待機 イケ 冒険者ギルド長アセラン ダーハミール ドゥイーン

 赤髪に琥珀の眼、赤いコートと、黒スーツの女性がある礼拝室で神に祈りを捧げていた。そこに神の像はなく、この世界で精霊を意味する棒に羽のついた“イケ像”が置かれているだけだった。その聖堂は宗教を持たぬ者たちのために開放されているものだ。

「困りごとですか?」

 開いた後方中央の扉から、日光を背に、まるで後光をせにした様にたっているシスター。いたずらっぽく、いつも目を閉じている感じの笑みの崩れない糸目のシスターが現れた。黒髪で、ふくよかなお胸と、整ったからだをもっていた。立ち振る舞いもおしとやかな感じがして、まさに生ける女神のような様子だった。

「ここのシスターさんですか?」

 どこか、含みのあるような様子で戸惑いながら、演技じみた様子で話しかけるスーツの女性。

「あなたの信じる神は?あなたの望みは?イアナ」

 その呼びかけとほほ笑みから、二人はどうやら、関係が深い間柄らしいことがわかった。

「信じる神はいない、望は……“予言”が信じるに値するかどうか、判断する力がほしい、我らの肉体のために、私はリーダーである資格がある」

「予言は当たらないほうがいいわ、だって、人が防ぎたいのは悪い予言だから、幸福な予言をさらに幸福にしたいなんて、傲慢だわ」

「シスター、私たちはなぜこの街にきたのかしら、あなたは自分のやっていることを信じられる?それが不確かなものだとしても、人の役にたっている自身がなくても」

「あなたが突き詰めるべきは真実じゃない、街に生きる人々もみて、だれも“真実”だけを重んじているわけじゃないわ、人類は“こうあるべき”という仮想現実を発達させただけよ」

「……欺瞞ね」

 手を合わせたまま、微動だにしないイアナ。

「イアナ、あなたは神への信仰心が足りないわね、信じるべき神を知っているのに」

「私は知らない、あなたの名前もね」

「あら、また冗談ばっかり」

「あなたが始めたことよ、あ、いいえ、私たちは今初めてあったのよね、そういうロールプレイがしたいのでしょ?“息子”はどこ?」

「息子だなんて、いやねえ……お姉ちゃんと呼んでってば」

 シスターが冗談まじりに空気を叩くようなしぐさをすると、真横にあたる協会の壁がへこんだ。イアナという女性が呆れた様子でうつむく。

「……これは冗談じゃすまないってば」

「イアナ、欺瞞も時には必要なのよ、あなたは真面目過ぎるから、それに、人の心労を救うのは常に欺瞞だわ、あなたはあなたの守りたいものだけ守り、救いたいものだけ救う、それでいいのよ」


 しばらくすると、イアナは立ち去ろうと扉をあける。背後のシスターから声がかかる。

「イアナ、悩みすぎないで」

 ほほ笑むと、イアナは扉を閉め、どこかへ電話をかけた。

「ガウル?“予言”通りに作戦を始めるわ、これが私たちの新しい第一歩よ」


******


 冒険者ギルドの一室。ここは英雄が立ち寄ることはほぼなく、高くない能力を持つ者たちが集う。英雄の技量は魔法やスキルの評価できまり、それには蓄積された判断材料によって評価が与えられた。

「彼女は?」

「いらっしゃいます」

 三日月型の口ひげをたくわえ、バナナのような顎髭をたくわえたあまりに長い肩当てをつけた右目に眼帯をつけた男が杖をつきながら、スーツの男に会釈をする、スーツの男はぺこぺことお辞儀をして、彼を別室に案内する。

「やあ、ひさしぶりだな」

「……お久しぶりです」

 男がスーツの男に椅子に乗せられる、あまりに背が低いために、そうせざるをえないようだ。どこか、小人族の血を引いている男らしい。

「堕落した我が家の状態を鑑み、心配してくださった“アセラン”様のおかげで、旦那と結婚することができ……それが……こん――」

「無理をするな、“報復”の準備ができておる、お前の父は“ダーハミール教”の英雄だ、この街に人々が定住する以前にあった古来の宗教のな、いまだ周辺国には理解者が多い、隣国の独裁者もまたそうだ……時にお前……ドゥイーンになる覚悟はあるか?」 

 ドゥイーンとは、ダハミールで突撃兵を意味する。

「は!いつでも!!」

「うむ、はっきりというのは、心が痛むが……お前の夫“ズル”は今回の任務で命を落とした、お前がまず目標とすべきはその任務で生き残った“少女”を殺すことだ、どこで殺してもかまわん、混乱を起こし、聖地奪還の先兵となるのだ」

「は!!」






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