第6話 炎の剣士
ミノタウロスを倒した女剣士はフードを外し荒い息を整えながら、倒れたラフティの元に近づいた。
「ふぅ……やっと倒せた……」
ミノタウロスの巨体が地面に崩れ落ち、城下町の通りには静寂が戻った。ラフティは肩で息をしながら短剣を鞘に収め、体中が痛むのを感じた。女剣士は炎の剣を消し、彼の隣に立っていた。
ラフティは痛む体を押さえながら、女剣士に視線を向けた。彼女の赤いミディアムヘアが風になびき、戦いの後でも乱れることなく美しく輝いている。目の前に立つ彼女は、どこか冷静で頼りがいがある雰囲気を漂わせていた。
「強いな……」ラフティは思わず呟いた。彼女はただの旅人ではない。フード付きの軽装で身を包んでいるものの、その立ち居振る舞いからは長い旅路で培った確かな剣の腕が感じられる。そして何より、その美しさには自然と目を引かれるものがあった。
彼女が剣を収める動作も洗練されており、目が離せない。ラフティは不意に、自分がどれほど彼女に助けられたのかを実感し、少しだけ自分の無力さを感じた。
「助けてくれて……ありがとう」とラフティは息も絶え絶えに言った。
女剣士は無言でうなずき、剣を鞘に収めると、ちらりとラフティを見下ろした。「あんた、もっと鍛えた方がいいわ。あのぐらいの魔物、私がいなくても倒せるようにならないと、命がいくつあっても足りないわよ。」
その言葉に、ラフティは苦笑いを浮かべた。「確かに、今の俺の力じゃ全然足りないな……」
しばらくの間、二人の間に沈黙が流れた。周囲の瓦礫と血の臭いが、戦いの激しさを物語っていた。
「それじゃあ、私は行くわ。助けたのはたまたまだから、これ以上あんたの面倒を見る気はないから、じゃあね」
女剣士は淡々とした口調でそう言い、踵を返して歩き出した。
ラフティは驚いて彼女に問いかけた。「待ってくれ、どこへ行くんだ?」
「私は私の目的がある。それに、あんたと一緒に動く理由もない」女剣士は振り返らずに答えた。その背中には、どこか冷たい決意のようなものが漂っていた。
ラフティはしばらく彼女の後ろ姿を見送っていたが、すぐに気を取り直した。ここで引き止めても仕方がない。今の自分には、戦いの力も、強い信頼関係もまだ築けていない。それが現実だ。
「そうか……じゃあ、またどこかで会えたら、その時は……」
その言葉は風にかき消され、女剣士の姿は闇の中へと消えていった。
「そういえば、彼女の名前も聞いてなかったな…」
ラフティは深い息をつき、己の未熟さを痛感しながら、改めて心の中で覚悟を決めた。
「もっと強くならないと……俺が、この世界を守るんだ」
そう誓うと、ラフティは再び前に進むため、重たい足を引きずりながら歩き出した。しかし、彼の背後には、壊れた街と倒れた市民達の死体が横たわり、現実の厳しさが追いかけてきていた。
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