第28話 疑問と解決策
「元気だせよな」
「はぁ〜」
俺は
この前来た時とは逆の配置でいる。俺は勉強机の椅子に足を開いて逆さ向きで座り、友助はベッドで寝転んで雑誌を読んでいた。
「でもどうして········夢ちゃん······」
「春喜·······お前それ言うの六回目なんだが」
だって仕方ないじゃないか。夢に叩かれるなんて夢にも思わなかったから。────もちろん、ダジャレじゃn(以下略)
俺は右頬を押さえる。少しまだ痛い。
「しかも·····その数分後に親父の笑い声が聞こえてきたんだけど·······」
「·······お前の叩かれた後の顔が面白かったんじゃないのか?」
俺は友助の言葉を無視して昨夜の状況を思い出す。
夢に叩かれた俺は気が動転してしまい、急いで自分の部屋に戻りベッドにダイブした。何とかして寝てしまおうと、現実から意識を飛ばそうと試みたのだが全く眠気が襲ってこなかった。それどころか親父の笑い声が聞こえて更に目が冴えてしまった。結局のところ、三時間ほどしか眠ることが出来なかった。
寝不足の俺がこうして昼間から友助の家に転がり込んだのは、家に居たくないからだ。
今朝の朝食の時間は苦痛だった。ムスッとした顔の親父、絶対に俺の方を向かない夢、何事もなくご飯を食べる婆ちゃんの4人で朝食を取ったのだが、会話が「いただきます」「ご馳走様でした」「おかわりは?」の三種類しかなかった。気まずい時間が流れており、ご飯が久しぶりに美味しくないと感じてしまった。
朝食を食べた俺は一目散に親友の家に来て今に至るのだが──────。
過去を振り返っている俺に、読んでいる雑誌から視線を外さずに友助はめんどくさそうな声をあげる。
「そんなに夢ちゃんとやらに叩かれたのがショックなのかよ·······設定変えろよな」
「当たり前だろ······自分で言うのは恥ずかしいんだが、相当俺の事を好きでいる子なんだぞ?それが何故、ってなるだろ············あと設定言うな」
はいはい、と友助は感情を込めずに言ってから雑誌のページを捲る。
「····もしかすると止めようとしてくれたんじゃないのか?······そん時、春吉さんに相当酷い事を言ってたみたいじゃん」
「·······まあ」
冷静な今ならわかる。あれはちょっと言い過ぎたと俺も思う。少し反省している。
「それなら納得いくだろ」
「········そうなのかな」
俺がイジケていると、部屋の外から声が聞こえてきた。
「おにーちゃん、春喜さん。お母さんがご飯出来そうだから降りてきなさいって」
友助の妹の声が聞こえる。階段を上りながら声をかけているのだろうか。声量が少しずつ上がってきていた。それも二人分。
「今日は冷やし中華だってさ」
もう一人の妹がドアの前で声を上げる。若干だが声色が違う気がした。
「ああ、わかった。·····お前好き嫌いは無いよな?」
ドタバタと双子が階段を降りる音が聞こえると同時に親友は俺に尋ねる。
「ああ。無いよ。わりーな。またご馳走になっちゃって」
「別にいいよ。それに礼なら母ちゃんにしてやってくれ」
「そうするよ·········なあ、妹達って今幾つになったんだ?」
俺は何も考えずに友助に尋ねる。
「今か?·····14歳だが?」
へー、夢と一緒の年齢かぁ〜と考えていると、友助から訝しい目で見られる。
「お前······妄想の『国民的美少女』が脈無しだったからって友人の妹に手を出す気か?······一応聞くがどっちだ?」
「ちげーわ!······あと『国宝級美少女』な?······聞くな、そんな事」
流石にそれはないか、と
「とりあえず、お前はしっかり春吉さんに謝れよ」
「······へい」
俺は思いっきり嫌な顔をするが、友助はスルーする。
「春吉さんの方はそれで大丈夫だと思うが······」
「·······問題は夢ちゃんの方か·····」
俯く俺に友助は俺の肩を叩く。
「大丈夫だって·····きっとお前の為に
「·······だといいんだけど·········もうそれでいいです」
椅子から立ち上がりながら俺は昨夜の───叩いてきた時の夢の顔を思い出す。
少し悲しい顔をしていた。
それは止めるために俺を叩くのが嫌だったからなのか。それとも俺の事が嫌いになったための表情だったのか。
恐らくリビング近くで俺と親父の会話を聞いていたのだろう。最後、言おうとした言葉が恐らく昨夜、親父に向けていった言葉で一番悪い言葉になったと思う。
だとしても直前まで───いや、母さんについての内容からは酷い言葉を並べてしまった。事情の知らない他人が聞いても不快に思うかもしれない内容だった。あんな酷い事を言う奴だと、嫌われる理由になるのではないか。
なにはともあれ本人と話さないとな。
さっきから硬直している俺に友助は今度は背中を叩く。
「春喜、お前からポジティブ取ったら何が残んだよって────ん?」
さり気なく悪口を言ってきた悪友は話の途中で口を閉じた。
「·····どうした?」
「いや······背中のここ、破けてるぞ?」
友助は破けているであろう場所を指でグリグリしてくる。くすぐったいっす。
「えっ、まじか······結構気に入ってたシャツなんだが······」
今着ているTシャツに目を向ける。
「ショックだわ〜」
「悪いことは立て続けに起きるものだな·····それにしてもこのTシャツはお前が着ている割にセンスがいいな?」
「うるっさい。········これは前、梅と買い物行った時に買ったんだよ。セレクトはあいつだ」
「なるほど。納得。」
こら、と心の中で悪友をピコピコハンマーで叩いていると、当の悪友は俺に良いこと思いついた、と明るい声を出す。
「そうだ!気分転換に梅花とどっか行ってこいよ!あとついでに女心を学んでこい!」
「·····出かける気分にはなれないなぁ」
「じゃあせめて、女心·······ていうか嫌われた女の子と仲良くなる方法を聞いてこいよ」
········夢に嫌われたのは確定なんですか。
「まあ、それくらいはいいか·········でも」
「·····でもなんだよ?」
「相談相手間違ってるかもしれないぞ」
友助は何を馬鹿な、と言った顔になる。俺はその疑問に答えてやった。
「だって『食べ物を胃で味わえる』って言ってくるような女子だぜ?······適任なのかな······」
「··············お前ら普段どんな会話してんだよ」
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