契約 琥珀の眼
パシェは、ガウルに背負われながら、自宅の側の工場跡地から自宅をみつめて隣の女性に告げた。
「本当に我が家はこれで見納めなの?赤いコートのお姉さん」
隣にサングラスの女が立ち、サングラスを外す。琥珀色の眼が輝き、彼女につげた。突然の展開だが、彼女らは、パシェの為を思っているようだ、実際治療も受けていたし、あんな派手に街であばれたのだから、パシェも一度身を隠しておきたかった。
「私の名前……イアナよ、ほめるのは得意じゃないけれど、いい家ね」
「……」
パシェは、傷む右足を見下ろす。両足とも“虚人化”の症状がみられる。彼らがいうには“深刻な症状ではない”という。ただ“共感覚ダンジョン”ではよく起こる“疑似感染”というらしい。
「あなたはよく戦った、私は“ハイナとの契約”に基づき、あなたを指導する、同時にいくつかのミッションをこなさなければいかないけれど、彼女とあなたの安全を同時に預かるわ」
「ハイナは、どうしてそこまであなた達を信じるの?アオハネのギルドについて、噂はあるし“ガシュフィック・トゥループ”は“眠ったスキルを目覚めさせる”専門家だと聞いたことはあるけど」
「その答えは、あなたが一番理解しているのではないかしら?」
イアナという女性は、パシェの足に触れた。同時にイアナの手の甲にある深紅の魔水晶が光る。すると、パシェの足の“結晶”は一時的に姿を消した。
「何をしたの?」
「治療……いいえ、一時的に治ったようにみせただけね、根本治療は同時に行うけれど、私は時間的なものを操作できる……とでも思っておいて、ともかく私たちは暗躍しなければいけない、アオハネのギルドは、“特殊な不条理”を解決する、戦争の片棒はかつがないけれど、人々の日々の絶望を解決するわ」
いくつかの説明をしたあと、パシェは自宅を見つめる。父の父、祖父が立てた古い家だが、何度か改築した。その姿をいくつも目に焼き付けている。変わらない青い屋根、控えめな窓、失敗した釘の穴。不器用な父の残した残骸、その一つだ。
「それじゃあ、場所を移しましょう、昼の内にホテルの一室を借りておいたから、そこで全てを話すわ」
****
隣の部屋で聞き耳をたて、やれやれといった様子で、ガウルが肩の汚れを払っていると、虚ろな顔をした土使いの青年ロジェが、ガウルをみてニヤニヤして自分が見られていることに気付くとそっぽをむいた。と同時に、ガウルはもたれかかっている壁から衝撃をうける。
《ガンッ!!》
「いてっ!!」
隣の部屋で怒鳴り声が響いて、何かがドアにぶつかったようだ。その衝撃だけが壁に伝わった。
「やだよ!!!」
「やだも何も、特訓をすべきだ、その分の支払いはすでにすんでいる」
「こんな場所に監禁して、能力をつかえ!?それをハイナが望んだの!?あなた達、詐欺集団でしょ、あるいは人さらいだったんだ!!」
「でもハイナの言葉を信じているんでしょ?冒険前に彼女はなんていったの?あなたの心は動揺しているんだから、無理して今仕事に復帰すべきじゃない」
パシェは、落ち着いてため息をついた。
しばらくしてイアナが出て行ったあと、赤い目の好青年ユミエルが、英雄雑誌を広げた。随分前のものだった。そしてしゃがみ込むと、英雄雑誌をパシェに渡した。
「あの人は口下手だ、だがみんな英雄のことをしっている、本当は僕らは英雄をめざしていたんだ」
「じゃあなぜ今は目指していないの!?いきなり私に修行しろだなんて、それに、私はまだけが人よ!」
「本当にやるべきことをするためには、ウソと本音を織り交ぜる必要がある、時に何を手放し、何を選ぶかを決める必要もある、決意した人は“地位”に依存しないんだ」
「知らないわよ、あなた達のなかで、彼女がどれほどカルト的人気だなんて」
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