俺の嫁（候補の一人）は大好きな戦国武将の娘さん！？しかも娘さんは溺愛を通り越し·····

第6話 夢の思い

　真っ直ぐに見つめられても困る。

「····迷惑でしょうか？」

　少し潤んだ瞳が俺を捉えて離さない。反則だろ。

「いや、迷惑とかじゃなくて····。君は····それでいいの？」

　この子は納得して現代（こっち）に来るのであろうか。考えたくもないが···父親の最期を近くで共に迎えたいと思ったりしないのだろうか。こればかりは幾ら考えてもわからないことであろう。何だって俺は現代の人間だ。戦国（いま）を生きる者の気持ちを完全に理解するのは不可能である。

　「父上から未来の話を聞きました。····もちろん、直ぐに答えは出ませんでした。この時代に生きてきて、現代（そっち）で生き長らえて欲しいと言われても、····正直に言うと自信がありませんでしたので。···でも、父上の気持ちは痛いほどよくわかりました。」

　ゆっくりと言葉を紡ぐ夢は目を細め、少し遠くを見つめる。今にも泣き出しそうな顔になっている。俺は胸が痛むのを感じつつ聞き入る。

「父上の願いに少しでも応えてあげたい。····その思いも事実です。····それでも父上と離れてしまうことを考えると····」

　夢は言葉に詰まらせると袖で自分の顔を隠した。

　こういう時、気が効く言葉を掛けられない自分が頼りなく、情けないと思ってしまう。考えても上手く取り繕うような返しが思い浮かばない。

　····目の前の女の子一人を元気づけられることも出来ないのか···？そもそも俺に気が効く言葉なんて何時間考えたって出てこないだろう。何を体裁を保とうとしてるんだ。しっかりしろ。

　考えるより先に口が動いてしまった。

「····俺がいるからさ···」

「····え····」

「····俺がいるから·····君の気持ちもわかる····とは自信をもっては言えないし····軽く言われるのも気に食わないかもしれないけど···。少しくらいなら俺は君の助けになれると思う···」

「····春喜様···」

「···だからその····俺がいるから、現代（むこう）でも一人じゃないっていうか····、ほら····親父もいるわけだし····」

　·····ここで決めきれないのが俺が駄目なところなのだろう。格好がつかない。

　情けなさに一人反省会していると、夢は涙を拭きながら微笑み返す。

「···また言ってくださいましたね····」

　声が小さくてよく聞き取れなかった。

「····え？····なんて？」

「····いえ、何でもありません。····春喜様は何も変わっていなくて安心しました。···私の大好きな春喜様のままでいてくれて良かったです」

　····今なんておっしゃいました？····俺の事が···大好き？って言いましたか····？謙信の言ってた事は事実だったのか····。今まで疑っていたのだが····本当なのか？

　それに面と向かって同年代の異性から好きと言われたのは初めてだ。理解が追いついた時、顔がみるみる赤く····熱くなっていくのがわかる。恥ずかしい気持ちもこみ上げてきた。いかん！話題をそらしたい！

　「あ〜···それと、君は現代の顔立ちをしてるから····ファッション····そう、服装とかも似合うんじゃないかな〜····なんて」

　何言ってんだ俺。

「···ふふふっ。そうですね。」

　···良かった〜。これで『何いってんだこいつ』みたいな顔されたら立ち直れない。命拾いした。

　もう泣いていない夢を見ながら俺は考えてしまう。本当にこの美少女がさっき会った謙信の実の娘なのか。疑問に思ってしまう。

　頭をグルグル働かせている俺に、夢は先ほど俺のしょーもない話の続きをしてくれる。

「私の顔は····そうですね····分かりやすく言うなら、戦国と平成のハーフですから、現代の服装も似合うと思います」

　はい確定。『戦国と平成のハーフ』なんてパワーワード、思い付くのは親子なんだなと思う。

　呑気な事を考えていると、夢は突然また袖で顔を隠した。また泣き出すのかと思ったが、違ったようだ。

「すいません···少し眠気が····」

　どうやら欠伸をしてしまったらしい。

　そういや、今何時だ？結構遅い時間なのではないだろうか。しかも現代と違い、昔は早寝、早起きをしているとも知っていた。夢もかなり眠いのではないだろうか。いかんな！睡眠不足は肌によくない！

「ごめん、つい話混んじゃって····。そろそろ寝た方が良いよね····。明日、また謙信さんに現代への帰り方とか教わらないとだし。····今度はシラフの状態で話したい」

「そうですね。すみません···。父上はお酒が大好きで···。感情がとても豊かになるというか····感情の起伏が激しくなるというか···」

　やはりシラフだともう少し穏やかなのかな。お酒は怖いね。俺も飲める歳になったら気をつけないと。

　「それで····謙信さんは、この部屋の物置部屋？···で寝たら良いって言ってくれたんだけど·····。そこで寝ていいの？」

「ふぇっ！！」

　夢は突然、真っ赤に顔を染め上げ、奇声をあげた。どっから出てくるんだ、そんな声。

「えっと····駄目なの？」

「いえ·····。駄目というか····なんというか····」

　今まではっきりと喋っていた夢が突然取り乱す。顔は真っ赤な状態で、汗を少々かいている始末。

「父上ったら····。でも···いつかは····バレますよね····」

　····バレる？あの部屋には見られたら何か都合の悪いものがあるのかな？

「····大丈夫です。····その部屋を使って下さい····」

　俺はありがとう、とお礼をいい、ずかすがと部屋の中へ、つながっているとされる部屋の引き戸前にきた。

「でも···そうですよね····これで····」

　顔を赤くしたまま夢はぶつぶつと、何か呟いている。その呟き方も父親譲りなのだろうかと呑気な考えをしながら引き戸をあける。

　───戸を開けた瞬間、自分の口も開きっぱなしになった。

　二畳ほどでとても狭く、寝心地が悪そうだと思った。

───わけではなく。

　目に飛び込んできたのは、俺が写っている写真、小学校、中学校で貰った表彰状や賞状であった。よく見ると小学生の図工の授業で作った作品まで····数多く壁に飾られてある····。

　こ····この部屋は····！

　俺が声にならない叫びを出していると、背後にいた夢がまだぶつぶつと独り言を言っている·····。時おり、艶かしい息遣いも聞こえてくる····。

「これで····」

　振り返り、夢の顔を見て俺は全身の鳥肌がたった。

　夢の目は───完全にイっていた。

「これで····春喜様ご本人が入れば····私の推し部屋は完成ですわね····」