第4話ズルい本能

 人間は「働き者」ではない。

 八割が働くと残り二割は怠ける。そんな言葉もある。


 私は専門学校に通うのに親と大喧嘩の末「自分で資金を用意する」と言う事で進学を許された。我が家に高校から上に進学するのに出せるお金等無かったのだ。


 「新聞奨学生制度」というのをご存知だろうか?

 読んで字のごとく「新聞」が関係している。

 決められた年数新聞配達をする代わりに「学費」を貸し出してくれる制度である。任期満了に伴い貸付金は晴れてゼロになる。


 新聞配達なんて簡単だ。そう言う諸氏に言いたい。

 舐めてはいけない。まず自転車かカブを操縦して五百部から多いと八百部程を決められた時間内に配らなければならない。

 更に基本は年中無休。唯一の公休は新年の1/2のみ。

 更に学生の身分であるから、「社員並みの仕事」をしながら「勉学」に励まねばならない。


 これが容易く出来るかと言うとそうはならない。

 新聞奨学生にも種類がある。「配達のみ」と「配達、集金」の二種である。種類により「奨学金」の多寡がある。勿論集金のあるプランのが高額の奨学金を得られる。だが仕事は完全に社員並み。仕舞には学業よりも集金を優先せざるを得なくなり、段々と通学が出来なくなり、終いには留年、もしくは中途退学になる事も。


 私は「配達のみ」のプランであった。だからといって楽々と過ごしていた訳では無い。一ヶ月の中休暇は4日のみ。後は日曜が一応半休扱いになるくらい。

 そんな雁字搦めの中、働き者八割も居るだろうか?


 答えはノーである。


 私は先輩からの教育で深夜0:30に起床。1:00に出勤し「新聞の荷卸」をせよと言うものだった。

 そこでもう格差が起きる。

 「新聞の荷卸」は本来「従業員全員」の仕事であるが、私の販売所ではそうはならなかった。 

 1:00に出社しても販売所一階はもぬけの殻。まずは販売所の立ち上げからしなければならない。

 そして輸送トラックから荷卸をする。

 そうして私一人で荷卸を終えると、見計らった同僚が寮から出てくる。そして私の整理した販売所に我が物顔で入っていくのだ。


 別に私が下っ端と言う訳でもない。同じく奨学生一年生も同期として複数居るし、「大人の社員」だって所属している。


 だが二年勤め、二年時には後輩も居たにも関わらず誰一人「荷卸」に出て来ることは無かった。

 「任期満了」近くになると、輸送トラックの運転手とも親しくなった。


「この販売所だけだよ。一人に荷卸させてるのは」

 そう言って特別に荷卸を手伝ってくれた。多分に同情が有るのが分かった。

 そう。九割の怠け者に一割未満の働き者と言う逆転現象が起きたのだ。


 ここは人の悪意を多分に現す…露悪的な環境であった。

 誰もが「毎日が苦痛」であったのだ。

 同期も後輩も自分の事しか考えない。販売所から一番遠いアパートから通う私しか開店作業をしないのだから。



 なのに悪びれもせずに当たり前の光景のように彼等はたかってくる。

 輸送トラックの運転手は販売所の面々を「軽蔑の目」で見ていた。


 また言おう。人間は「働き者」ではない。

 簡単にモラルは抜け落ち「怠け者」に堕ちる。



 頑張れば頑張る程「誰かの悪役」になっていく。そんな話もある。


 なあなあが一番心地よい塩梅なのかも知れない。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る