第5話 死んだいのちの使い方

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「おにーさん。じゃーん、どうかな?」


「あっ、ごめんね。着るものなくて、勝手にシャツ借りちゃった」


「まぁ、物理的には借りてないんだけど」


「触ると着れちゃう感じで借りました~、幽霊ってそこら辺便利だよねー」


「どうかな、一回くらい頑張ってみようかなって……」


「実体化っていうか、見える人にならちょっと触れるくらいまで頑張ってみた」


「たはは、おにーさん。慌てて可愛い」


「なーんにもしないよ。ただ一緒に寝るだけ」


「添い寝、してあげたくて」


「幽霊の添い寝は嫌?」


「じゃあ抵抗しないで、ぎゅってさせてよ」


「目を閉じてて良いよ。アタシはおにーさんのこと見てるから」


//位置:1→3


「ちょっとお隣失礼~」


「ふふ、ぎゅーっ」


「まぁ、感触は微妙にしか伝わんないかも。幽霊だし」


「でもふぅー。たは」


「吐息とか、そういうのはちゃんと熱いでしょ?」


「結構ハツミちゃんはおにーさんに自分の話聞いてもらえて」


「満足したから感謝してるんだよね」


「んでもって折角記憶に残してもらえるなら……」


「おにーさんには長生きして欲しいとか、思っちゃうワケ」


「打算的な幽霊でゴメンね」


「ふぅー、ふぅー」


「お耳に優しく息吹きかけて」


「だ・い・す・き」


「嘘じゃないよ、でもこれは未練をなくすためのものだから」


「おにーさんはそんな重くとらえなくていいよ」


「だ・い・す・き」


「だ・い・す・き」


「ずーっとずーっと好き、見てると目が離せなくて、あぶなっかしくて」


「優しくて、繊細で、一人だと孤独で潰れちゃいそうなおにーさん」


「アタシの歌を聞いて泣いてくれて、生きようとしてくれたおにーさん」


「思わず声をかけちゃうくらい気になって、こんな風に一緒に生活して」


「あぁ、この人いいな、好きだなって思っちゃうくらいには」


「おにーさんはアタシの心にたくさん残ったよ」


「ハツミの二度目の恋は後悔なく……できそうです」


「幽霊になって初めての恋はおにーさんです」


「アタシの話、聞いてくれてありがとう」


「アタシの声、アタシの話したこと、アタシの歌、アタシと一緒に居た時間」


「……できればでいいけど、アタシのこと、たくさん覚えてて欲しいな」


「ふぅーーーちゅっ」


「おにーさんのファーストキスが幽霊だと悪いからお耳に失礼」


「ハツミちゃんのファースト耳キス、あげるね」


「ねぇ、顔真っ赤にしてどうしたの」


「ん、どくどくって心臓の音速いね。ぎゅーってしたらすぐ分かる」


「何にも言わなくていい、目も合わせなくていい、ただ、抱きしめさせてよ」


「おにーさん」


「ふぅーーーー」


「ふぅーーーー」


「ふぅーーーー」


//位置:3→1


「よいっしょ」


「……正面だと、幽霊って目閉じてても見える人には見えちゃうの知ってるからさ」


「今までは背を向けたり、目を閉じて目をそらせば見えないように」


「横にばっかりお邪魔してたけど」


「今日は特別っていうか、告白っていうか……そーゆー本気のやつなんで」


「んっ、おにーさん、この顔、忘れないで」


「おにーさん押し倒しちゃってるハツミちゃんの顔、忘れないで」


「ふふ、アタシかわいい?」


「嬉しいなぁ、好きな人に褒められるのって、嬉しい……」


「そんなに急に元気になろうとしなくて良いからさ」


「寝て、食べて、生きて、時々ハツミちゃんの事思い出して」


「もうちょっとだけ長く生きてみようって惰性で生き続けて?」


「おにーさん、これがアタシの、人生初めての告白」


「どーかな?」


「ちょっとは心にキた?」


「キたらいいんだけど……たはは、アタシそーとー無理しちゃったからさ」


「もしかしたら朝起きたら消えちゃってるかもしれない」


「消えてもいい、余命前借してでも」


「おにーさんのこと抱きしめたいとか思っちゃったから」


「もうハツミちゃんは死んでまで後悔したくないからさ」


「こーゆー大胆なことしてみたワケです」


//位置1→7


「はぁ、この姿勢疲れるね。死ぬ直前寝たきりで入院してたからかな?」


「筋力全然ない」


「はーぁ、失礼、ふぅ、ふぅ」


「おにーさん。今日がアタシにとって最後の夜になるかもしれないから」


「思い出に残させて」


「ぎゅーっ」


「ぎゅーっ」


「ぎゅーっ」


「すーはー……あは、おにーさんの匂いがする」


「ハツミちゃんの匂いは……」


「幽霊だし伝わんないかもね。まぁ、嗅がれても恥ずかしいし」


「もーぉ、そんなに鼻すんすんして嗅がないでよぉ~」


「うん、ハツミちゃんはおにーさんの隣にいるよ」


「アタシの鼓動をおにーさんが感じられるか分かんないけど……」


「幽霊だし、死んでるし、でもさぁ、おにーさんの鼓動がうつって」


「すーーーーーっごいドキドキしてんの」


「起きたら居なくなってるかもしれないけど、それでもいい」


「好きです。抱き合えて嬉しい。あと勝手にいなくなるかもだけどごめんね」


「おにーさん、ハツミは……」


「おにーさんと居られた時間ずーっと、ずーっと幸せでした」


「ありがとう、おやすみ……ぎゅーっ、ふふ、たはは」


「ふぅー……あーぁ、胸が軽いなぁ。幸せだなぁ、あったかい」


「おにーさんが生きてるの、こんなに感じられて嬉しい」


「あぁ、でもなんか……すっごい、安心したら眠くなってきちゃった」


「これが活動限界ってやつかな……」


「お別れ、だと思うから、笑顔でね、ばいばいしよ……っ、ぎゅーーーーぅっ」


「だいすき、だいすきだよ、おにーさん……っ」


「んんぅ、今日は、先に……おやすみ、なさい……っ」


「たはは、おにーさんと居た今までずーっとしあわせだった、ありがと……」


「……んぅ、すぅ、すぅ、すぅ」

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