忘れんぼ
R
第1話
これは私が_________
"私には何が残ってる?"
そう言った疑問が頭を回る夜の8時。辛口で自分に問いかけるは,白い天井を見詰めながら虚無の空間に置かれた"夢"に対してだった。
26歳,彼氏無し,大阪出身で政治家の娘、桐谷 縁(きりたに えん)という名の彼女には一つの夢があった。
『警察官』になる事。小さい頃,旅行先の東京で迷子になった所をお巡りさんに助けて貰った際に憧れ,その頃より夢は変わらず目指していたらしい。どこまでも努力家で真面目な彼女は間違いを許せず,その性格故人間関係は多少ごたついていた時期もあったとか……。
そんな彼女が何故放心状態なのかと言えば,"夢"を諦めざるをえなくなったからである。
「明日だった…。明日には待ってたんだ。"夢"を叶えられる可能性が……」
と,白い空間に包まれ時計の音がちくたくと鳴り、ついているだけのテレビからは前世の記憶とかいう胡散臭い話をしてるだけの室内で私は呟く。動かそうとしても反応しない左腕に叫び出しそうな程の憎しみと悲哀感を感じる。
明日には警察官採用試験があった。ここ一ヶ月くらいはゆっくりしつつ,明日の為に備えようと、数日前夕飯の買い物に出掛けた時だった。信号無視の車が歩道目掛けて突っ込んできたのだ。当たりどころが良く,意識はあるものの動かない左腕。警察官を目指すものからすればこの腕ではもう"夢"もクソも何も無い。明日、が来る事がとても怖い。この腕は使い物にならない、私はこれから何をすれば良い。そう言った考えが頭を巡る。ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐるぐる。目が回りそうだよ。。。。。
ーコンコンー扉を叩く音がした。
「.............」
『大丈夫?・・・やないやんな、あんなに頑張っとったんに・・・』
「………………うん、」
悠長な関西弁でつらつらと。心配そうに私に声を掛けるは幼馴染の北岡愛琉(きたおか めぐる)。私と同い年の彼は、数年前私の後を追うように上京して今は一人暮らしをしている。私は、上京して学校へ通ったは良いものの特に仲が良いという友達が出来ず、一番身近な友人は?と聞かれたらすぐに彼と答えるであろう。しかしながら、彼は私の父親とは違う政党の政治家の父親を持っており、両親は彼と仲良くする事をあまり良しとしなかった。そんな彼はまぁ、当たり前のように私の夢を知っており一番身近で見ていたのではないか。それ故にどれ程の努力を重ねてきていたかを知っている。
「なんで、何で・・・」
『・・・っ、辛いなぁ、ほんまに。悲しいなぁ。何で縁が・・・』
彼は私を軽く抱きしめて涙を流した。その涙につられ私もぽたぽた、とシーツに跡が付くように涙が流れる。何だか、もう終わったんだなぁ、と凄く実感した。今までの努力はなんだったんだろうな。虚しい気持ちに駆られつつ、そっと目を閉じ疲れたためか私は眠ってしまっていた。
数日後の朝。あまり寝たような気はせず、大きなため息をつきながらあいも変わらずベッドから白い天井を見る。まぁそんな天井も今日でさよならだ。入院は終わり、明日からはリハビリの生活が始まる。今は動きようの無い左腕を動かすべく。
ジリリリーー
知らない番号から電話がかかって来た。
「? はい、どなたでし・・「しあわせだね」ーーープツ
誰なのか問おうとしたところ聞こえたのは男性のボイスチェンジャーの声。突然の出来事に不気味で恐怖感に襲われた。
ーー続いてのニュースです。7年前大阪府〇〇町で起きた未解決殺人事件の犯人が捕まったとの報告が入りました。ーー
私は目を見開いた。この事件は実は私の兄が被害者となり、殺害された事件だったからだ。
ーー犯人は被害者の知人男性であり、動機は「殺せと言われたから殺した」と供述しており、完全犯罪を模したやり方は全てその主犯人に言われた通りやった、との事です。警察は裏で大きな犯罪組織が動いているという可能性も懸念しつつ調査を進めている模様です。ーー
しばらく声が出なかった。悲しい、というより、怒り。呆れ、疑問。多くの感情が押し寄せてきた。呆然としながら、私は家へ帰ることを余儀なくされた。
兄の事が大好きだった。兄も妹である私にとても良くしてくれた。
兄が殺される数日前からだった。連日郵便受けに「妹のせいで兄は死ぬ」といった内容が筆ペンの様なもので書かれたハガキが入っていた。誰が入れてるのかは分からず、気味が悪いがそこまでの大事とは捉えなかった。
兄の死は突然だった。その日は兄が出かけてくるといったきり帰ってこず、連絡も無く、次の日の朝、兄の遺体が玄関の前に置いてあった。当時の記憶はもうあまり覚えていない。恐怖と混乱。何が起こっていたのか分からない。気づいたら親は私を恐れていた。その上,母親の精神状態が不安定になり、兄がいる幻覚を見たり、私を兄だと思ったり。兄が死んだその日から、私は何をするにせよ愛想笑いが増えて、親との交流も減った。
「犯罪組織、、、大きな、、組織なのか、、」
小さなアパートの一部屋でぽつりと呟く。なんか何もやる気が出ない。疲れたなぁ。
お兄ちゃん優しかったなぁー。
しばらくして郵便受けを開けた。見覚えのある字だった。
7年前の。あの字。少し掠れた筆ペンの。
「明日の朝4時。〇〇港近くのここにおいで。1人でだよ。来なかったら、また身近な人が死ぬよ」
地図と一緒に。
あからさまに怪しい文字に怪しい地図。だが、私はこれをただのイタズラとは決して思えない。そして、あまりにも展開がスムーズ過ぎる。兄を殺した犯人が捕まり、裏で動いている犯罪者からの葉書。私の退院にジャストになるよう仕向けたようにしか思えない。本当に1人で行くには危なすぎる。
地元の警察に過去の話、今日見つけた葉書の話、明日静かに事が終わるまで尾行して欲しい事など説明した。すぐに話を取り持ってくれた。あまりにも上手くいき過ぎた。怖いくらいに。
次の日、AM2:00まだ外は涼しく暗かった。〇〇港へ行くには電車を使わなければならないが始発はまだ無い。そのため警察の人に〇〇港まで歩いて15分程度の所まで連れて行ってもらった。
AM3:41 車から降ろしてもらい、歩いた。
AM3:55 目的地にめぐるが居た。
「めぐる?なんでここに居るの・・・?」
『えっ、、縁?そっちこそ、なんで居るん、?』
お互い訳が分からなかった。
AM4:00
「ーーを返してよ!!」
驚いた。聞き覚えのある声だったから。声の主は私の母親、、。
バンッ、、バンッ
「え、、?」
驚く間もなく、母親は地面に倒れた。そして後ろに居た父親も二発目で共に倒れた。
急な出来事過ぎて頭の整理も追いつかず、駆け寄りたいが足が動かない。
後ろにはめぐるがいる。次は私かめぐるが撃たれるのではないか。母親の心配よりもそっちを考えてしまう。。こういった時は、一旦落ち着いて。。今後ろには銃撃犯が居る。それに加えてめぐる。母は何故ここにいて何故撃たれた?でも銃撃犯に後ろを取られてる故、駆け寄るのは命取りだろう。
「めぐる!気をつけて!」
あれ、、、。
後ろを振り向いた、めぐるが立ってた、銃を持っためぐるが。
遠くからパトカーの音が聞こえる。こちらに来るのだろう。
「めぐる、、?何で、銃、持ってるの、?」
「うーん、人殺す以外に何かある?」
足がすくんだ。
めぐるが近づいて来て私の肩に手を乗せて、不気味な笑みを浮かべながら言う。
「パトカーいっぱい来てんで〜。俺らの事お迎えに来てくれたんかな」
全くといっていい程意味が分からない。体は全く動かないのに頭の中で様々な思考がめぐって、めぐって仕方ない。
7年前の兄の事件はめぐるが関わっていたの?
なぜこんな事をしたの?
どうやってやったの?
何がしたかったの?
なぜ上京して来たの?
あの電話は、めぐるなの?
犯罪組織は?
めぐるが主犯なの?
"思考はめぐる"
めぐるけど、答えは出ない。
めぐるは言った。
「答え合わせ、しよか?」
「ロミオとジュリエット」
「"今回"のロミオは愛が重かったらしい」
「"今回"のジュリエットは真面目な良い子だから」
「"今回"のロミオは外道でなければならなかった」
「"今回"のジュリエットの周りを消して」
「"今回"のロミオは一方的に動いた」
「"今回"のジュリエットの愛は問わず」
「そして"今回"は、政党違い、だったね」
「"今回"も"前回"も、そのまた"前回"も。」
「めぐるね〜」
パトカーがすぐそばまで来ている。音が近い
「そろそろ、お開きなんちゃうか?今回、は」
「なぁ、ジュリエットさん」
あ、、、そうだ、。なぜ忘れていたんだろう。
"前回"の私は、あなたを愛したが故に周りに嫉妬して、全てを壊したじゃないか。
そして全て終わらせたくて、あなたを巻き込み死んだ。
それを、今回はあなたがしただけ。
「ロミオ、、なぜあなたはロミオなの?」
君が問いかける。俺は、さぁ、というような素振りをみせる。
そしてまたこの言葉を言う。
「・・・しあわせだね」
ーー続いてのニュースです。本日早朝に起こった〇〇港銃撃事件の被害者である60代の女性と男性は意識を取り戻したとのことです。また、女性と男性は夫婦同士であり、もう1人の被害者の20代の女性は娘で、加害者男性とは知人同士であったと事情聴取により分かりました。現場に居た20代の女性と加害者の男性は手を繋ぎあったままの状態で、パトカーが現場に着く直前銃にて自らの命を絶ったそうです。加害者と女性の関係、動機などは未だ不明です。ーー
これは私が、私を思い出すまでの数日間。
忘れんぼ R @kitakama114
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