第32話 待つ
「ふぅ〜」
これで息を吐くのは何回目だろうか。
約束の公園のベンチで俺は夢を待っている。
暇を持て余した俺は公園をさっと見渡す。
10坪は······流石にあるだろう。草も生え散らかしている箇所もあるが、不愉快になる程ではない。
ここには2人用ベンチが一つあるだけの小さい公園。住宅街にポツンとあり、ここであまり遊んでいる子供は見ない。普段も歩くのに疲れたお年寄りが今俺が座っているベンチに腰掛けているところしか見たことがない。低い柵が周りを囲っており、何故か出入り口が2つある。ベンチから座っている位置から前方向と右方向に存在している。
これを『公園』と呼ぶには些か不適切かと思う人がいるかもしれないが、すぐそこで長年立っている木の看板が『この公園での注意』と御触れを垂れているので
しかし、待つ時間ってなんでこんなに長く感じるのだろうか。
スマホを取り出し時刻を確認する。画面には18時57分と表示される。公園に着いて20分はたったか·······。
遅いなぁ〜。何かあったのかな?
少し心配になった俺は家に電話を掛けようとした。
その瞬間、近くから男の声───しかも2人分聞こえてきた。
「········げっ······場所取られてんじゃん」
公園に入ってきた男達の1人が俺を見て嫌な顔をする。
大学生だろうか?歳はそんなに離れていない感じなのだが、2人とも金髪に染めている。校則を考えると高校性ではないよな。
「だから早く行こうって言ってたじゃんか······あれっ?」
苦言を言った男にダメ出しをしていたもう1人の男が俺の顔を見て不思議そうな声をあげる。
「おまえ·······どっかで·······」
「········えっ·········」
俺は男の顔を見るが、全くピンと来ない。
人間違えじゃないですかね、と言おうとした時、男は叫んだ。
「あーー!お前、『クエル』にいた奴だなー!?」
「·······『クエル』って····」
───『クエル』とは梅花、夢と行ったお化けパフェで有名な喫茶店の事だ。
「────あっ·····もしかして」
夢と一緒に行った時、隣の席に座ってたカップルの片割れか?顔は全く覚えてないが、確かに声は聞いたことがあるような····。
「なんだ?知り合いか?」
「ちげーよ。······ほら、俺が最近別れた女がいたじゃん。そのきっかけを作ったカフェにコイツがいたんだよ」
げっ·······こんな偶然あんのかよ。
俺は苦笑いしながら、どうか何事もなくこの場から消えてくれ、と願う。
「あいつ、顔も良くて、家も金持ってたからすっげー上玉だったのによぉ」
ピクっと頭の血管が動いたのがわかった。
上玉?自分の元彼女を何だと思ってたんだこいつは。
「あ〜〜······じゃあコイツがその時、隣の席にいたカップルの男の方か?」
「そうそう。いや、ホントにめっちゃ可愛かったんだって!」
いやーカップルでは無いですね。めっちゃ可愛いのは本当ですが。
心の中で───冷えた目で2人にツッコミを入れる。
「······おい。何だよその面。何か言いたいのかよ?」
「見た限り高校生くらいだよな?年上を尊敬しろよなっ」
金髪大学生2人が俺に歩み寄ってくる。
「そうだ。あの時いた女、ここに連れてこいよ」
「いーねー。俺も見てみたい」
2人で勝手に盛り上がり始めた。俺はというと目線は合わせずにギリギリと歯ぎしりをしている。
このまま黙っていても俺の『顔』で伝わってしまうのだが─────。
俺の顔を使うまでもない。
「·······あんたらみたいなクズに夢を会わせるわけないだろ」
自分でも驚くほどに言葉がスラスラと出てきた。
しかし、これはいくら何でも喧嘩腰過ぎた言い方だ。
案の定、男達は怒りの面構えになる。
「っんだと!こら!」
「痛い目みねーと、わかんねーのか!?」
2人が怒鳴りながら更に接近してくる。
マズイと思った俺は反射で立ち上がる。
俺は喧嘩なんてしたことない、ましてや人の殴り方など知らない。
ここは逃げるか······?
逃げたら夢に連絡を入れないと、と思って固まった。
────やばい。夢との連絡手段がない。
家に電話しても、向かっている最中なら行き違いになってしまう。
───逃げられないか。
俺は覚悟を決めたが、頭は冷静だった。もっとパニックになってもおかしくないのだが、最近体験した事が『ぶっ飛び』すぎていて、混乱せずにいられる。
こんなの転移した時に比べれば大したことはない。
────こーゆー時、最初に殴った方が良くないんだよな。一発目は殴られに行くか。
痛いのは嫌だが、そんな事は言ってられない。
決心して俺はほんの少しだけ前方に体重を乗せた。
──────その刹那。
ごうっと唸り声をあげた風の塊──なのだろうか?木の葉を纏った透明の塊が俺と男達の間を通過した。
俺は思わず身体を後方に倒し、そのままベンチにへなっ、と座った。
男達はというと、地面に尻もちを着いており、驚愕の表情で風の塊の発生源を見ていた。
俺は視線を口を震わせている大学生に向けたまま放心状態で座っていると、凜とした───されど親の仇にでも話すような威圧的な声で、場の空気を震わせる女の子の声を拾う。
「春喜様に手を出すようなら、天国に行ってもらいましょう─────」
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