第4話 子供剣聖

72歳の剣聖シュバルツァー・バルモンドは突如として魔法に目覚めたため友人で"最強の魔人"の1人に数えられているカリエス・ドリトンに会いに行った。


その結果カリエスに魔法を教えてもらい僅か半年で魔法使いの憧れである魔人へと至ることになった・・・・・・


「・・・・」

「どうなんじゃ?何かわかったかのう?」

「黙ってな・・・今調べてるところだよ・・・」

「そう言いながらもう一時間を超えるんじゃが」


なぜか老人の姿から子供となったシュバルツァー。現在はカリエスが様々な魔法を駆使して異常事態のシュバルツァーを検査している。


「・・・ふう・・・」


さっきまでシュバルツァーを検査していたカリエス。終わったのか椅子にドカリと座った。


「なにか分かったかのう?儂が子供の姿になった理由が」


カリエスは魔法については世界一の知識を持つ魔法研究者でもある。そんなカリエスならば老人の姿から子供の姿になった原因を突き止めれると期待して問いかけたシュバルツァー。


「・・・さっぱりだね・・・あんたの身体はあたしが出会った当時のそれだよ・・・健康そのものだ・・・」

「む~・・・カリエスでも分からんか・・・」

「しっかし・・・なにがどうなったらそうなるんだい?」

「それは儂が聞きたいんじゃがのう・・・やはり魔人へと至ったのが原因なんじゃろうか?」

「まあ・・・そうだと思うけど・・・魔法で見た目を変えることは出来るけど魔人に至った時に自然と若返るなんて話は聞いたことが無いけどね・・・」


世界一の魔法研究者でもお手上げのこの状態。当の本人であるシュバルツァーはしばらく考え結論に達する。


「うむ。剣でも振るとしようかの」


そう言って庭へと歩いていくシュバルツァー。その様子に呆れるカリエス。


「はあ・・・これだから剣術バカは・・・」


シュバルツァーはその言葉を無視して愛剣を上段に構える。


「・・・ふう・・・」


ブン!


目を瞑り上段に構えた剣を振り下ろすシュバルツァー。すると何も言わず目も開けずシュバルツァーは再び剣を上段に構え振り下ろす。その動作を繰り返す事3時間以上。一切の休みもなく延々とそれのみを行い続けるシュバルツァー。


当初はカリエスもそれを眺めていたがさすがに飽きたのか今は屋敷の中で読書中。


シュ!


シュ!


シュ!


何回行われたのか分からないそれはとうとう終わりを迎える。


「ふう・・・こんなもんかのう・・・」


やっと終わったことでカリエスが本を閉じシュバルツァーに話しかける。


「終わったみたいだね」

「うむ・・・老人の身体からこの身体じゃからな・・・調に時間がかかってしまったわい・・・」


シュバルツァーが何故か子供の身体となってから行った素振り。これには子供の身体と老人としての意識のズレを治す意味合いがあった。当然のことだが子供の身体と老人の身体では外も内も異なってくる。通常であれば老人の身体から子供の身体に戻れば身体が軽くなり動き回れることに喜ぶだろう。


しかしシュバルツァーにはその変化が違和感でしかなく身体を思うように操れていないことが嫌だった。故にシュバルツァーは素振りを繰り返し行う事でこの子供の身体を理解し本能にまで染みこませた。そうすることでシュバルツァーは今の身体での全力を出せるようになった。


「それで?あんたこれからどうするんだい?」

「どうすると言われてものう・・・そう言えば儂は魔人となったんじゃよな?」

「ああ、あんたは正真正銘の魔人だよ。魔人特有の魔力の質を感じるからね」

「魔力の質?よくわからんが・・・それならばが使えるかもしれんな」

?それはさっき言いかけた奴かい?」


魔法とは魔人に至る前と至った後で大きく異なってくる。それは"出来ることが増える"や”威力が上がる”といった次元ではなく、今まで欠片も出来る気配すらなかった魔法が魔人に至った結果まるで息をするかの如く当たり前のように出来てしまう。それをシュバルツァーは今まさに味わった。


「おお・・・話には聞いておったが・・・まさかこの魔法が・・・分身アナザーの魔法がこうも容易く出来るとは・・・」

「なんだい?ってのは分身アナザーのことだったのかい」

「うむ・・・この魔法があれば毎日のようにと対戦が出来るからのう・・・ほっほっほ」

「はあ・・・やっぱり剣術バカだね・・・」


分身アナザーはもう1人の自分を作り出す魔法。この魔法が難しいところは作り出すのが偽物ではなくもう1人の自分というところ。その実力はその時の自身とまったく同じ。その実力も思考回路もなにもかもが全く同じ。この魔法をそれこそカリエスのような最強の魔人と呼ばれるような強者が発動すればそれ以上の脅威は無いだろう。


しかしシュバルツァーにはそんな考えは存在せずシュバルツァーがしたいのは現在の自身を超えることで強くなり続ける事。鍛錬に使う事しか考えていないのである。


「「ほっほっほ・・・さてさて楽しみじゃのう・・・儂は儂を超えれるじゃろうか?・・・」」


早速分身アナザーと対峙して睨み合うシュバルツァー。


「「瞬影!」」


これにより剣聖シュバルツァーは老いたことで失った全盛期の力に徐々にしかし着実に近づきつつあった。

/////

シュバルツァーが魔人となり子供となってから一ヶ月を超えたある日。


「はっ・・・ここがあの剣聖のいる街か・・・面白味もねえ普通の街じゃねえか・・・」


大柄な男がバルモンド街を歩いていた。しかしその男は素人でも分かるほどに危険な感じが漂っていた。そしてそれは間違っていなかった。


「少しいいか?」


一人の騎士が男を不審に思い話しかける。腰に差している剣をいつでも抜けるように心の準備をして。


「騎士か・・・ちょうどいいじゃねえか・・・なぁおい?組織の復活の狼煙と希望を殺す手伝いをしてくれねえか?」

「なに?貴様・・・何者だ・・・」


騎士は剣を抜き男の動きを見逃さないように注視して問いただす。その様子を不審に思い周囲の民衆は巻き込まれないように立ち去っていく。


「俺様に質問してんじゃねえよ!”巨獣デミビースト”!」


男は瞬く間に人間の姿から建物と同じぐらいの大きさの狼となった。


「なっ!?"炎熱フレイム『おせえよ!』っ!?」


ザン!


「ガハッ!?」


騎士が一撃にて吹き飛ばされた。この騎士は魔人にも至っている実力者であり決して弱くはない。男がだけである。


『剣聖を連れてこい!我ら四凶カラミティは復活し世界は再び我らが支配する!』


現役を引退したシュバルツァーは再び闘争の世界に足を踏み入れることとなる。

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