第7話 それぞれの決意

1.ラフティの視点


ラフティは城下町の瓦礫の中を歩いていた。崩れた家々、燃え尽きた市場、至るところに無残な光景が広がっている。生き残った者はわずかで、町の静寂は異様なほどだった。彼は短剣を握りしめながら、警戒しつつも町の中を進んでいった。


ふと、瓦礫の隙間から顔を出している中年の女性に目が留まった。ボロボロの服に、血と泥で汚れた顔。その目は恐怖と絶望に満ちていた。


「おい、大丈夫か?」ラフティはその女性に近づいた。


女性は顔を上げ、怯えた様子でラフティを見た。だが、彼が手を差し伸べると、その手を掴み、息を荒げながら話し始めた。「あなた、聞いて……姫様……リリアナ姫が……」


「姫様がどうしたんだ?」ラフティは急かすように尋ねる。


「魔物……魔物が姫様を連れ去ったのを……私、見たのよ。上空を飛ぶ魔物の腕の中に……北の方角へと向かっていったわ……」


ラフティは息を呑んだ。アークレインの姫がさらわれた――それだけで重大なことだ。しかし、今の彼にできることは限られていた。「北か……ありがとう。あんたは安全な場所に隠れてろ。後は俺がなんとかする。」


女性は頷き、再び瓦礫の影に身を潜めた。ラフティは短剣を腰に収め、目を鋭く光らせた。北――その方角に向かうことを決意した。


2.女剣士の視点


女剣士はアークレイン城の内部に足を踏み入れた。あちこちで崩れた石壁、燃え尽きた装飾品、そして倒れた兵士達の姿が目に入る。彼女の足音だけが静まり返った城内に響いていた。


「ここも……酷いものね……」彼女は警戒を怠らず、剣を片手に持ちながら歩みを進めた。


突然、微かなうめき声が聞こえた。彼女は耳を澄ませ、音の出どころを探した。音の先には、一人の兵士が瓦礫に埋もれ、血にまみれながらもわずかに息をしていた。彼女は急いで駆け寄り、彼の顔をのぞき込む。


「大丈夫か……?」


兵士は重いまぶたを開き、かすれた声で言葉を絞り出した。「姫……リリアナ様が……魔物に……さらわれた……」


「なんですって?リリアナがさらわれた……どこへ?」女剣士は焦りを隠しきれなかった。


兵士は息を詰まらせながら、断片的な言葉を紡いだ。「魔物達の……会話を聞いた……姫様は……北にある……水の神殿へ……連れて行かれた……」


「水の神殿……?」女剣士はその言葉に耳を傾け、すぐに理解した。北にある水の神殿――それはアークレイン城から遥か北の場所にあり、古い伝承によれば魔物達の隠れ家とも言われている場所だった。


「水の神殿の魔物達と私の剣では相性が悪い……それに神殿への道中も強力な魔物達の領域を通らなければ辿り着けない……先の事を考えたら協力者が必要ね」女剣士の頭の中に先ほどの少年の姿が思い浮かぶ。


「ありがとう……これでリリアナを助ける手がかりが掴めたわ」彼女は感謝の言葉を告げたが、兵士は既に息を引き取っていた。彼の目は安らかに閉じられ、その手には剣が握られたままだった。


女剣士は目を閉じ、一瞬の黙祷を捧げた後、再び剣を握り直した。「水の神殿……そこにリリアナがいるのなら、私は行くしかない」


彼女は静かに城を後にし、北の地へ向かう覚悟を固めた。






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