第12話 幼馴染み


「お待たせいたしました〜!こちらスペシャルチョモランマチョコバナナパフェでございま〜す!」


「おっ♪きたっきたっ!」


 超特大パフェが二つ、俺の前に現れた。


「こ、これ···食べ切れるのか····?」


「何よ····これくらい余裕でしょ?」


 高さが自分の顔二つ分くらいありそうなお化けパフェを前に、俺が弱音を吐いていると、幼馴染みの梅花うめかは余裕の素振そぶりをみせる。


 スマホを取り出し、写真を取りまくっている。インスタにでもあげるのだろう。


「ねえ···のスマホって最新型だよね?」


 スマホを見ながら眉間にシワを寄せた梅花が俺に問いかける。


「最新かは知らんが····変えたばっかだからな····たしかカメラの画質が特段いいやつ···」


「それって最新型だよっ。····ウチのより画質いいからハルのスマホで撮ってよ」


 面倒くさいなぁ、と不満の顔をして抗議すると、梅花は睨みつけてくる。


「····今、何でここに居るんだっけ?····ハル君····忘れちゃったのかな?」


「め、滅相もありませんっ!」


 撮らせていただきますっ!·····と俺はスマホを取り出し、パフェとパフェの横でウインクして舌をペロっと出している梅花を撮る。


 ここで断ろうものなら、空手黒帯である梅花のを食らってしまう。ただでさえこれから目の前のに立ち向かわなければいけないのに····。出来れば無傷で挑みたいからな·····。


「どれどれ、見せて〜」


 テーブルに乗り出して俺が今撮った写真を覗き見る。····柑橘系の匂いが俺の鼻腔をくすぐる。


「いいねっ!それウチに送って」


 満足したのか、笑顔で着席しパフェ用の長いスプーンを持つ。


「はいよ。····じゃあ食べるか」


 二人して『いただきます』をした。巨大パフェ攻略戦が始まる。


「····んっ!うまいな、これ!」


「ここ、評判良いところでね。来たかったんたよね〜。···うんっ!美味しい!」


 空いた左手で頬を抑えながら『う〜ん』と唸っている梅花を見て、疑問を吹っかけてみる。


 店内は若者達で溢れている。中年の方々や年配もいるが、圧倒的に若者が多い。


 味も本当に美味しい。炎天下の中、並んだ甲斐はある。


「けど····別に俺と来なくても、他の友達と行けば良かったんじゃないか?」


「いや〜それが私の友達、殆ど食べに行ったことがあるらしくて。二回目は行きたくないって言うんだよね〜」


 なんでだろ〜と不思議そうな顔で梅花はパフェを頬張る。両頬一杯に頬張る姿はリスやハムスターを連想させる。


「····まあ、一回食べればいいかなって思うのもわかるがな」


「え〜。こんな美味しいのに〜?」


 梅花はパフェにスプーンを突っ込みながら異を唱える。既に半分は食べ終わっている。·····嘘でしょ。俺まだ一割くらいしか食べてないんですが····。


「····まあ、ウチの友達みんな少食だし。無理に連れて行くのも悪いからさ〜。それでハルを誘ったわけよ。それなのに····」


 大きめに切られたバナナを咀嚼し終わってから梅花は続ける。


「夏休み初日に行こうって約束してたのに····ハルが忘れてるから····」


「悪かった!悪かったって!」


 むすーとしたジト目····やめていただきませんか?


「まあ、こうして来れたからいいけど···。」


「····他に一緒に行ってくれるやつはいないのかよ?」


 キョトンとした目で梅花は俺を見てくる。····なんか変なこと言ったか?


「····さっき、言ったじゃん。ウチの友達はみんな少食だって···」


「····いや、梅が所属している空手部の男子なら食えるんじゃないのか?」


 はははっと笑う梅花はナイナイと手を降って否定する。


「一緒に食べに行こうって誘える仲のいい男子部員はいないから〜。誘っても無駄だよ〜」


「····」


 果たしてそうだろうか。


 本人は全く理解してないようだが····梅花は俺たちが通っている高校の同学年の女子の中で、少なくともトップ3に入るであろう逸材だ。


 地毛である薄い茶髪。中性的な顔立ちとすらっと細身の身体。そしてギャルっぽい見た目とは裏腹に県下指折りの空手の使い手。性格もサバサバしており、男女共に別け隔てなく接することの出来る協調力。····いわゆるに君臨している。


「····誘ったら余程な用事がない限り、断られる事はないと思うが···」


「?····さっきから何をぶつぶついってんのさ?」


 欠点あげろと言われたら、このくらいじゃないだろうか?


「···ハル、さっきから全然進んでないけど····」


 梅花は、じーっと、俺のパフェのを見ている。梅花の食べていたパフェはもう空っぽになっていた···。マジシャンか?


「·····食べるか?···俺はもう結構腹いっぱいなんだけど····」


「···えっ!いいの!?ありがとう〜!」


 俺に礼を言うと、梅花は半分くらい残っている、俺が食べていたパフェを自分に引き寄せた。


「ハルったらやっさし〜い♪奢ってくれた上に、ハル《じぶん》の分もくれるんだもんっ!」


「···えっ···俺が奢るの?」


「····約束破ったのはどこのどなたでしたっけ?♡」


「····喜んでお支払い致します···」


 苦しゅうないっ!とパフェを堪能している幼馴染みに、俺は成す術がなかった。


 今月の小遣いがぁ〜と心の中で泣き叫んでいると梅花はの最下層を攻略しながら聞いてくる。


「···この後、どっか寄ってく?」


「いや···お金無いから帰ろう··」


 これ以上の出費はマズイ····。


 そっか、と一人呟く梅花を放っといて、俺は次に小遣いが入るまでの日数を数えていると、俺のスマホが揺れた。ラインでも来たかと思い、確認すると婆ちゃんからだった。


「どしたの?」


「婆ちゃんから····友達と夕ご飯行くらしいからテキトーに済ませてって····」


「ふーん···」


 『わかった。いってらっしゃい。膝悪いから無理しちゃ駄目だよ』と祖母にラインを送った。


 ····ってことは今日の夕ご飯は自腹ですか?····いや、流石に家に軍資金ゆうはんだいは置いてくれてるはず····


 俺はうーん、と唸っていると、梅花はごちそうさまでしたっ、と言ってスプーンを置いた。


「テキトーって···ハルは特別食べたい物あるの?」


「いや、無いけど····」


 梅花は俺の返しに、ふふーん、と鼻を鳴らす。


「なら···ウチで食べていけば?」

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