攻防戦
「ねぇ、ダ~リ~ン。起きてよぅ。お寝坊さんっ」
あたしはソファで寝ているボンボンの上に跨ると、鼻をちょんちょん突きながら甘ったるい声で話し掛けた。まったく、たかがシャンパンを二杯飲んだだけでこんなに酔っぱらうとは……。
「ん~?」
ボンボンは寝ぼけ眼で下からあたしを見上げてきた。あたしはすかさずボンボンに顔を近づけ、耳元に口を寄せると、
「もっと楽しいこと、シよ?」
と囁いた。
さぁどうよ! このウイスパーボイス聞いて無反応でいられた男はいないのよ!
「え? あ、ええ~?」
にやけ顔で体を起こすボンボン。でしょう? それが正しい反応。そのままあたしを組み敷いていいのよっ? さぁ、さぁ!
なのに、
「もう一本開けてもいいか?」
ぬらりひょんが空になった酒瓶を手に、ボンボンに訊ねた。
「あ、なくなっちゃった? うん、今出すよ」
何故かボンボンはあたしそっちのけでぬらりひょんの言葉に反応するのだ。
キィィィ!!
まったくもって意味が分からない!!
あたしが、こんなに迫ってるってぇのに!
「まだまだだな」
ボンボンが席を外した隙にそう言ってドヤ顔をしてくる始末だ。
クソ面白くない!
あたしは心に火が付く音を聞いたね。カチッといったよ、ああ、そうさ!
グラスに入っていた少しのワインを、わざと胸元に掛けた。
「きゃっ! やだぁ、どうしよう~」
大袈裟に騒ぐと、ボンボンが二本目のワインを片手に、
「どうしたっ?」
と飛んでくる。
「ワイン、こぼしちゃったぁ。つめたぁい」
胸元を強調しながら迫る。ボンボンは鼻の下を伸ばしながらあたしの胸元に釘付けだ。
「ねぇ、シャツ借りてもいいかなぁ?」
彼シャツ大作戦である。
今日のあたしは黒の下着。これで白の彼シャツをゲットすれば、とんでもなく色っぽい彼シャツ女子が出来上がるって寸法さ!
「ああ、うん、ちょっと待ってね」
大慌てで部屋へとトリに向かうボンボン。
あたしはぬらりひょんを見る。
ぬらりひょんもあたしを見た。
視線がぶつかり合い、火花を散らす。
「色仕掛けが得意な悪魔か」
ぬらりひょんが呟いた。あたしは挑戦的な視線を送りつけ、
「そのうちあんたも落としてあげるわよ」
と笑った。
「さぁてね」
ぬらりひょんのやつ、負け惜しみにもならない一言を発しやがったわ。見てなさい! 彼シャツ作戦を成功させたら次はあんたよ! その憎たらしい顔をだらしなく歪ませてやるわっ。
「お待たせ! これでいいかな?」
ボンボンが手にしているのが、あたしが考えてた彼シャツじゃないことに気付く。
「え? これって……、」
「作務衣」
「……作務衣?」
何故?
Tシャツですらない珍客に、あたしは少し動揺した。
……いや、自分を信じよう。あたしはナイスバディのサキュバス! たとえ作務衣だとしても、この色気は駄々洩れてくれるはず!
「お風呂、借りてもいいかなぁ? なんかべたべたするのぅ」
服をパタパタしながら聞くと、
「もちろん、使って!」
とバスルームに案内される。よし。これで湯上りほくほくの色気駄々洩れ作務衣美女を演出すればいい! 見てるがいいわ、ぬらりひょん! あたしの作務衣姿に、脳天直下でぷぅよ!
……ちょっと自分でも意味わかんないけど。
おっと、その前に、
「ファスナー、降ろしてくださるぅ?」
髪を持ち上げ、ちらりと振り返る。ボンボンは耳を赤く染めて『もちろん』とあたしの背中に手を伸ばした。
「んっ、」
ほんの少し手が触れた瞬間を狙って甘い声を出せば、男はあたしを意識せざるを得なくなるのさ! ほら、ボンボンの顔つきが変わってき、
「ツマミがなくなったなぁ~」
リビングからの声は、もちろんぬらりひょん。
「今行く~! じゃ、ごゆっくり」
そう言ってボンボンは風呂場から出て行ってしまう。
くそ!
ぬらりひょんのやつ、あたしが誘惑してるのを知っててわざと邪魔をしてきやがった。
あたしはさっさと服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。
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