第25話 同じ屋根の下
「少し質問させて欲しいんだけど·····」
婆ちゃんは気難しそうな顔で夢の顔を見て話す。
俺はようやくこの状況に慣れた。
リビングにある食卓を囲むための四人掛けテーブルにTシャツ、スカート姿の夢と、Tシャツ、短パン姿の謙信が隣合って座り、夢の前に婆ちゃんが座っている。俺と親父は近くで突っ立って会話を聞いている。
泊まり込む理由は夢自身が祖母に大方説明した。その理由が『一人でも生きていけるように生活能力を向上させたい』───との事。
その他にはこの事で教えを乞うような人物が周りにいないという事。父親が遠くない未来、遠くに行ってしまうかもしれないという事など·······。
───凄いな。言葉は少し違ったけど嘘がほぼ無い。それに正直に話ても恐らく信じてもらえないだろうしな。実際昨日、
「はい。私が答えられることなら」
夢は臆することなく、婆ちゃんに目線を送っていた。
「歳はいくつなの?」
「十四歳です」
─知らなかった。そうなのか。
「その·······気を悪くしたからごめんなさい······お母さんはいるの?」
話の流れから婆ちゃんも感づいたのかもしれない。少しバツの悪そうな顔で質問する。
「·····わかりません。父上·····父と離婚してから会ってはいないので。生きているとは思いますが」
──知らなかった。そうなのか。
「そう·····ごめんなさいね·······。ちなみにだけど···さっきから
「はい·····知ってるというか····大好きです」
───知ってます。そうなんです。
俺は無性に背中が痒くなった。は、恥ずかしいっす!夢の
真顔で『あなたのお孫さんラブ』宣言をした夢に、婆ちゃんは不思議そうな眼差しを向ける。
「でも、何処で春喜を····」
疑り深く夢を見ている婆ちゃんに、親父がすっ、と会話に入ってくる。
「俺が
親父が身振り手振りでアリバイをつくろうとしている。
一通り親父と謙信の話を聞いていた婆ちゃんは目を瞑って考えている。
「あの····やはり迷惑ですよね?」
夢は申し訳無さそうな顔で婆ちゃんの顔色を伺っている。
「そうね·····」
ゆっくりと目を開き、喋りだす祖母をその場にいる四人は緊張の面持ちで紬出てくる言葉を待つ。
「一人でも生きていけるように······か」
まるで自分に言い聞かせるように話をした。
数秒後、決めたと言わんばかりに真剣な
「·····いいでしょう。滞在を認めます。それと私で良ければ生活に必要なノウハウは教えます」
「あ、ありがとうございます!!」
夢は戦国の朝で俺に謝った時と同じ速度で頭を下げた。テーブルに顔が当たるかと思った。
「ただし·····歳が近い男女がいるので変な事はしないように·····いいね?」
「はい」
返事をした夢は少し残念そうな顔になる。
そうだね。何故かは説明し辛いけど、怖いからね。────てか、婆ちゃんよ、普通この状況は男側に注意喚起するんじゃないんでしょうか?
「ついでに春喜も·····わかったね?」
「はい·····」
俺はついでですか、そうですか。
婆ちゃんはしょぼくれている俺を見てから
「·····後でうちの孫の好きなところ、教えてね」
「っ!はい!もちろんです!」
聞こえてるんだけど。
まあ、この
そうと決まればご飯作る量を増やしますか、と腕まくりしながら立つ
「お、お手伝いします!」
「いいのいいの。今日は『お客さん』でいて頂戴」
笑顔で断った婆ちゃんは今度は俺の方を向く。
「そうだ、春喜。あんた夢ちゃんを
「え、なんで?」
疑問に思っていると、情けないと言わんばかりの顔をされた。この一族、全員顔がうるさい。
「何いってんの!寝泊まりするならあの部屋しかないでしょ!ホントにもうこの子は·····」
ソファーで寝かすつもりかっ、と最後俺にトドメを刺してから婆ちゃんはキッチンに向かう。
「たしかに·····」
過去に宿泊してきた人はソファーで寝てたけど、今回は一か月以上いるんだから、寝る所以外も必要になる。───そもそも夢をソファーで寝かせられないし。こんな国宝級美人をソファーで寝かすような真似、たしかに出来ない。
いや、美人じゃなくても駄目か、と一人ツッコミを入れながら夢をリビングから連れ出そうとする。
「じゃあ·····案内するよ」
「はい。お願いします」
夢は何か気にしているのだろうか······複雑な顔で頷いた。
同意を得たので二人でリビングを出て階段に向かう。俺が五段ほど上がった時、下から小さめの声が飛んでくる。
「は、春喜様っ····」
「ん?····どうしたの?」
婆ちゃんに聞こえるとマズイと思っているのだろう······夢は小さい声のまま俺に話しかける。
「春喜様······黙っていてごめんなさい」
「あ〜·····この家に一か月ほど泊まるって事?」
俺は先程聞いていた話の流れから家に長期間泊まることは前から予定していた事だと思っていた。
夢は肯定して頷き、俺の言葉を待つ。
「そりゃー驚いたけど······」
───『その話、ぶっ飛びすぎ』
昨日親友から言われた言葉を思い出す。
友助が昨日言ってたように最近『ぶっ飛んでること』ばかりのせいか、そこまで衝撃を受けてないのかもしれない。
「·····驚いたどまりかな」
感覚が麻痺してるのかもしれない。転移する前の俺だったらこうはならないだろう。
そうですか、と夢は安心した表情になってすぐに顔を破顔させる。
「春江様も大変優しい方で良かったですわ」
「うん。マジでいい婆ちゃんでしょ?」
俺はニカっと笑う。
つられて笑う夢と一緒に階段を登りきる。
───
部屋のドアの前に立ち、ここだよ、と夢に教えてからドアノブを回す。
中に入ると、白を基調としたインテリアの部屋が広がる。白のシーツを敷いているベッド。俺の勉強机と同じくらいの大きさの化粧棚。あとはそこまで大きくないテレビと背の低い本棚があるのみ。家具は少なく、とてもシンプルな印象を与える。
「·····たまに婆ちゃんが掃除してくれているみたいだから、埃とかはないと思うよ」
夢は頷きながら部屋を見渡す。一通り見渡し終わってから俺に尋ねる。
「·····そういえば春喜様の部屋って····隣でしょうか?」
「そうだけど?」
何かあるのかな、と思っていると夢は赤面している。
「いえ····何でもありません····気をつけないと·····」
·······何を気をつけるんだろうか。
俺の頭の中で『はてなマーク』が渋滞していると、下から婆ちゃんの声が聞こえてくる。
「春喜ー!そろそろ梅ちゃん達に声かけてきてー!」
「はーい!」
俺は返事をしてから、そういやそうだったな、と独り言を言う。
俺はつい夢を見る。じっと見ているせいで夢は少しモジモジしてきた。今日も可愛いさ爆発中。
「な、なんでしょうか?」
「いや、その······」
······一応、釘は刺しておくか。無駄かもしれないけど。
「······今から幼馴染連れて来るけど······仲良くしてね?」
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