紡ぐ音

@midori-akira

第1話

風の音。空間の音。存在の音。

今日も授業が終わってすぐに弓道場に向かった。神棚に一礼する。ゆっくり弓を引く。柔らかい風が頬を撫でる。全ての時間が止まっているようだ。弓は真っすぐ的に刺さった。息を吐く。

高校1年の4月。部活動見学で来た弓道場。矢を射る先輩方の姿、言葉では言い表せないほど綺麗な弓道場。弓を射るまでの時間の静けさはなんと言っていいか分からないが、澄み切っていて、全ての物が、時間が、止まった。自分という存在が始めからここにあったかのようにこの空間に溶けて1つになるような。この空間が私の心を奪った。

中学生の時は吹奏楽部に所属していた。音楽が好きで、部活動見学で見たホルンに一目惚れして入部した。吹き方で色々な表情ができる楽器にどんどん興味が湧いて楽器を吹くことが大好きになった。合奏をして音が重なって、1曲に音楽になった瞬間は鳥肌が立つ。この瞬間がさらに私に音楽が好きだと実感させた。

中学の時吹奏楽部で一緒に楽器を吹いていた幼なじみの櫻井涼は私と同じ高校に進学した。涼は高校でも吹奏楽部に入った。涼の奏でる音は相変わらず綺麗で私の心を奥深くから包み込む。幸せな音だ。涼に片想いして5年目。同じ高校だと知れた時はすごく嬉しかった。廊下ですれ違ったときには声をかけてくれたり、教科書を忘れると私の教室まで借りに来て、涼が私の事を好きなんじゃないかと少し勘違いしそうになる。心の中を探られているみたいで悔しいし、ずるいなと思う。でも、そんなところも好きだと思ってしまう。今日も廊下ですれ違った時、涼が「おはよう」と声をかけてくれた。全身が熱くなるのを感じながら「おはよう」と返した。今日も1日頑張れそうだ。なんて考えてしまう。「夏音!」同じクラスの陽に声をかけられた。「陽。どうしたの?」「夏音次移動だよ。早く!」高校1年生の時はボブだった髪は胸の辺りまだ伸びていた。元気で活発な陽は男女どちらからも人気だ。中学校は別だったけど、高校に入学して仲良くなった。今話題になっているのは当日まで1週間を切った体育祭だ。クラスの人と髪型やメイク、Tシャツなどをどうするか話しているところだ。「化学難しいけど実験は好きなんだよね〜」と陽が言う。「だよね〜…」「夏音また涼君の事考えてるでしょ」「ん、え?いやいや、考えてないよ」陽は眉間に皺を寄せて頬を膨らましている。「ごめんー」陽は涼について話すと拗ねてしまう。「私の方が…」「うん?陽今何か言った?」「言ってないー」

放課後。部活の道具を持って教室を出る。「夏音!じゃあね!」陽はいつも部活に行く私に声をかけてくれる。私は空いている方の手で手を振った。部活に行くといつも通り練習が始まる。弓を引く。矢を放つ。(キーン…)(え?)矢を放った時に耳鳴りがした。矢が的に当たった後耳に手をあてる。(今耳鳴りしたよね?)この日の耳鳴りはこの1回だけだった。しかし、次の日もその次の日も耳鳴りが続いた。練習中だけでなく授業中も耳鳴りがするようになった。1日になる頻度が多くなるだけでなく、強く響くようになったり、響いている時間が長くなったり。人の話が聞き取れないほどの時もあった。

お母さんに相談して病院に行った。

「望月夏音さん」名前が呼ばれ診察室に入る。診察中も弱くだが耳鳴りがしていた。診察が終わり、診断結果を聞くためにもう一度診察室に入る。椅子に座り医者の顔を見ると


「次第に聴力が弱くなるでしょう。」


30代半ばくらいの男の医者は私をまっすぐに見て言った。

何を言われているのか分からなかった。私は次第に聴力が衰えていく病気だと医者は説明した。病気を治す方法は無い。と医者ははっきりと言った。「これから定期的に通院してください。お大事に。」お母さんも私も言葉が出なかった。帰りの車の中でお母さんの目から涙がこぼれた。お母さんを見ていたら視界が滲んだ。自分が何を思い、何も感じているのかどんな気持ちなのか何も分からない。考えられない。ただ涙が止まらない。車が動く音、信号機の音、人が歩く音。聞こえてくる音が私にまだ聞こえるという事を教え、そして失うものを突きつけてきたようだった。夜ご飯のカレーを一口食べる。味は全くしなかった。この日から私の世界は色を無くした。

陽に会えば何とかなりそうな気がして次の日学校へ行った。夜に帰って来たお父さんにお母さんが病気の事を話したようだったがお父さんはいつもと変わらず「行ってらっしゃい。」と学校へ向かう私に言った。授業はもちろん集中出来ず、ただただこれから自分がどうなっていくのかと心の中で呟いていた。

放課後になり教室を出る。足取りが重い。鞄の中に朝からそのまま入っているお弁当がいつもより鞄を重くさせている。胸の辺りがもやもやしている。弓道場の入口の扉の前で足が止まった。入りたくない。私の心がそう言っているのが確かに聞こえた。その日はファミレスで時間を潰して家に帰った。

退部届 2年2組 望月夏音 弓道部

と書かれた1枚の紙を見つめる。退部理由の欄だけが埋まらない。退部理由は白紙のまま顧問の先生の机の上に置いた。職員室から出ると涼が話しかけて来た。「夏音!これから部活?」「あ、うん…まぁ、ね。」「どうした?体調悪いのか?」「ううん。じゃあね。」涙が出そうになって急いでその場から走って逃げた。

陽といても自分の事で精一杯で、上手く話すことが出来なくなり、学校に行けなくなった。陽やクラスの人からどうしたの?大丈夫?何か悩んでいるなら相談に乗るよとたくさんの連絡が来ていたが、全て未読のままにした。

高校は退学しようと思ったが、両親に止められ教室とは別の部屋に時々登校するようになった。その部屋には数人しか居ない。皆見たことがない人ばかりだ。学校で友達に話しかけられる事がないようにこの頃からヘッドホンをはなみはなさず持ち歩くようになった。曲をループ再生しながら学校への道を1歩1歩歩く。授業はぼーっと話を聞いて過ごした。教室から出る時にヘッドホンつける。帰りの電車の中でスマホを見ると涼から連絡が来ていた。「今日学校来てた?来た時は連絡くれよ。少し話したいからさ。」涼の優しさが文字に現れていた。「連絡ありがとう。今日夜少し話できる?」と久しぶりに人からの連絡に返信した。すると、猫がOK!と言っているスタンプが来た。涼に病気の事を話そう。と思った。

涼に彼女が出来た。同い年で可愛と有名な女の子だ。それを知ったのは私が耳の病気のことを涼に話そうと連絡をした時の事だった。涙が出たかも覚えていない。でも、スマホの画面は濡れていた。涼から「夏音話したい事ある?」と言われたが耳の病気のことを話すことはできず、おめでとう!よかったね!といつもより元気に返信して、自分の気持ちが涼に伝わらないように必死に隠した。私が高校に行かない日がさらに増えて涼から連絡が来ることもあったが、来た連絡の通知を見るのもただ辛かった。しばらくすると連絡が来なくなった。通知を見るのも辛かったが、連絡が来なくなった事はかえって涼の中から私の存在が消えてなくなってしまっているように感じて苦しかった。もう涼を好きかも分からない。涼が幸せならそれでいいと思える余裕は私の中に少しもなかった。こうして、5年間の片想いは終わった。

あんなに楽しく計画していた体育祭も結局休んだ。夏の暑さでますます学校には行きたくない。楽しみにしていた夏休み、陽と行こうねと約束していた夏祭りに歌う曲まで決めていたカラオケ、お揃いの服を買いに行こうとしていた買い物にフルーツと生クリームがいっぱい乗ったパンケーキのあるカフェ。どれにも行きたいとは思えなくなっていた。夏休みに入り毎日同じ事の繰り返しだ。あっという間に1日が終わる。夏休みが終わり始業式。久しぶりの制服は手が動かなくて着れなかった。夏休み明けからは進路などの話が出てくるようになって自分の将来について考えるなんて出来るわけないと思った。この頃から学校を休むと散歩するようになった。1歩1歩ゆっくり見慣れた町の景色、毎日違う空の色、雲の形を見ながら歩く。そうすると、私は小さくここに存在しているんだなと感じる。蝉の鳴き声が何かお前に出来ることがあるんじゃないかと責め立てているような気がした。前までは聞こえていた風の音や葉が擦れる音は聞こえなくなってきていると気づいた。

あんなに強かった日差しも柔らかくなり季節は秋なっていた。少し肌寒くなり長袖をクローゼットから出す。出したばかりの長袖に袖を通して、ゆったりとしたロングスカートを履く。最初はあんなに嫌だった通院も慣れてしまった。病院までは電車を1駅だけ乗って、その後は歩いて10分ほどで着く。大きい病院ではないが、いつも待合室には人がいる。ヘッドホンをつけたまま受付を終えた。今日はあまり混んでいなかったのですぐに名前が呼ばれた。呼ばれると言っても肩を叩かれてカルテに書かれている名前を見せられるだけ。ヘッドホンを外さないと毎回看護師さんが肩を叩いて呼んでくれる。担当の医者がそうするように頼んでいるのだろう。やはり少しづつ聴力が弱くなっているようだ。自覚があったのであまり驚かず、やっぱりか。と思った。いつも通り返事まではいかない反応をして医者からの話を聞いた。お大事に。と言われれば、軽く会釈をして診察室を出る。診察を終えて来た時と同じように駅まで歩き、電車に乗り家に帰る。毎回同じことだ。何も変わらず、日々が過ぎて行った。陽から絵文字やビックリマークが沢山ついている長文が毎日来る事も涼から連絡が来ない事も変わらなかった。紅に染まっていた葉は静かに落ち、白い雪が静かに降ってきた。雪ってどんな音で降ってくる?雪が積もっている日は病院まで車で送ってもらった。この頃にはもう会話は筆談で、私の耳はほとんど聞こえていなかった。家族から手話を覚えないかと提案された。耳が聞こえなくなると診断されてからはその事で一杯で手話を覚えるという選択肢が思い浮かぶ事さえ無かった。分かった。と返事の代わりに頷いた。その時に私は自分がこの状況を受け入れている事に気づいてなんだか悔しかった。時間が過ぎれば自然と受け入れてしまうんだな。次の日にはお母さんが本を買い、手話のサークルの見学に行くことになった。サークルなんて知らない人と一緒にいて淡々と勉強するだけだろうと思っていた。見学に行くと、講師の先生が来てくれた。先生は話しながら同時に手話で『こんにちは。望月夏音さんですか?』と言われた。私は頷いた。すると、『そんなに固くならないで〜!リラックスー!』と話して私の背中をトントンと叩いてきた。距離の縮まる速度の速さに驚いた。話していると、嫌だったら無理に答えなくて良いよと優しく元気に先生は笑った。話は自己紹介から始まった。先生は横崎亀と言うらしい。亀ちゃんや、亀先生、亀ちゃん先生など呼ばれ方は色々あると亀先生は言った。自己紹介の後はどうして手話を勉強したいのかなど手話に関わる事や、最近結婚した芸能人の話など世間話もした。この日は話だけで終わり、次回から参加する事になった。友達にも病気の事を話すことが出来なかったのになんで初めて会った人に話せたんだろうと思った。フレンドリーを超えて亀先生は不思議な力を持っているようだ。

真っ白に色を無くしていた町は色を取り戻し、優しい桃色に染めていく。春になった。通院や気持ちの面で無理のない程度に登校してなんとか高校3年生になった。新しいクラスは陽とは別になってしまった。代わりにとは言いたくないが涼がいる。もちろん別の教室に登校するためクラスメイトなど関係ない。最近の外出は週に2回開かれているサークルに行く事。亀先生に会うのが楽しみだ。高2の冬から通い始めてだいぶ手話も出来るようになってきた。サークルの雰囲気はもう1つの家と言えるくらい暖かく、とても居心地が良い。亀先生も私と同じ中途失聴で亀先生は私の事をよく分かってくれている。『夏音ちゃん!もっと笑って!表情硬いよ!』と手話と喋りを同時に使いながら先生は言った。手話では手だけでなく表情も使って表現するため、私はよく表現が硬いと言われる。手話を使う頻度も増えたせいか最近表現が豊かになってきたとお母さんに言われた。お母さんは嬉しそうだった。前のように、とまでは行かないが部屋で1人で食べていたご飯を会話は無いがお母さんとお父さんと一緒に食卓を囲んで食べるようになったり、お皿を運んだりなどの家の手伝いをするようになったり、少しづつではあるが心も体も動き始めた。数日後、学校から電話がかかってきて、新しい教科書を配るから学校に来てほしいと言われた。三、四ヶ月行っていかなかったので久しぶりに行く学校は緊張する。車で送ってもらったが中には1人で入った。ヘッドホンを付けて今までと同じように自分のクラスではない教室に入る。おはよう。と先生の口元が動いたような気がする。軽く会釈をして、袋に入った教科書をもらう。車に荷物を積み、車に乗った。暑くてヘッドホンを外す。高3の4月。音は私の世界から完全に姿を消した。人間が呼吸をするくらい自然に、私はろう者になった。サークルに通い続けていたため日常会話は手話で出来るようになっていた。テレビを見ていた時お母さんに肩を叩かれた。顔を見ると、口と手を同時に動かしながら『嫌な話しかもしれないけど、進路どうするの?』と言われた。私は手話で『夢がなかった。なりたい職業も、どうしたいとかも無かった。でも、私、手話を色々な人に知ってもらいたい。手話をもっと身近なものにしたい』お母さんは驚きと喜びが混ざったなんとも言えない顔をした。最後には泣き始めた。『分かった』と手話で伝えてくれた。学校にお母さんと行き、先生と進路について話した。手話を学ぶために専門学校に行く事にした。担任の先生は「私は学校に来て勉強する事だけが正しい道ではない思う。夏音さんにあった環境を見つけてね。そして、1歩1歩進んで夢を叶えて。」と優しく私を受け入れてくれた。嬉しかった。それから塾に通い始め、学校の定期テストで点数を取れるように勉強した。あっという間に前期中間試験になった。沢山勉強したが、結果はいまいちだった。取れている教科もあれば、ほぼ全くと言っていい程取れなかった教科もあった。それでも先生方は褒めてくれた。帰りは達成感でいっぱいでいつもはつけているヘッドホンをつけ忘れる程だった。「夏音…」涼が帰ろうとしている夏音を見つけた。久しぶりに学校で見たので話したいと思った。「夏音!夏音!」後ろから呼んだが、夏音は振り返らなかった。「無視…された…?」嫌われてしまったとも思った。しかし、夏音は気分良さそうに靴を履き帰ってしまった。外は晴れ。雲一つない青空。空が高い。飛行機が飛んでいる。どんな音がしてるかな。分からない。ふわふわしていた気持ちは一気に鉛のように重くなった。昔の記憶から音を紡ごうとするが上手く出来なかった。前期中間試験が終わり1週間。明日から夏休みだ。夏休み中の課題を取りに学校へ行った。涼や陽には会わなかった。夏休み中は塾に行って、週に2回手話サークルに行く事が習慣になっていた。お母さんにどこか1回で良いから夏休み中に家族で出かけないかと提案され、頷いた。「行きたい所ある?」と聞かれ、家にいるのもつまらないなと思い、「水族館。」と手話で答えた。数日後、家族で水族館に行った。朝からお母さんもお父さんも何だか気合いを入れて準備している。水族館に行くのは久しぶりで思っていた以上に楽しかった。大きなガラスの水槽に色々な魚が入っていて、何時間でも見ていられそうなくらい綺麗だった。お父さんとお母さんは見たことの無い色の魚や可愛い魚を見つけると子供みたいな笑顔で私に話しかけてくる。凄く楽しそうで見ている私は自然に笑顔になった。特に遠くに出かけたりした訳ではなかったけれどとても充実した夏休みだったなと思った。夏休みが終わる頃、亀先生から「ろう者の友達がやっているカフェがあるから行ってみて」とサークルの皆に連絡が来た。行ってみるとあまり大きくは無いけれどとても綺麗なお店だった。扉を開けて入ってみるとライトが点滅して、カウンターの中に居た店員さんが私をみて『いらっしゃいませ』と手話をして、ぺこりと頭を下げた。メニューの抹茶ラテとドーナツを指さした。店内は淡い色のライトがついていて暖かい雰囲気だった。1人のお客さんが本を持って店員さんに話しかけた。抹茶ラテを飲んでドーナツを頬張って見ていると、どうやら手話についての質問のようだった。「なるほどー!」とお客さんは言っているようだった。手話を勉強しているのかな…?私も手伝いたい。一緒に働きたい。突然そう思った。カフェでの手伝いのために専門学校では料理を勉強する事にした。ころころと変わる進路に先生も家族も驚いていた。目標が決まってから時間はあっという間に過ぎていった。気づけば秋も終わり冬だった。なんとか専門学校への推薦がもらえそうだ。足が震える程緊張しながら受けた面接。結果は合格。家族やサークルの皆がお祝いしてくれて、合格したんだなと改めて実感した。

3月。卒業式当日。まるで聞こえているかのように校長先生の話を聞き、卒業式は終わった。 突然肩を叩かれ振り返るとそこには陽がいた。今だ。全てを話すのは今だと思った。スマホの画面を見せる。『連絡してくれたのに見なくてごめん。耳きこえなくなったの。どう陽に話したら良いか分からなくて避けた。ごめんね』陽は泣きながら首を横に振っている。「いいの。また話せたから。嬉しい。」それから私と陽は離れていた間の話をした。心の中に少しずつ陽が溜まっていくような感覚がした。そして、涼のことを話した。もう何とも思っていない。少し自分を大切に生きていきたい。陽は少し悲しそうな顔で「うん。」と言った。

卒業式から3ヶ月後。陽が亡くなった。事故に巻き込まれたらしい。写真の中で幸せそうに笑う陽。もっともっと陽と話をして一緒に色んな景色を見たかった。もっと一緒にいる時間を大切にしていたら…。後悔ばかり。トントンと肩を叩かれた。卒業式に陽に肩を叩かれた事を思い出して思わず「陽!」と声を出し振り返ってしまった。「あ、夏音。」そこに居たのは涼だった。「あ、、」「久しぶり。少し話せる?」うん。と頷く。近くにあった椅子に座るとしばらく2人とも黙っていた。「やっぱり話したくなかった?ごめん…。」『高二の終わり頃に耳が聞こえなくなったの。』スマホの画面を見て涼は固まった。スマホの画面に文字が並ぶ『陽のことなんだけど。見て欲しいものがある』見せられたのは白い封筒。便箋には懐かしい陽の字がびっしり書いてあった。涙がでたけれど、手紙の最初の言葉にさらに涙がこぼれた。『夏音へ。私は夏音が好きだよ。出会った日から私は夏音に恋してた。夏音に言ったらどんな顔されるか怖くて直接は言えなかった。ごめんね。夏音から涼の話が出た時、実は嫉妬してたんだよ?でも、本当に夏音が大切で大好きだった。耳が聞こえなくなったって言われた時は驚いたけど、支えてあげたいって思った。夏音が素敵な人に出会えますように。夏音の幸せを願っています。陽より』 陽がいつか夏音に言おうと書いていた手紙だった。と涼は話した。

CLOSEの看板をOPENにする。私はカフェで経験を積み独立した。店の名前は「Hiyo」陽と夏音の音で陽音(ひよ)。あなたを忘れないように。私の夢と一緒に陽の想いも連れていくよ。そんな想いを込めた。

今日も私は音の消えた世界であなたの声を記憶の中から紡いでいます。そして、あなたに届くよう心の中で想いを紡いでいます。『私もあなたを好きになりました』と。

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