第6話初めてのアルバイト
皆様は「初めての労働」を覚えていらっしゃいますか?
私は覚えています。15歳の時に居酒屋のバイトに同級生の紹介で入りました。
私はその頃には「将来の夢」なんてものを持っていまして。高校に入ってもうその先の進学先を見つめていました。
故に両親からの同意が得られないだろう事を15歳にして意識していて、自分で稼ぐほかはないとバイト面接を受けた次第。
早生まれなので15歳。人生経験のない初めての労働。ドキドキしたのを覚えています。
ですが私は両親に太鼓判を押される程に「要領が悪く」更には何事も「引きも悪い」と言う星の下に生まれておりました。
配備されたのは厨房の「レンジ場」と呼ばれる場所。私のやる事は、レンジ(ガスレンジ)、茹で場、電子レンジ、食器洗い、食器の配膳、在庫整理等など…
それを一人でこなせと言うのだ。
他所様と言うと。
揚げ物担当部署、フライヤーのみで2人。
焼き物担当部署、グリルのみに2人。
仕込み担当、3人。
あれれーおかしいぞ〜?
計算が合わないなぁ。
更にはホール担当のスタッフは下げてきた「食器の仕分け」が仕事に入っているにも関わらず、その「食器の仕分け」さえも私に無言で押し付けて自分達は役得とばかりに「冷えたドリンクを飲む」のだ。勿論社員にバレたら事なのだが横行していた。
更に辛いのは「目玉商品」が私のレンジ場の「牛タン塩焼き」なのだ。8口あるレンジだがピークには牛タン塩焼きのみで30枚程の注文がくる。私は研修もまともに受けさせてもらえず、「マニュアル本」を片手に調理をする事になったのだった。
「おい太刀山!お客様怒って帰ったぞ!」
社員が肩を怒らせてホール部から怒鳴る。
そんなこと言っても誰も研修さえさせずに放り込んだのだから間に合わないのは当たり前だろう。
社員の監督不行き届きだと今なら思う。
「人手が足りないなら他部署に声かけろよ!」
そう怒鳴られて終わった。
だが誰が一番辛い仕事を手伝いたがるだろうか?
私の担当部署は厨房の約半分もあるのだ。
食器は食洗機が洗ってはくれるが仕分けは人力だし、大まかの汚れを落とすのにシンクにつけなければならない。
その度にレンジ場から離れてホールに入り食器を仕分ける。
そしてまた調理が遅いと怒鳴られるのだ。
そして22時にやっと上がりになるのだが、私の代わりには「2人」入ってくる。
17時から22時のピークタイムは私1人。
初めての社会との触れ合いはこの様な物であった。
「それって『追い回し』じゃねぇか!」
ウチの父が憔悴した私から理由を聞きブチギレる。
「確かに中卒から調理に入るのは多いが、『バイト』に下積みの追い回しをさせるなんて考えられん!」とのこと。
追い回しとはその名の通り追いかけ回される位に忙しい「調理師見習い」の別名だ。
ウチの父はホテルの和食の総料理長をずっとやっている。故に出た言葉。
私はフランチャイズの居酒屋で「修行」なんてするつもりもない。更に社員だって更衣室の奥の会議室でサボっているのも知っている。
他のツーマンセルのポジションなんて「楽しく会話」しながら片手間で仕事ができる。
その間私は巨大な冷凍庫から食材を解凍するのにチルド室に移し替える作業をしている。
更に酷いのは「暇な日」の扱いである。
誰だって暇な日勤務が良い。
私だって普段はピークタイム受け持ちなのでたまに来るアイドルタイムはとても嬉しい。
だが社員はそこに「私がいる事を許さない」
「今日暇だからバイトは上がって」
その一言で「稼がせて貰えなくなる」
更にはそんな日は「レンジ場」にも立たせてもらえず、バックヤードをブラシがけさせられていた。
最早単なる下僕である。
「学業に支障が出るので辞めます」
私はそう店長に切り出した。
「お前が辞めたらレンジ場はどうするんだ!」
理不尽に怒鳴られる。面接をした時の笑顔など何処にもない。
「いえ、もう決めたので」
父からは「何でも突っぱねろ」と助言を受けたので断った。
それでも20分はうだうだ絡まれた記憶がある。
私は1年間『奥歯を噛みながら』耐えたのだ。
時給だって¥750で深夜手当も出ない時間である。相当なブラックだった。
私の世代は辞める1ヶ月前に報告しなさい。そう教わった。なので私は辞める宣言をしてからも1ヶ月はちゃんと勤めた。
これ以上求められても困るし。
更には忘年会や新年会にも「呼んで」頂いたことも無い。面接では「うちは社員バイト関係なく仲良くやります」と言っていたのに、貼り出させる参加の是非を問う名前リストには「放っから記載されてもいなかった」
皆様に置かれましては、初めての労働は楽しかったですか?
私の感想は「クソ喰らえ」ですね。
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