトコに戻るまでは仲間になってやる! でも戻れたらすぐに敵だからな。そーゆー条件で〝妙義派〟に入ってやるよ!」
日向は叫んだ。
恥ずかしそうに頬を赤くして。
やはり状況がわからない湊は大混乱だ。目を回して困惑している。
視線のみで千明に助けを求めるが、普通に無視された。
「へへ、これで仲間が増えたな」
「なァ意味がわかんないんだケド!?」
◇
俺が登校すると、何か見知らぬ人がいた。
プリン頭が特徴的なその人は、「よ」と気さくに手を上げる。
いや誰だよ。
もちろん明らかに不良な見た目をしている相手に、陰キャの自分がそんなことを言えるはずもない。
隣で自信満々に胸を張っている湊に視線をやった。
「どちら様?」
「仲間!」
「仲間ぁ……?」
「そ! 〝妙義派〟のネ!」
あぁ……と呟く。
妙義派にこの髪色。
高岩日向か。
漫画の彼は暗黙の了解を破ったことで、赤城夜宵から追放処分を食らう。
そこで出会ったのが榛名千明と妙義湊の二人だ。
ひとまずの仲間になった日向は、しかし付き合いを深めていくと、心地よさを感じるようになって……。
と、まぁそういう人物だ。
即堕ち二コマ君とも呼ばれている。
「なァ話が違うんだケド」
「何が?」
俺を訝しげに眺めた日向は、不思議そうに首を傾げた。
湊も真似するように首を傾げる。
「拓馬クンとやらは赤城さんに攫われたんじゃないの」
「〝赤城派〟に取り込まれちった」
「でも目の前にいるじゃん」
「別に拉致監禁されたワケじゃないし」
「うわ騙された気分……」
俺は鞄を置いた。
「何これ」
「あぁ、日向を誘うときに拓馬クンのこと出汁にしたんだよ」
「えぇ?」
こちらに歩いてきた千明が湊の頭に手刀を叩き込む。
調子に乗っていた湊はしゃがみ込んだ。
「痛いんだが!?」
「目障りだった。悪意はない」
「いや悪意しかないっしょ!」
いつもどおりの二人の喧嘩は置いておいて、俺は日向と話すことにした。不思議と親近感を感じる。髪色のせいだろうか。
クールに窓際へ座る彼女は、ふっと視線を向けてきた。
「今日は風が泣いてるな……」
「どしたの急に」
「わからないか……私の〝世界〟は」
そういえば、高岩日向はこんなキャラだった気がする。
別に陰キャではないのだが、緊張すると言動が変になったり。
今も急に中二病みたいなこと言い出した。
しかしわからないのが理由だ。
先程までは普通に話せていたのに、考えられるのなんて俺くらいしか……あ。
「もしかして男慣れしてない?」
「バッ! お、お前そんなワケねェじゃん!」
「ふーん……」
やばい。男をからかう小悪魔の気持ちが理解できてしまった。
目の前で赤面する日向をおちょくりたくて仕方がない。
調子に乗った陰キャ魂を抑えつけて、
「これからよろしく」
「……べ、別にヨロシクするつもりはねェけどな」
「残念だよ日向」
「そんな寂しそうな顔するなって……日向ァ!?」
彼女は窓枠から滑り落ちた。
乱れた髪の隙間から、先端まで赤くなった耳が覗く。
「どしたの急に」
「いきなり名前呼びかよ!?」
「嫌だった?」
「嫌じゃ、ない」
「そう。よかった」
駄目だクセになりそう。
きっと漫画に出てくる妖艶なキャラってのは、こうやって
俺は腹の底から湧き上がってくる笑いをこらえきれず、ついに噴いてしまった。
「ぷふっ」
「拓馬お前、馬鹿にしてんじゃねぇゾ!?」
「ごめんごめん、つい面白くって」
さっきまでは不良っぽい見た目に怖がっていたが、話してみると意外に親しみやすい人物ではないか。
俺は涙がにじむ眼尻を拭って、手を差し出した。
「よろしく」
「……ドーゾ、よろしく」
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