第27話 衝突
眠れない。
七人での騒がしい夕飯から一転、現在は物音一つない沈黙が続く。何かしようと自室のベッドで横になっている俺は起き上がる。時刻は二十三時を少し過ぎていた。
最近───というか転移してから寝不足が続いている。何とか神経?が興奮しているのだろうか。今日は朝から少し神経質になっているのがわかる。
眠くなるには───つまらないことをするのが一番なんだっけ?つまらないことといえば······。
では宿題をやる·······とはならない。
俺は机を一瞥してまた横になろうとしたのだが───見てしまった。
·····しまった。謙信から預かったメモ、親父に渡してなかった。
初めて
早めに渡してくれとは言われてないけど····。
俺は立ち上がり、メモを手に取ってから自室を出た。
メモをパジャマのポケットに突っ込んでから親父の部屋に体を向けた。、ドアが空いているのを確認し、真っ暗な部屋の中には誰もいないことを知る。
········下かな?
残る候補を絞り、俺は階段を降りる。最後まで降りきる前にリビングで雑音が聞こえた。当たりを引いたのだろう。
「·······なんだよ、まだ起きてたのか」
リビングに入ってすぐに
「なんだよ······悪いかよ」
「別に·····で、何の用だよ」
「··········」
俺は立っているのも不自然かと思って親父が座っている目の前の椅子に座る。
「あっ·····わかったぞ」
「なに?」
座った瞬間に親父は口を開く。
「夢ちゃんのことだろ?」
「····ちげーわ」
違うけど、知りたい。めっちゃ知りたい。
出鼻を挫かれた俺は本題をとりあえず後にして転移について聞こうと思ったが、親父がくくくっ、と笑い出すので不穏な目を向けてみる。
「本当に顔に出るねえ〜春喜君は〜」
「······苛つくからその言い方やめろよな」
寝不足のせいだろうか····。無性に苛ついているのが自分でもわかる。
イライラしながら俺が答えると、親父は笑い顔を崩さずにビールを飲む。
「しっかしすごいよな〜夢ちゃん。お前のことを十年近くも好きでいるなんてよ」
「······それは確かに凄いと思う」
俺は正直に答えると、そうだろそうだろ、と親父は頷く。
「····十年も城に閉じ込められていて可哀想だなと思うこともあったけど·····」
······それは親父のせいも少しはあるだろ。
心の中でツッコむと親父は続ける。
「·····けどまあ、謙信の愛ってやつかな?たっぷりと愛情を受けていい子に育ったよな」
──ズキン
俺は俺の中で何かが刺さる音がした。
「家族愛って良いものなんだな」
──ズキンズキン
「ちょっと過保護なところもあるがな。·····そこはもうちょっと信頼して───」
───ズシャッ
「······アンタが他の家族の事を語れる立場かよ····」
俺は自分でもこんな声が出るのかと驚く。地を這ったような低い声が出てくる。心の底から怒りに似たような感情が出てくる。
おかしい。感情が抑えきれてない。
「·····小学校から
「·····でも母さんが───」
「別に婆ちゃんが嫌ってわけじゃない。けれど····」
俺が言葉に詰まっていると、親父は苦笑する。
「仕方ないさ·····美久は」
「っ!!母さんは悪くないだろ!!」
俺は思わず机を強く叩いて立ち上がった。
大きな音にビックリした顔の
そんな親父を無視し俺は興奮した声で言葉を吐き出す。
「それとも何か·····母さんが原因不明の病に侵されたのが悪いってアンタは言うのか!?」
───違う。こんな事を言いたいんじゃない。
「そんな事·····思う訳ないだろ·····」
親父も顔が怖くなってきた。さっきとはまるで別人のように豹変してきている。けど、俺は止めない。構うものか。
「ムカつくんだよ!自分の家族を放ったらかしにしているくせに他人の家庭に文句言ってさ!!」
変わらず睨んでくる親父に続けて怒鳴り散らす。
「それで何だ!?家族愛は良いものだなぁ!?」
────感情が止められない。止め処なく激流してくる。
「ふざけてんのか!?そういう事をアンタが平気な顔して言うと、こっちはストレス感じんだよ!毎回毎回!」
────誰か。止めてくれ。
「······俺に謝って欲しいのか?」
唸るような声で聞いてくる親父に上から見下して答える。
「へっ!まさか·····いるかよ!そんなもん!」
────じゃないと······取り返しのつかない事を口走りそうだ。
「······当時、母さんの担当医に聞いた事がある·····」
────駄目だ。その話は。
「······もしかすると治らない原因の一つに過度なストレスがあるじゃないかって」
「春喜·····お前·····何が言いたいんだ·····?」
親父が机をバンっ、と乱暴に叩き、立ち上がって両手を机をについて少し前のめりになった。
「分からないならはっきり言ってやろうか!」
───そんな事·····本当は思ってない。
「当時はストレスってものがよくわかってなかった····だけど今となって思う!アンタが原因で治るものも治らなかったんじゃないか!?」
「春喜···お前っ!」
親父は拳を強く握っている。いつ殴られてもおかしくない。
「·····それと俺、思ったんだがけど·····」
───やめろ。
「そもそも病気の発祥もストレスが関係してるんじゃないかって······!」
───そんなのは俺の妄想だ。
「なんだとっ!」
親父はもう怒りで顔が真っ赤になっている。拳に血管が浮き出ている。
俺は殴られる覚悟で目を思いっきり瞑り叫ぶ。
言葉は途切れ途切れになった。
「だから!······親父のせいでっ!·····アンタのせいでっ!·······母さんは────」
───パァァァン。
乾いた音がリビングに鳴り響いた。
右頬が痛む。
殴られた。当然だ。こんな酷い事を言ったのだから。
ジンジンと痛む右頬を······ん?······右頬?
──────あれ、何で右頬なんだ?
親父は右利きだ。向かいにいる親父が右手で殴ったら俺の左頬に拳が入るはずだ
殴られて幾分は冷静になれたのだろう。頭が少しだけ正常に働いている。
咄嗟に左手で殴ったのか?何のために?
「·······」
俺はゆっくりと目を開けた。
───すると目の前には見たことない親父の顔があった。キョトンとした顔をしている。
親父の顔がいままで見た中で一番形容し難い顔になっていて少し怖いと思った。
───ただ、ここで俺が一番怖いと思ってしまったのが、親父の表情ではなく、目線だった······。
親父の目線の先は俺のすぐ右横で止まっている。
恐る恐る俺は、親父が放っている目線の終着点の方を向く·········。
────そこには少し悲しい顔をした夢が立っていた───。
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