第17話 贈り物

ラフティの意識は深い闇に引きずり込まれていた。彼の思考はぼんやりと霞み、目の前の世界が歪んでいくのを感じる。彼女の甘美な囁きと触れ合いの余韻が、彼の心を完全に支配していた。


しかし、その瞬間、短剣が鈍い光を放ち、ラフティの目に鋭い閃光が差し込んだ。


「……これは……」ラフティの朦朧とした意識が、その光によって一瞬だけ正気を取り戻す。彼は必死に自分の意識を保ち、リリアナの幻覚から抜け出すために短剣の刃を強く握りしめた。


「リリアナ、もうやめろ……!」ラフティは、力を振り絞りながら叫ぶ。そして、その瞬間、彼はリリアナの意識の中に深く侵入していくのを感じた。サキュバスとして堕落したリリアナの心の奥底にある何かを求め、彼は進んでいく。リリアナの深層心理に辿り着くと、そこにいたのは漆黒の闇に囚われた本来の彼女の姿だった。


彼の手に握られた短剣からは、鎖が光り輝くように現れ、彼女にまとわりついている闇を浄化するように、リリアナの意識を縛り上げていく。「これが……心の鎖か……!」ラフティはその力を理解し、鎖を強く引き絞ると、リリアナのサキュバスとしての力が徐々に弱まっていくのを感じた。


「ぐっ……!」リリアナの体が苦痛に震え、彼女の動きが鈍くなっていく。


ラフティは自分が勝利に近づいているのを感じつつも、心の奥底でリリアナの悲痛な叫びを聞いた。かつての彼女は、こんな姿になることを望んでいなかったはずだ。


その時、瀕死の状態で意識を失い倒れていたミリアが、ゆっくりと立ち上がった。彼女の手には、かつてリリアナからもらった「光の指輪」が握られていた。


「リリアナ……これで終わりにしましょう……」ミリアは息を切らしながらも、決意を込めてその指輪を掲げた。光の指輪が輝きを放ち、リリアナを包み込む。


リリアナは一瞬、動きを止め、その瞳にかつての優しい光が戻ってきた。「お姉様……?」


「リリアナ……ごめんね。あなたをこんな姿にしてしまって……」ミリアの声は震えていたが、彼女の瞳は涙で潤んでいた。


リリアナは微笑んだ。「ふふ……お姉様、どうやら私はここまでのようです。ですので、最後に私からお姉様に向けて贈り物をします」


ミリアが驚いて動けない間に、リリアナは彼女の首筋に顔を近づけ、静かに噛みついた。ミリアの体が震え、冷たい感覚が全身に広がったが、同時にそれが不思議なほど心地よいものに感じられた。


「お姉様に……私の……全てを……託します……」リリアナの声は静かで、まるで風のようにかすれていた。彼女の遺伝子が、ミリアの体内に流れ込むと同時に、リリアナの肉体は徐々に消滅し始めた。


「リリアナ……!」ミリアは叫びながら手を伸ばしたが、彼女の手の中でリリアナの姿は消えていく。最後には、わずかな光だけが残り、静かに消えていった。


ミリアの体は次第に回復し、重傷だったはずの彼女は、まるで何事もなかったかのように立ち上がった。しかし、彼女自身もまだ気づいていなかった。リリアナから託された新しい命が、すでに彼女の体内に宿っていることに。


ラフティはその様子を見つめながら、ただ静かにミリアに寄り添った。リリアナを失った痛みは大きかったが、二人は互いにこれからも共に戦うことを誓い、その場を後にした。


物語はまだ続いていく—リリアナの贈り物と共に。

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