修行とガウル
ある時、パシェが修行に疲れてため息をついていると、外廊下に続くドアからガウルが手招きをするのをみた。休憩時間ということもあり、彼についていくと、彼は回り込むようにジェスチャーをする。パシェは彼についていくと、廊下にでて人目をさけるように、ホテルの柱や、置物に隠れながら移動する。ガウルは突然ホテルの空き室をこじ開け、忍び込むと、すぐにベランダに向かい、ドローンを彼の手から伸びる“立体的で粘り気のある影”で誘導し、隣の部屋、つまりイアナたちのいるガシュフィック・トゥループの宿泊の部屋のドアをあけた。ドローンが忍び静かにするジェスチャーをしたまま、ガウルは映像を見せる。
ドローンからの映像には、ユミエルとイアナが話している様子とまるでユミエルが抱きしめているようにイアナの肩を優しく包んでいるのがみえた。思わず小声でパシェがつぶやく。
「なんてことなの」
少し声をだしたところで、ガウルがシーッとジェスチャーをして、そして首を振った。そして耳に手を近づける、もっと聞けという事か、つまりこれは本題ではないのだろう。
「パシェは……あの子はだめなんじゃないかしら、やる気を感じない、さぼってばかり」
「君の考えに従うよ、詰めが甘いという人間もいるし、気弱だという人もいるが、君の考えが間違っていたことなどない」
ここで、ガウルは舌打ちをした。どうやら、ガシュフィック・トゥループも一枚岩じゃないようだ。
「もう少しだけ頑張ってみよう」
「そうね、あなたがいるから、私は頑張れるわ、ふさわしくないもの、私のように過激な人間は」
「ふさわしいふさわしくないじゃない、人間一人の力なんてたかが知れている、重要なのはかみ合わせだ、君は一人で抱え込むべきじゃない」
「それで、どうする?」
ユミエルがコーヒーをすする。イアナはため息をついて、しぶしぶ答える。
「もしだめだったら、領主に直々に訴えましょう、今用意した“舞台”も主役がいなければ意味がないもの、ガシュフィック・トゥループもアオハネも、預言者の言葉が必ずあたってきたわけじゃない」
やがて、イアナがユミエルを抑え込むようにして上に覆いかぶさったので、気まずくなったのか、ドローンは後ろ向きに後退していった。
「いった?」
「ああ、うまい演技だよ、イアナ」
ガラス窓が閉まったあと、イアナとユミエルは全てを悟ったように窓に近づいていった。
「わかるだろ?パシェ」
「何が?」
ガウルが立ち上がり、パシェに自分の思いを伝える。
「お前は英雄にふさわしくない、だがこの街にいてお前がお前の素性を明らかにしている以上、お前は都合よく他人に利用されることになる、本当さ、もしお前が逃げたいというのなら、俺は助ける、お前次第さ」
「ひとつだけ教えて、あなたも孤独なの?このガシュフィック・トゥループで」
ガウルはうつむき表情に影がさしたが、すぐさま何かを飲み込んだように白い歯を見せて笑う。
「そうだよ、一緒じゃないか、俺は他人からの期待に嫌気がさしている、俺の能力は、差別されるべき能力だ、骨を使うなんて、冒涜だろ?」
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