第9話 出発の時

朝日が高く昇り、ラフティとミリアが再び城下町を出た時、廃墟となった町に冷たい日の光が差し込んでいた。空気にはまだ戦闘の余韻が残り、静けさの中に不気味さが漂う。


「北へ向かう道は険しいわ。しばらくは山道を進むことになるけど、大丈夫?」ミリアが慎重に声をかけた。ラフティは頷きながら、肩に背負った荷物を少しだけ持ち直す。昨日の戦いで身体はかなり疲弊していたが、彼の心はより一層強くなっていた。


「もちろんさ。あんな戦いをくぐり抜けたんだ。これくらい平気だよ」と、ラフティは笑みを浮かべたが、その表情には少しだけ疲れが見え隠れしていた。


二人はアークレインを背にし、険しい山道へと足を踏み出した。道中、ラフティはしきりに辺りを警戒しつつも、時折ミリアに視線を投げかける。彼女の剣技や落ち着いた態度に尊敬の念を抱いていたが、どこか謎めいた彼女の過去や、何故この旅に同行しているのかについてはまだ多くを知らなかった。


「君は、ずっと旅をしてきたのか?」ラフティは唐突に尋ねた。歩みを揃えつつ、ミリアは小さく頷いた。


「ええ、私は長い間いろんな土地を渡り歩いてきたわ。でも、今回の旅は少し違う。リリアナが…あの子を助けるために、どうしても私の力が必要だと感じているの。彼女は私にとって大切な存在だったから」


ミリアの言葉に、ラフティは一瞬目を見開いた。ミリアが抱えるリリアナ姫への思いが、単なる使命感以上のものであることに気付いたのだ。


「そうか…リリアナ姫が君にとってどれだけ大事か、よく分かるよ。僕も、彼女を救いたいと思ってる。これが僕の初めての大きな冒険だし、何が起こるか分からないけど、絶対に諦めない」


二人はしばらくの間、無言のまま歩き続けた。山道の険しさは次第に増し、道端には古びた木々や岩がゴツゴツと転がり、日差しがどんどん弱まっていく。辺りの静けさに、不気味さが漂い始めた。


「この山道を抜けたらディアナ村に差し掛かるわ。それまでは気を引き締めて進みましょう。何が待っているか分からないから」と、ミリアが声を潜めて言った。


ラフティは大きく息を吸い込み、短剣をしっかりと握りしめた。彼の心に恐れはあったが、それ以上にリリアナ姫を救うための決意に燃えていた。


夜通し険しい道を越え、二人の前に見えたのは一見平穏そうな村だった。しかし、その平和な外見の裏には、想像もつかない危険が待ち構えているのだと、ラフティとミリアはまだ知る由もなかった。


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