第26話 混沌


 どうしてこうなったのだろうか····。


 先程、梅花と潤一郎を家に連れてきた。その後、俺はすぐにお手洗いに行き用を足した。手を洗い全員がいるリビングに向かったのだが····。


 俺はリビングに入って周りを見渡している。


 入って左側──最奥はキッチンになっており、婆ちゃんが調理をしている。今日はビーフシチューにすると婆ちゃんは言っていた。出来上がるまでもう少しかかるそうで····。


 残念ながら通常通りはキッチンだけだった。


 キッチンの手前、入り口入ってすぐ左側に家族が食卓を囲むテーブルがあるのだが、そこには二人の女の子が座っている。───夢と梅花である。

 夢は肉食動物顔負けの獰猛な顔で·····対する梅花は可愛い物を愛でるようなデレっとした笑顔で対面している。──────夢さん、また顔が変化とらんすほーむしてないか?


 右側を見ると、テレビ前に置いてある最大五人座れるソファーに『父親』三人集まっている。ソファーの前にある低いテーブルには酒瓶が並んでおり、遠目で見ても既に瓶ビールが三本は空になっていると思われる。親父と謙信は既に頬を染めており、潤一郎は相変わらずの鉄仮面で春吉はるよしに対して厳しい言葉を投げかけていた。──────てか、もう三本も開けたんですか?この数分で?


 さて、俺も入り口で突っ立ってる訳にもいかないが。


 ──?、と俺は考える。


 「·······」


 決めた··········ガールズトークに混ざろう。


 俺はテーブルに近づく。

 夢の隣がいつも俺が座っている席のため、すっ、と特等席に無言で座る。二人とも会話に熱中してるのだろう。全くこっちを見ない。え·····俺そんなに影薄いですかね?


「へ〜·····夢ちゃんって言うんだ〜。可愛い名前だねっ!それで夢ちゃんはいくつなの?何処からきたの?何でここにいるの?ハルの事は、何処で知ったの?」


「······気安く名前で呼ばないでくれますか?質問をそんなに矢継ぎ早に言われても困ります。一つずつ言ってください。もちろん答えるかはわかりませんが。しかもハルって春喜様のことですか?名前の上二文字だと春吉様と春江様も同じなので混合してしまうと思うのですが?頭が悪いんですか?」


「ねえ!名前の由来とか知ってる!?私は自分の名前の由来知ってるよ〜。あと後で昔撮ったハルの恥ずかしい写真とか見る〜?」


「あの····話聞いてました?全然聞いてませんよね?─────写真は見せて頂けますか?」


 あっ······夢さん、最後欲望に負けましたね。


 いやいや!そんな事よりも······。


 ここに俺の居場所はない。


 早口で話す二人から離れるべく音を立てずに席を立つ。


 ────選択を間違えたな。


 気を取り直し、俺は『五十歳の会』に参加を決める。


 考えてみたら三人とも同い年なんだなぁ、と呑気な事を考えて近づくと、ヒートアップしていた。空ビンを持って大声を出している。


 これは俺が止めないといけないのか?


 仕方なく俺は冷静になってもらうために、に向って言葉を放つ。


「ちょっと!!落ち着いてください!」


「──っ!誰が『お義父さん』だ!お前にそのような名前で呼ばれる筋合いはない!」


「いや〜·····ついに私のことを『お義父さん』と呼ぶことを決めてくれたのか〜!」


「春喜ぃ〜!俺のことも親父おやじじゃなくて『父さん』って呼んでくれよぉ〜」


「··········」


 駄目だ!ここにも俺の居場所はない!


 となれば·····残る場所は一つしかない。


 俺は『オヤジ達』から離れて、キッチンの方へと歩く。


「婆ちゃ〜ん·····」


「·········やっぱりここに来たね」


 婆ちゃんはやれやれと、手元を見ながら俺の相手をしてくれる。


「·····初めにここを選択肢から除いたことを褒めてくれよぉ〜」


「·······何を言ってるんだい、この子は」


 ここなら安全だとは初めから思っていた。だが一番にここに来てしまうのは『逃げ』になると思ってしまった。これは刺激を求めてしまう俺の『さが』のせいなのだろうか·····。俺は自分のアイデンティティを守ったのだ。偉い。


 婆ちゃんの近くはとても平穏で居心地が良い。時より来る鍋からのいい香りが俺の気分を落ち着かせてくれる。


「·····もし無人島に一人だけ連れていけるなら誰?って言われたら婆ちゃん選ぶかも····」


「なんだいそれは?プロポーズのつもりかい?」


 はははっ、と笑う祖母を見て俺は気が緩む。


「そんなんじゃないけどさ·····婆ちゃんはいつまでもそのままでいてよね·····」


「何をおセンチなこと言ってんだい·····」


 料理も佳境に入ったのだろうか。さっきから味見を繰り返している。余裕も出てきているのだろう。婆ちゃんは俺の方に近づいてくる。


「それで······」


「·····何?」


 婆ちゃんはニヤついて俺の肘をつつく。


「夢ちゃんのこと······あんたはどう思っているの?」


「なっ!?」


 参ったな。本日この家のリビングには安住の地おれのいばしょは無いらしい───。

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