第10話
「じゃあ私たちは帰るね。」
私とアリシアさんは明日から学校なので一足先に帰ることにした。お父さんたちは後二日くらいゆっくりしていくらしい。皆に挨拶をしに回ってから玄関に行くとお父さんに呼び止められた。
「はい。今回のお小遣い、というかお礼。」
そういってお父さんは私に一枚の封筒を渡してきた。少し厚みのある封筒を開けて中身を確認すると中にはお金が入っていた。
「なんか今回多くない?」
昨日みたいなパーティーの後はお小遣いをもらうけどそれにしても今回は多い。
「夏休みもあるからね。せっかくだからどこか旅行にでも行って来たら?」
「驚いた。ちょうどアリシアさんと旅行に行く話を朝してたんだ。」
「じゃあちょうどよかった。キャリーケースとかは今度郵送しておくから。」
「うん。ありがと。」
封筒をしっかり鞄に閉まってから琴さんが運転する車に乗り込んだ。後部座席のシートにもたれかかると今日早起きしたせいか瞼が重い。欠伸がこらえきれずに出るとアリシアさんに笑われてしまった。
「眠かったらもたれかかって寝てもいいですよ。」
とポンポンと肩を叩いたので遠慮なくアリシアさんの肩に頭を置く。アリシアさん特有の甘い香りが眠気を加速させてそのまま眠ってしまった。
「沙月様。アリシア様。起きてください。」
琴さんに起こされて目を開けるとマンションに到着していた。なにか重い感覚がして横を見ると私の体にもたれかかるようにしてアリシアさんが寝ていた。確かアリシアさんの肩にもたれかかって寝たはず......
「途中でサービスエリアに乗ったのでアリシアさんはそこで一度降りられていましたよ。」
不思議がっている私を見て琴さんが補足してくれた。
凝り固まった体をほぐしながら車から降りると昼寝の後のようなけだるさが襲ってきて体が重い。今日のお昼ご飯作るの面倒だな。なんて考えながら車から降りてくるアリシアさんに手を貸す。
「運転ありがとうございました。帰りも気をつけて。」
「お世話になりました。」
アリシアさんと一緒に琴さんのお見送りをする。
「ありがとうございます。なにかご用事がございましたらご連絡ください。」
そう言い残して琴さんは帰ってしまった。
「じゃあ帰ろっか。」
「はい!」
「ただいまー。」
「おかえりなさーい。」
家に帰ると女神様の声がリビングからした。靴を脱いでリビングにいると女神様はキッチンにいた。それもエプロンを着て。
「何してるんですか?」
「料理というものに挑戦してます。今はぱすた?でしたっけ。それを作っています。」
女神様が指を刺した先には料理のレシピが書かれた紙が置かれていた。
「流石に一人は暇で暇で。向こうの世界も最近は平和ですし....いや平和が一番なんですけどね!?」
本当に暇だったようで水切りカゴには朝も料理をしたのか食器がいくつか並んでいた。
「さ、ちょうどできたので二人とも手を洗ってきてください。」
女神様はIHコンロの電源を切った。
「うん。」
「わかりました!」
手を洗ってリビングに戻ろうとしたけど万が一でも服を汚したくなかったので部屋着に着替えてからリビングに戻る。するとテーブルの上にトマトソースのパスタとコンソメスープが並べられていた。
「いただきます。」
手を合わせてからフォークで一口分を巻く。
「おいしい。」
トマトの濃厚なうま味が口いっぱいに広がる。お店で出てきてもおかしくないレベルだ。
「美味しいです。」
「良かったです。研究の成果がありましたね。」
ニコニコして私たちが食べるのを見ていた女神様もフォークを器用に使ってパスタを食べ始めた。
「「ご馳走様でした。」」
「お粗末様です。」
コップに注がれた水を飲んで一息つく。パスタはもちろんスープも美味しかった。一日も経たずに料理をマスターしちゃうのは流石女神様だ。これからは忙しい時は女神様に頼ろうかな。
「あ、そういえば沙月さんに伝えることがあったのでした。」
食洗器の使い方を女神様に教えたので早速女神様が食洗器に食器を並べているとき、ふと女神様が手を止めて顔を上げた。
「なに?」
「私の感覚ですけど.....そろそろです。」
「まじ?」
水を飲むのをやめて女神様を見る。
「まぁ多分大丈夫ですけどね。」
「そうなることを祈るよ。」
その日の晩、女神様がどうしてもお寿司を食べてみたいと懇願してきたので手巻き寿司をすることにした。具材は買ってきて酢飯は女神様とアリシアさんに作ってもらう。アリシアさんたちが炊き立てのご飯に合わせ酢を混ぜている間に隣で魚や薄く焼いた卵焼きを細長く切っていく。大きなお皿に盛り付けて海苔もついでに切る。そういえばアリシアさんって海苔消化できるのかな。海外の人は消化できないみたいな話を聞いたことがある。まぁ昨日も軍艦とか巻物系食べてたから大丈夫か。
手巻き寿司パーティーは楽しいものだった。具材を乗せすぎて巻けないアリシアさんや、卵が好きなのかもはや巻かずに卵そのまま食べる女神様は見ていて笑ってしまった。
そして月曜日。ついに定期試験まで2週間を切った。今日からは運動部も部活動禁止となり全校生徒が勉強に力を入れ始める。学校の図書館で勉強をしてから家に帰る。
「ただいまー。」
いつもと同じようにドアを開けるとそこには小学生高学年から中学1年生くらいに見える子が黒いワンピースを着て仁王立ちで立っていた。がその少女から途轍もない魔力が放出されて思わずアリシアさんを抱えてのけぞる。
「また会ったな勇者よ。」
そう言って挑発的に笑う少女の口からは鋭い八重歯が覗いていた。
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