第3話 魔法の鍛錬

氷漬けにされたシュバルツァーはカリエスの庭に運ばれるとそこで解放された。


パリン


「ふう・・・まったく冗談の通じん奴じゃのう・・・」

「うるさいよ。そもそもあたしが魔法を教えてやるって言ってんだ。あんたに断る権利があるわけないだろう」

「・・・千年も歳を取ればこうも高慢なババアになるもんなんじゃなぁ・・・それとも元からかの?・・・」

「相変わらずの減らず口だね・・・まあいい。とりあえず知ってるとは思うが魔法についての基礎から話していくよ・・・」


そうして世界一の魔法研究家でもあるカリエスから魔法について説明がなされる。


「魔法とは魔力を用いて普通ではあり得ないことを引き起こす不可思議な術のことを言う。だが魔法を使用するための魔力は誰もが持っているわけではなくある日突然身体が光だし魔力が芽生える。これについてはなら10代や20代がほとんどなんだが・・・なんであんたは・・・」

「知らん。儂自身が困惑しておるよ」

「だろうね・・・まあいい。話を戻すよ・・・魔法は想像できることはなんでも発動できると言われている。こうして手の平から氷を出すことも」


ヒュン!ザン!


「地面を操作して鉱石の鎖を作り相手を縛ることも」


ヒュン!ザザン!


「別の世界から召喚獣を呼んだり自分の見た目だって変えられる」


デモンストレーションのように説明しながらシュバルツァーに向かって放たれる魔法の数々。今度はライオンのような姿の獣が申し訳なさそうにしながら現れた。


「すいませんシュバルツァー様」

「お主も苦労しておるのう」


ザン!


ライオンを斬ると召喚されたライオンは消滅する。ちなみに召喚獣は殺されても元の世界に行くだけで死ぬわけではない。


「多種多様な魔法が存在する。それは想像できる限り可能性は無限大!どうだい!魔法は素晴らしいだろう!」


大人の女性の姿となり両腕を広げて興奮したように叫ぶカリエス。


「・・・儂に攻撃をする必要があったかのう・・・」


当然の疑問だがカリエスはその問いを無視する。


「さあ、シュバルツァー。まずは魔力を感じるところからだね。魔力は体内に流れてるはずだよ」

「はあ・・・まあいいわい。魔力じゃったな・・・どれどれ・・・」


シュバルツァーは目を瞑り体内に意識を向けると確かにそれまでとは異なる部分を発見した。


「たしかになにかあるのう・・・これが魔力という奴じゃな・・・」

「早いねえ・・・才能の無い奴はそれだけで一月を超える者もいるんだが・・・さすがは剣聖って言ったところかね?」

「そんなことはどうでもいいわい。それで?この後はどうするんじゃ?」

「その後はひたすらに魔力を動かす鍛錬だね。この魔力操作を怠る奴は大成しないよ」

「案外・・・魔法というものは地味なんじゃのう・・・」

「最初はそんなもんさ・・・魔力操作は魔法を放つ際のが放てるかに大きく関わってくるからね。さあ続けな」


その後はひたすらに魔力操作の鍛錬。カリエス曰く本来なら走らせて戦闘が可能な体力を鍛えさせたり魔法に頼らない体術とかを教えるそうだが剣聖のシュバルツァーには当然必要ない。なのでシュバルツァーはひたすらに魔力操作の鍛錬の日々。


シュバルツァーが魔法に目覚めカリエスのもとで魔力操作の鍛錬をするようになってから数日後。


「そういやぁ・・・あんたはどんな魔法を使うつもりなんだい?」

「う~む・・・確か魔法は1つに絞ったほうがいいんじゃったか・・・」

「そうだね。なんでも出来たほうが色々な状況に対応できるけどそれをすれば1つ1つの魔法の練度が低くなり脅威となる魔法を作れなくなってしまうからね。あたしは別だけど」


通常、魔法と言えば器用貧乏になってしまうために1つの事を極めることを勧められる。しかし千年以上も生きており魔法の研究を欠かさなかったカリエスは多種多様な魔法を高練度で放てるのはもちろん、初見の魔法でも一度見てしまえばより高練度の魔法を放ててしまうという規格外の特技も持つ。


「魔法・・・のう・・・」


そう問われたシュバルツァーだったがカリエスの問いにはついぞ答えなかった。

/////

そんなこんなで1ヶ月が過ぎ2ヶ月が過ぎ。魔法の鍛錬を開始してから約半年が過ぎていた。


氷結戦士アイスソルジャー!」


カリエスが氷で出来た戦士を作り出した。その戦士は3体存在し手に持つ武器は剣。1体1体が自動で動き出しその実力は剣術の達人クラス。


炎熱放射フレイム風刃飛斬ウインドエッジ


カリエスが放った氷の戦士。彼らに対してシュバルツァーは剣術は封印して魔法で応戦する。シュバルツァーが使用した魔法は高火力の炎を放つ炎熱放射フレイムと風の刃を放つ風刃飛斬ウインドエッジだった。


「はん。その程度の魔法であたしの氷結戦士アイスソルジャーを破壊できるかい」


そのカリエスの言葉通り三体の氷の戦士は炎の熱にも完全には溶けず風の斬撃でも切断できずにシュバルツァーの目の前に。


「(まあ、たったの半年足らずであたしの氷結戦士アイスソルジャーを溶かし傷つけるまで至ったのは十分すごいけどね)」


内心ではそう評価しているカリエス。確かにカリエスの言う通り氷の戦士たちは身体から水が滴り小さな傷がついていた。これは最強の魔人の1人に上げられるカリエスを相手にたったの半年足らずでここまで出来たのは才能があるという証でもある。


だが、終わったと思ったのはカリエスだけだった。


金剛剣ダイヤモンドソード・疑似緋剣ひけん


ザン!


ドン!ドン!


それは氷の戦士が切断され氷が地面に落ちる音。そしてそれはシュバルツァーの魔法にて果たされた。シュバルツァーは金剛石ダイヤモンドで作られた剣を生み出し手に触れずに飛ぶ斬撃を放つ"緋剣"を繰り出した。


これにはまさか己の氷結戦士アイスソルジャーが半年足らずの魔法使いに敗れ去るとは思っておらず驚きの表情となりそれを成したのがであることを理解すると呆れた表情となった。


「・・・相変わらず・・・そっちなんだね・・・」


どうやらシュバルツァーは剣術だけでなく魔法にもある程度の才能はあるらしい。


「まったく・・・結局あんたは剣なのかい?」

「ほっほっほ。いろいろ出来て楽しくはあるがやはり儂に合ってるのは剣しかないのかもしれんなぁ」

「だったらあんたは剣術の魔法を伸ばすんだね?」


最も得意とする魔法が剣であると分かり呆れそれを伸ばすんだろうと問いかけた。だが、シュバルツァーから返ってきた言葉はカリエスの予想とは違った言葉だった。


「ほっほっほ。そもそも儂は魔法を伸ばそうとは考えておらんよ」

「はあ?・・・じゃあなんであんたは魔法をあたしから習ってんだよ?」

「1つは出来るようになった故の興味本位じゃな。そもそもとして儂は基本的に戦闘で魔法に頼ろうとは思っておらんからのう。儂にはこれがあれば十分じゃわい」


そう言ってシュバルツァーは自身の愛剣に触れる。


「ふ~ん・・・それで?2つ目は?」

「もう1つはを使いたいと考えてるからじゃ。じゃがそれが中々上手くいかん」

「ある魔法?それって一体」


ピカ!


カリエスが最後まで言い終わる前に半年前と同様にシュバルツァーの身体から光が放たれた。それは魔人へと至った証の光。


「ふん。そろそろと思っていたけど僅か半年足らずで魔人へと至るかい」


カリエスは長年の調査・研究により魔人への進化がそろそろと分かっていたためにそこまでの驚きはない。しかし次の光景にはさすがのカリエスも顎が外れんばかりに驚愕した。


「ふう・・・眩しかったのう・・・どうしたんじゃ?カリエス?」

「・・・・誰だいあんた?・・・・」


カリエスの目の前にいたのは老人でゃなくだった。

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