敵対
夜のとばりが降りる頃、パシェは眠れず、部屋の外にでて夜の街へと繰り出そうとする。そもそも、本当の目的はハイナのいる病院である。しかし、治療をうけ、傷を保護する魔法をつけられているとはいえ、体にかかる負担は多かった。
ホテルの屋上に見える人影、後ろからイアナが見守っている。ヘリにたっていたのはユミエルだ。ユミエルが屋上からパシェを見下ろし、その様子をみてキューブ上の“英雄錠”を手に取った。英雄錠は金属製で、薄い虹色の光をまとっている。
「ごめんね」
そうつげると薄い光の球体がゆっくりと地面に降りて行った。
天然パーマの神父が、ゆらゆらと夜の闇からあらわれる。
「パシェ……どうしたんだい?」
「神父、ヴォル神父?」
「ああ、奇遇だね」
「どうして?混合ギルドの管理は大丈夫なのですか?あなたは、重要な役職です、兼任とはいえ、その責任は重いのでは?」
ヴォル神父は、非常に温和な性格をしており、混合ギルドのギルド長を任されている。混合ギルドは、冒険者ギルドと英雄ギルド双方で解決できない仕事や、軽い任務などを請け負っている。いわば橋渡し役のような存在である。
「パシェ……この街では変な事が起きている、君は過去を振り返らなければいけない」
「!?何をいうんです?神父、いつもは私に強要なんてしないのに」
「君もわかっているだろう?10年前の事件はおかしい、君の父が死んだのは、領主の……」
「いいの!!!」
パシェが大声をあげて叫んだ。
「それ以上いわないで、地位あるものが間違える、腐敗するのは当然のことよ、英雄だって悪い噂もある、それが何だっていうの、一人では立ち向かえない、街の人々だって、領内の人々だってどうでもいいとおもっている」
「でも、ダイドならそうしたかい?」
「現実を見て!!!」
「現実?現実は君の手の中にある、まだ君は試していない、君には最強の友人がいるじゃないか」
「最強だけど、完璧じゃない!!私は彼女を巻き込みたくない!!!」
「……それでも、ダイドは待っていると思うよ、君が英雄に返り咲くのを」
足音が遠ざかっていき、パシェが顔を上げると、すでに神父はその場を去っていた。
屋上のユミエルが、うつむいて英雄錠をポケットにしまう。その瞬間に、パシェを覆っていたうすいもやのような光が浮かび上がり、空中で消えた。パシェはその場でしばらくたたずんでいたが、ユミエルがその場を去った後、すぐに後ろを振り向き屋上をみつめた。
「ここまでするのね、ガシュフィックトゥループ」
パシェは、これが幻覚だと気づいていたのだった。
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