傾国は微笑む

鹿瀬琉月

傾国は微笑む

 とあるベッドタウン。都会とも田舎ともつかない、小さな町の小さな繁華街。周囲が闇に包まれる中、夜でも賑わいを失わないそこに四人の大学生がいた。四人ともすでに酔いが回っているのは、同窓会の帰りだからだ。四人は小中高を通しての友人だった。それぞれに別の友人が出来ても連絡を取り合い、時々日付を合わせては遊びに行くような、そんな仲の友人だった。大学生になっても変わらずに連絡は取り合っていたものの、流石にそれぞれが忙しくなるわけで。同じ都市圏内とはいえ、各々の住まいも離れた今、以前のように頻繁に会うのは難しく、四人全員で会うのは久しぶりのことだった。四人は楽しげに笑い合いながら、一軒の飲み屋に入っていった。


 すでに酔いが回っている上に、ここにいるのは仲の良い四人だけとなれば、話題が下世話なものになっても不思議はない。四人の話題は各々の恋人へと移っていった。

 まず話しだしたのは、中学・高校と演劇部に所属していたコウだった。コウは大学でも演劇サークルに入っており、彼女ともその関係で出会ったのだという。

 ――彼女とはサークルの交流会で出会ったんだよね。僕が言ったら贔屓目に聞こえるかもしれないけど、役者じゃないのが不思議なくらいの美人でさ。僕にはもったいないくらい。ん? うん、彼女は役者じゃないよ。衣装作ってる。将来は服飾系の道に進みたいんだって。ただ親には反対されてるみたいで、専門学校一本っていうのを認めてくれなかったから、大学行きながら専門の教室? みたいなとこに通ってるらしいんだよね。作った衣装とかも見せてもらったんだけど、結構本格的なドレスとかもあってめっちゃすごいんだよね。向こうのサークルの人に聞いたらどんな衣装でもささっと作っちゃうって言ってたし。さすがだなってかんじ。ほんとに尊敬してる。

 次に話し始めたのは、マサだった。元々この話題を振ったのがマサだったこともあり、ノリノリで話し始める。

  ――俺の彼女はー、まずかわいいでしょ。んで、優しいでしょ。後、料理がめっちゃうまい。まじでカンペキの彼女ってかんじ。いや、ほんとだって。いつも家のことで忙しくしてるから、あんまいっぱいは会えないんだけどね。親がシングルマザーらしくて、ほぼ毎日、高校生の妹と母親にお弁当作ってるんだって。料理上手いのもだからだよって言ってた。歳の離れた弟もいて、小学生ぐらいなんだけど、よく嬉しそうに写真見せてくれるんだよね。出会い? ふつーに飲み会だけど。

 次にヒロが、三人にせっつかれるようにして話し出した。

 ――まあ、別に話したっていいけど、大した話はないぞ。出会いはバイト先で、向こうが二週間ぐらい先輩とはいえ、ほぼ同期みたいなもんだし、同い年だしで仲良くなって、ってかんじだな。なんか実家が遠いらしくて家族経営みたいなことやってるのにほぼ手伝えなくなっちゃったのが悪いから、生活費ぐらいは自分で稼ぎたいって言っていろんなとこでバイトしてる。そういう頑張ってるとこ見ると応援したくなっちゃうっていうか。分かるだろ?

 最後に、お前高校の時は恋愛とか興味なさそうだったのにな、などと揶揄われながら、トモが口を開いた。

 ――俺の場合は、普通に同じ大学で同じ授業を取っててそれで出会った。優しくて、どことなく上品で、最初はその雰囲気に惹かれたんだ。後から分かったんだけど、結構なお嬢様らしくて、だからそんな雰囲気なのかもなって思ってる。とはいえ、それ以外はいたって普通の女の子で、親が厳しいってよくぼやいてるくらいなんだけどね。

 一通り全員が話し終えたことで、話題は他のものへと移っていき、四人は積もる話に花を咲かせた。しばらくして、マサがスマホの通知を見て声をあげた。

「お、ラッキー。彼女が暇になったから、迎えに来てくれるって」

 その言葉に、他の三人も親友の彼女が見られることに少し浮き足立った。


 十五分ぐらい経った頃だろうか。騒がしい店内越しに、入り口から長い髪を綺麗に巻いた女性が入って来て店員に話しかけるのが見えた。

「お、来た」

 マサが立ち上がって、彼女の方へ歩いていく。トモはそちらを横目に見ながら、残りわずかとなった酒を飲んだ。身長はちょうど自分の彼女と同じくらいで、髪も同じ黒髪ロングだが、いつもストレートロングの彼女とは違い、ずいぶん派手に見える。同じような体格でも髪型が違えばやっぱりずいぶん印象が違うなと、ぼんやりそんなことを考える。他の二人もチラチラとそちらを見ながら残りの酒を飲んでいた。

 やがてマサがこちらに歩いてきた。彼女もその後ろについて歩いてくる。ぴったり後ろについて歩いているので顔は見えない。テーブルまでくると、マサはもったいぶるようにして、そっと彼女を前に押し出した。

「紹介するよ。俺の彼女」

 彼女が小さくお辞儀をする。彼女を受け入れようとにこやかな笑みを浮かべた三人と、彼女の目が合う。

 

 その瞬間、三人の顔がそのまま固まった。

 

 しばしの沈黙がその場に走った。マサが訝しげな顔で三人を見る。三人が同時に口を開き、声が重なった。三人の口から出たのは、それぞれが自らの恋人を呼ぶ呼び名だった。四人は顔を見合わせ、そして、一斉に女性の方を見た。女性は驚いたように一瞬目を見開き、微笑んだ。


「なあに、どうしたの?」


 小さく首をかしげ、恋人に甘えて見せる時と同じ言い方で、彼女は四人にそう問いかけた。

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