第20話 輝き


「·······おまたせしました。こちらスペシャルチョモランマチョコバナナパフェと、期間限定メロンパフェでございます。·······ごゆっくりどうぞ」


 今の男性店員、夢の事を二度見してたな。···········いや帰りにも見たから三度見か····。


 わかるぞぉ。わかる。俺も謙信の部屋から地蔵までの道のりでワンピース姿の夢を何回凝視してしまったことか。これは仕方がない。


 うんうんと頷く俺に対して、夢は目の前のパフェに目を輝かせていた。


「春喜様っ····!」


 夢は待ち切れないご様子。お化けパフェを早く食べたくてパフェ用の長いスプーンを左手で持っている。


「食べようか····」


「はい!いただきますっ!」


 待ってましたと言わんばかりに、さっそく夢はスプーンを自分の頼んだお化けパフェに向ってスイングする。大きめにすくったチョコアイスと生クリームを口いっぱいに頬ばった。


「·····う〜ん····美味しいです····!」


 まだ数回しか会ったことがないが、今まで見た中で一番いい顔をしているかもしれない····。夢の満面の笑みが炸裂している。眩しい····。転移する時と同じくらいの光量だっ····。


 現代こっちに来てからテンション上がってないか·····?


 俺は合掌してから、ゆっくりとスプーンを取る。


 目の前にあるのは期間限定のパフェ。メロンが沢山刺さっているパフェで夢が食べているお化けパフェよりは小さいはずなのだが····十分大きい。


 食べきれるかな、と少し不安になりながら、カフェの店内を見渡す。


 昨日も店は混雑していた。店に入るまでまた30分程待った。客層も昨日と変わらないのだが·····。


 大きく変わる点が一つ·····。


 ───それは俺等が座っているテーブルにところだ。


 理由は大方予想はつく。夢の存在だ。


 『戦国と平成のハーフ』····もとい『戦国武将の娘』は目下、お化けパフェに夢中である。それでも異様なを放っている。


 圧倒的容姿が店内の男性連中のハートをとりこにしていた。当たり前っちゃ当たり前か·····。だって『国宝級』ですもんね。····時おり俺に来る視線も何となく分かる····。分かりたくないのだが·····。


 どうせ俺には不釣り合いですよーだ·····。


「·········ねぇ、聞いてるの?」


「······ん?····あ、ああ·····もちろん」


「·····うそ····聞いてないでしょ?」


 隣の席のカップルが何だが雲行きが怪しくなり始めた時、夢は俺とパフェを交互に見た。


「春喜様?····どうかされましたか?」


「いや、何でもないよ。····いただきますっ」


 サクッとクッキーを少し砕き、メロン味のアイスと一緒に口に入れる。


「うん、美味い!····この店が混む理由も分かるよ」


 もう一口と、パフェにスプーンを立てる俺に夢は微笑み返しながら、ああ、そうだ、と手首に付けていた水色のヘアゴムを外す。


 食べるのに邪魔になったのだろうか。後ろで髪を結びポニーテール姿に変身した。その髪方も真に似合ってらっしゃいます····。


 いいね!と、心の中でグッドボタンを押した俺に、夢はへへっ、と笑う。また表情が読まれたかと思った。


 「····食べる時はこっちのほうが邪魔になりませんので」


「そうみたいだね。·····ちなみにその結び方の名前って知ってる?」


 俺は生のメロンを齧りながら聞いてみる。


「·····確か···『ぽにーてーる』·····だったような」


「そうそう」


「別名、『馬結び』というみたいですが」


 まあ、日本語に直すならそうなるのかな?


「春吉様が教えてくれたのですが····この『馬結び』をしている娘をまとめて『馬むすm───』」


「ストップっ!それ以上は言っちゃだめ!」


 何でですか、と首を傾げる夢に俺は上手く説明できない。何故かはよくわからないが、多方面から怒られそうとしか言えない。───あと、その仕草ポーズ可愛いから好き。


 夢は俺の解答を待ちながら、次はどこを攻めようかしらと、左手で持ったスプーンでパフェをつついている。


 そういえば······前から気になっていた······。


 話題を変えたい俺は、隣のカップルが少々してきたのを考慮して、先程より少し大きめの声で話す。 


「夢ちゃんって左利きなの?」


「いえ····私は····」


 言いづらそうにしている夢に、俺は何だろうと、先程の夢を真似して、をとってみる。····自分で言っといて切ない。


「····一応·····両利きです」


「すごいじゃん!両手を同じくらい器用に動かせるの?それとも使い分けてるの?」


「いや·····その····」


 夢は右手と左手を交互に見ている。


「····左手は箸や、包丁とか持つ時に使います····右手は······」


 何か神妙な顔で夢は黙ってしまった。俯いた視線はもうパフェには向いていない。


 何か聞いちゃまずかったかな·····。


 二人とも黙っているため店内BGMが大きく聴こえる。


 俺は気を取り直して、今している話を強引にやめる。


 「そ、そうだ。この後どうしようか?まだ転移かえるまで時間あるだろうし。····行きたいところある?」


 俺が無理やり押し込んだ助け舟に夢も乗船してくれた。


「そ、そうですね····しょ、書店っ!····書店に行ってもいいですか?」


「もちろん、おーけー」


 お互いに何とか湿気た面持ちから脱出した。


 調子を取り戻した俺は、考えて浮かんだ言葉をスラスラと並べる。 


 「それにしても、戦国あっちから来てパフェを普通に食べてるって考えると、中々凄い事だよね。歴史が動いているというか····」


「まあ、考え方によってはそうですが····」


 夢は苦笑交じりに答える。


「私は『改史』にも載っていませんので、何をしても歴史に影響を及ぼすことはないと思います····」


「········」


「もういい!帰るっ!」


「ま、待ってくれ!」


 ······今、隣の『カップルの歴史』が変わった可能性もあるんだけど·····。


「····食べ終わったら早めに出ようか?」


「そうですね·····混んでますし、そうしましょうか」


 そうじゃないないんだ、と心の中で突っ込む。·····明らかに店内がさっきからザワザワしている。·····しかもどのテーブルも楽しい話では無さそうなのは声色で分かる。早めに出たほうが良さそうだ·····。


 他人の阿鼻叫喚を聞いていても、パフェはちゃんと美味しかった。既に半分を平らげている夢に追いつけ、追い越せと思い、俺はメロンパフェを食べ進める───。

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