第10話 戦国と現代


 取り急ぎ俺が確認したいのは三つ·····


 ───まず一つ目が時間軸ついて。


 これは結論から言うとらしい。


 戦国こっち現代あっちの時間は連動していて、『トリガー』を起動させれば、一秒の狂いなく、自分が今現在、時代からへの時代に転移できるという。そのかんの年数は444·····と決まっている。


 つまり昨日、俺が現代あっちでプラモデルの箱を開けたのが2023年7月22日午後18時00分丁度だったとする。すると444年前の1579年7月22日午後18時00分丁度に、戦国こっちの城近くの地蔵の前にたどり着く。


 また戦国こっちの一秒と、現代あっちの一秒も同じ時間のなので、時間がズレることはない。


 この法則を見つけるのに親父と謙信は数年かかったらしい····。お疲れ様でしたっ!


 ───2つ目に聞いたのは『物の持ち運び』について


 夢の自室にあるで俺の写真等を見たところ、転移するにあたって、物を持ち運ぶことが出来ると確信はしていた。


 詰めたいポイントは量と持ち運び方。


 量に関しては頑張れば····らしい。

 ただこれに関しては、謙信がの歴史を変えることに消極的な為、現世から持ち運ぶ物は慎重に選んでいるそうな····。


 そして持ち運び方だが····

 これには二人とも色々と試したようだが、手に持っている物、携帯している物、背負ったり掛けたり、携行している物は持っていける、とのこと。


 物の状態も、そのままで持ち運び出来る。

 試しに熱々のシチューを持って転移した場合、移動先の時代に着いても、熱々の状態になっている·····ということ。


 服については勿論、着たまま。·····そりゃーそうだわな。ラッキー助平なことは起こらないそうです。

·····べ、べつに残念とか、思ってないからっ!

 

 ───そして最後に


「夢について····かい?」


 二、三歩先を歩く謙信から確認を取られる。


 俺は頷きながら、謙信について歩く。


 何故、謙信の部屋で最後まで話を聞かずに、現代あっちへのトリガーである地蔵前に向かっているのかというと、質問の一つ目であった、時間軸が関係している。


 謙信曰く、太陽の位置的に現在午前10時くらいだという。つまり今、現代むこうも午前10時くらいになる。


 転移した場合、転移した時代ばしょにしか存在しない。今現在、現代むこうでは、俺が

 昨夜、プラモデルの箱を開けたのが18時ごろだから、16時間ほどにしている。


 今まさに婆ちゃんが俺を探しているかもしれない。そう考えるとあまり気分が良いものではない。


春江はるえさんには、何処かに出かける事は伝えてないよね?」


 北家のを知っている謙信は俺に問いかける。


「はい。····まさかこんなこんな事になるとは予想できないですから····」


 今度転移する時は考えておかないと。ましてや戦国こっちで泊まりになったら、しっかり口合わしないとな。戦国こっちで泊まりそうな時は友達の家に泊まりに行くことにでもしようか····。


 ····泊まれる程の中の良い友達って限られるなぁと考えながら、謙信と共に城の階段を足早に降りていく。


 広間や夢の部屋がある最上階と、その一つ下の謙信の自室がある階のみ、廊下に日光が差し込む造りになっているため、城の半分は暗く、何処か不気味だ。


 これからは何回も行き来するであろう城の構造を頭に入れながら、俺は話をに戻す。


「それで····その娘さんについてなんですが·····」


 ああ、そうだったね、と謙信は続ける。


「聞きたい事とは?」


「····俺が知っている歴史···『改史』で謙信さんに娘は存在していないんです」


「····」


 謙信は無言だった。俺に続きを促しているようにみえた。


 本丸を出て、城門に向かう途中は日が差している。夏の暑さを全身に感じる。


「俺の勝手な推測です。····間違ってたら言って下さい····。娘さんは·····としてこの城に置いてないですよね?」


「····流石だね」


 城門を抜けた時、見晴らしの良い所に出た。城自体が山の上であるため、ここからの景色も良い。


 景色を眺めながら俺は謙信の説明を待つ。


「····にしてしまうと、色々と厄介でね。····元から私は夢に家を継いでもらうつもりはなかったから。そのため養子をとったのに·····。養子がいるのに、直子じきしがいるのは良く無いことだというのは春喜君にもわかるよね?」


 夏の風に髪を揺らしながら謙信は続ける。低音ボイスのいい声が風を切り裂き、隣りにいる俺の鼓膜を刺激する。·····親子揃っていい声してるなぁ。


「···だから、周りには、······夢はってことになっている」


「なっ!」


「····おや?····これは想像してなかったかな?」


 戦国こっちでは俺は夢のなのか!···色々と比べられそうだ。顔とか、顔立ちとか、顔面とか、フェイスとか····。やだな····お兄ちゃん複雑。


 「本当のこと知っているのは私と夢、一部の家臣と、数人の侍女だけだよ。」


「····なぜ親父の連れ子にしたんですか?····こういう事·····あまり言いたくないですが····戦国時代って戦ばかりだから孤児が数多くいましたよね?·····孤児ってことにしようとは考えなかったんですか?」


 謙信は顎を擦りながら応えてくれた。その横顔は少し笑っている。


「だって····戦国こっちの顔立ちじゃないだろ?····孤児っていうならもっとの顔立ちじゃないと」


「·····」


 確かに。謙信と夢本人がって言うだけあって夢は戦国こっちにはとても珍しい顔立ちだ。その点、『親父の子』ってことなら合点は付く。


「初めは夢を城下町に住まわせようと思ったんたが···春吉があまり部下から好かれてなくてね。····昨晩、広間にいた部下が春吉の事悪く言ってた事、聞いていたかい?仕返しだの、俺が先にやらせろーだの」


「·····そういや言ってましたね」


 あの物騒な事を言っていた家臣に対してもイタズラばかりしていたからだろう····。本当にご迷惑をおかけしております。


「だから夢を城下町に置いちゃうと、春吉を良く思わない部下から酷い目にあわされるんじゃないかと思って城に住まわせてるんだよ。一人でも基本的に外をあるかせない、いや、歩かせられないからね····。別に夢は悪くないのに···」


「····親父が本当にごめんなさい」


 何回子供に謝らせるんだ。あの親父は。しかも夢にまで迷惑かけて····。

 

 こうべを垂れている俺に対して、謙信は口角を上げている。


「かまわん。····ただ、春吉のせいで夢に迷惑かけて申し訳ないと思うのなら、春吉の子供である君が、代わりに責任をとって夢を嫁にしてくれても構わないんだよ。····私はもちろん大賛成だが」


 ····なんか上手く誘導された気がする。


 俺は、できれば責任なんて感情で結婚はしたくないものだと唸っていると、謙信は太陽を見て目を細めた。


「いかんな。急いでいるというのに、話し込んでしまった。····地蔵はすぐ近くだ。····早く行こうか。」


 俺は額の汗を拭いながら先を行く謙信について行く。

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