第4話 はっぴーばーすでー

「やぁやぁおにーさん」


「ハツミちゃんだよー……ねぇ、今日はずっと寝てたね。ちょっとは休めた?」


「んふふ、ハツミちゃんはそこそこかな」


「本当にそこそこ……ねぇ、幽霊の余命ってどれくらいだと思う?」


「アタシってどれくらい持つんだろう。人間の時も分かんなかったけど」


「この体になってからもっと分かんない」


「最初はさぁ、幽霊って自覚なくて……」


「透明人間ってこんな感じなのかぁくらいだったよ」


「どんなに歩いても疲れないしさ」


「誰かにくっついていけば多分どこへでも行けちゃうし」


「思いっきり好きな時にでっかい声で歌も歌えちゃうし」


「きもちいーとかラッキーくらいに思ってた」


「でもさ、どんどん行ける場所が狭くなって」


「もうこの部屋から出られなくなっちゃった。声もこんなに細くなって」


「どんどん、アタシには時間が残されてないんだなぁって分からせるんだぁ」


「おにーさんの何にもしなくて良いのかなって焦りってさ、こんな感じ?」


「おにーさん時々ノートに走り書きしてるじゃん」


「なんにもできてない、一生このままなのかな、焦る、死にたい、考えたくない」


「だるい、つらい、苦しい、早く直したい、昔みたいにピアノが弾きたい」


「なんかね、あれ見てるとハツミちゃん共感しちゃうんだよねー」


「分かる分かるって勝手に共感して、生きてた時もっと意識はっきりしてたら」


「きっとアタシもそうなってたんだろうなぁって」


「でもさ、おにーさん。アタシの前だから?」


「死にたいってノートには書くけど、行動は、しないよね」


「うつで、そんな気力もわかないだけなのかな?」


「ねぇ、おにーさん」


「荷物、今日の昼に外に届いてたよ。夏だから腐る前にお部屋に入れたら?」


//緩慢な動作で荷物をとりに行く主人公、戻って来て段ボールを置く

//位置7→1


「あ、おにーさんと苗字同じだ。おとーさんとかおかーさんとか?」


「ハツミちゃんも見て良い奴?」


「じゃあ一緒に見てようかな」


「あ、缶詰とカップ麺とお湯入れたらあったかーいお米が食べられるやつ」


「ん、便箋も入ってるね。お誕生日おめでとう、だって」


「どうする? 深夜にカップ麺いっちゃう?」


「禁断のデブ活って感じでアタシは好き」


「んふふ、食べるの大事だし。お腹空いてるでしょ」


「見ててあげるからさ。食べて?」


//SE:主人公、カップ麺にお湯を注ぐ音


「あー、いい音だねぇ。カップ麺にお湯を注いだ時のこの音、そしてこの匂い!」


「深夜のカップ麺の醍醐味満載って感じがたまんないね~」


「んー、ご両親の愛に感謝って感じだね。おにーさん」


「うーん、幽霊のハツミちゃんができるプレゼントはお祝いの歌歌うくらいかなぁ」


「こほん、それではおにーさん、ハツミちゃんプレゼンツ」


「おにーさんのお誕生日をお祝いする渾身のお歌をお聞き下さい」


「すぅー、はっぴばーすでーとぅーゆー」


「はっぴばーすでーとぅーゆー。はっぴばーすでーでぃあ、おにーさん」


「はっぴばーすでーとぅーゆー」


「うっわ、真面目に歌ってみたけど全然声出なくなってる、たは」


「え、なんで泣いてんの。生きてて良かったって、思えた?」


「綺麗な歌だった?」


「もう、やめてよ~。しばらく歌、誰にも聞いてもらえなかったし」


「すっごい声出なくなってたし」


「こんな散々なのに綺麗とか、そんな風に褒められたら」


「……嬉しくて泣いちゃうじゃんっ」


「たは、ぐすっ、……うぅ、ふぅ、ふふっ」


「おにーさんやっぱ良い人だねっ」


「あ、カップ麺、まだ3分経ってないけど食べちゃうんだ」


「アタシの歌が終わったから食べちゃうの?」


「実はお腹ペコペコだった?」


「がっついてて可愛い、うん。美味しいね。生きてるね、あったかいね」


「アタシ、もっともっとおにーさんが足掻いてるとこ、傍で見てたいなー」


「アタシの歌でこんな風に元気になってくれるなら」


「おにーさんの役にもっと立ちたい」


「さっきのアタシの歌で、おにーさんの心が少しでも軽くなったなら……」


「嬉しいなぁ……」


「うん、急いで、がっつかなくて大丈夫。食べ終わるまで傍にいるよ」


「食べきれなくても大丈夫」


「カップ麺は逃げないよ。幽霊じゃないからね。たはは」


「おにーさん、食べられるだけ食べて、今日も生きて、えらいね」


「アタシももうちょっとだけ……頑張ってみようかな」


「ん? コッチの話」


「あ、お薬飲み忘れてるからちゃんと食べ終わったらお薬飲んで寝るんだよ」


「ちゃんとお水で飲むこと!」


「おにーさん適当だから」


「たまに冷蔵庫に入ってるカフェオレとかで薬飲んじゃうでしょ」


「そーゆーのダメなんだから」


「はい、ハツミちゃん命令。ちゃーんと聞いて下さい」


「聞いてくれるなら、食べ終わるまで」


「いーや、寝るまで、ずーっと傍にいてあげます、たははっ」


「うん、おいしいね。ゆっくりよく噛んで食べるんだよ」


「ん……?」


「そうだね、いつかおにーさんのピアノに合わせて歌いたいな……」


「おにーさんがピアノ弾きたい気分の時は教えてよ」


「その時はさ、ハツミちゃん頑張っちゃうからっ」

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