第23話 親友
「それで······俺にこの話を信じろと?」
「·····本当のことなんだって······」
俺は親友の
もしこれから
友助は勉強机に座って、夏休みの宿題をやりながら俺の話を聞いていた。俺はというと、友助のベッドに腰掛けて、背を向けている悪友に向って喋っている。
「そう言われてもな····」
友助は変わらず机に向っている。夏休みはまだ始まったばかりだというのに。真面目か。
「話がぶっ飛び過ぎてて、イマイチ信じられない」
すまんな、と言っているが感情が全くこもっていない。俺は優等生の背中を見て呟く。
「でも、真実だし····」
呟く俺に友助はため息をつく。
「春喜······お前は変わり者だと思ってたが、ここまでぶっ飛んでる奴だとは思わなかったぞ」
勝手に落胆している親友に、俺は言い返す言葉を探している。しかし、思いついた言葉はどれも曖昧で信憑性が無い。
「特にその美少女ってのが、お前を好きなのが理解できない」
「なっ、なんでだよ!?」
「·····しかも十年くらい会ってない設定なんだろ?お前を十年も好きでいられるって並の精神じゃないだろ」
遠回しにディスられている気がする。設定ってところには触れずに反論してみる。
「·······だから過去に俺と彼女の間であった何かが要因だと俺は考えてる」
「······お前のことを十年も慕うような大きなキッカケが、か?」
無い無い、と目線を宿題から離さずに右手を振る。
反撃したいところだが、堪えておく。友助は顔もカッコいいが、こいつがモテるのは顔が良いだけではない。長い付き合いだから俺にはわかる。顔だけいい男よりは数倍モテてる。
だから女絡みの話になると、友助にはいつも言い負かされる。
「そもそもそんなデカいキッカケならお前も覚えてるんじゃないのか?」
そう言われて俺は梅花と行ったお化けパフェのあるカフェを思い浮かべる。約束を忘れてしまい罰として梅花にパフェを奢った事を。
「·····どうせ俺は最近の約束すら覚えられない様な奴ですよーだ」
はぁ?何拗ねてんだよ、と呆れた声が飛んできた。
「そもそもその子って幾つなの?年下っていっても同い年くらいなんだろ?」
「·······」
────そういえば。
「······知らない」
「はぁ!?」
友助は今日初めて俺の方を向いた。黒縁メガネをかけたイケメンは、俺の発言に驚いた後に、さっきついたため息よりも更に大きなため息をつく。
「春喜·····その設定はガバガバだろ」
やれやれと左手を目元に当てている友助に俺はできる限りの反撃を試みる。
「し、仕方ないだろ!いきなり転移して動揺してたし、大好きな武将に会ったと思ったら、その人からは娘をもらってくれとか言われるし!その上、その
最後は若干キレながら俺は友人にまくし立てる。友助は最後まで聞いて、呆れ顔を崩さずに問い詰める。
「お前、最近戦国時代にタイムスリップするゲームやってなかったか?」
「······やってたな」
「·····のめり込みすぎて幻覚でも見てるんじゃない?」
ついにそのレベルまで行ってしまったか、と哀愁漂う目で友助は俺を見てくる。
「信じてくれよぉ〜」
俺は泣きそうになりながら友助にすがる。流石に泣きそうになるまで追い詰めた事に罪悪感があったのだろうか·······友助は今日一番の真剣な顔で俺を見つめてくる。
「その話····本当なんだろうな?」
「も、もちろん······」
いきなり真剣な顔をしてきたので、少し焦った。でも何とか真面目な顔は崩さずに親友を見つめ返す。·····これ何の時間?
数秒後、眉を寄せてしまった友助がやれやれと首を振る。
「春喜·····お前いつの間に嘘をつくのが上手くなったんだ?」
「······」
ああ。本当に俺の顔って正直なんだな。
これが分かっただけでも今日は収穫だな、と前向きに捉えた。
でも最後に
「·····一応、親父もこの話に絡んでるんだが·····」
藁にもすがる思いで最終兵器『師匠』を召喚してみる。
「····師匠が?」
友助は親父の弟子だ。────もちろんイタズラのである。
小さい頃から友助は親父に仕込まれていた。友助自体にも才能があったのだろう。俺は小さい頃からこの悪友にイタズラをされた。
ちなみに友助はイタズラは『愛』だと言っていた。
理由はわからないし、興味もないから、なぜイタズラは『愛』なのかは知らない。······別に知らなくて結構。
友助は顎に手を当てて、うーん、と唸る。
「いや〜·····春吉さんが関わると、この話の信憑性はもう地の底だな」
最終兵器、不発。
「もし、春喜の言っている事が本当だったら·····そうだな····学校近くにある高級焼肉店でフルコース奢ってやるぞ」
やめとけ。一年は小遣い無しになっちまうぞ。
心の中で忠告した後に、ゴチになります、とお礼も言っておいた。
「その言葉·····忘れんじゃねーぞ」
「?·····なんで笑ってんだお前?」
友助が不気味な物でも見ているような顔になったところで部屋のドアがノックされた。
「夕ご飯出来たわよ。春喜君も良かったら食べてって〜」
「はーい」
「ありがとうございます!いただきます!」
友助のおばさんにお礼を言って、二人とも立ち上がる。
「まあ····何にせよ·····」
友助は左手で後頭部を掻きながら右手でドアノブに手をかける。
「····また何かあったら相談してこいよ·····例え、お前の妄想話でもな」
───本当、こいつがモテるのは納得できる。
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