第8話
ライトで照らされているステージにはスーツを着た白髪のおじいさんが立っていた。スーツ姿でいかにも厳格そうなおじいさんがマイクで簡潔にパーティーの開催を宣言すると拍手が巻き起こった。
拍手が落ち着いてくるのとほとんど同時に再び会場中の照明が点き、そこら中から話し声が聞こえるようになってきた。お父さんのところにも挨拶に来る人は多くて、私はお父さんとアイコンタクトを取りながら訪ねてくる人に対応していった。
人の動きが落ち着いてきたのでアリシアさんやお父さんと談笑していると人混みの中に突然道ができた。そこをステージにいたおじいさんが歩いてくる。お父さんと私は姿勢を正してそのおじいさんを迎えた。
「やぁ。伯士、沙月ちゃん。楽しんでるかい?」
威厳に充ち溢れていたおじいさんだったがその風貌とは真逆なほどラフに話しかけてきた。おじいさんの名前は瀬名
「父さん、パーティーやるならもっと早く知らせてって言ってあるよね。なんでいきなり開いたの。」
お父さんは少し怒ったように言った。お父さんが伝えるの遅かったんじゃなくてじい様が伝えてなかったのか。
「はは。そんなに目くじらを立てるな。儂がしたかったのじゃ。」
「父さん.....」
お父さんは呆れたのか眉間に親指を刺している。じい様は今おとうさんが経営している会社の創設者で当時はその手腕を遺憾なく発揮していたようだけどお父さんに席を譲ってからはやりたい放題していてお父さんの悩みの種の一つである。
「お久しぶりです。おじ....じい様。」
「久しぶりじゃな。元気だったか?」
「はい。」
「別におじいちゃんと呼んでもよいぞ?」
さっき言い間違えそうになったのをじい様は見逃さなかったようだ。
「社交の場ですので。」
「そうか。して....そちらのご令嬢はどなたかな?」
じい様はアリシアさんのことを見ながら聞いてきた。
「私のフィアンセのアリシアさんです。」
「なんと!」
じい様はアリシアさんの顔をじっと見つめた後アリシアさんの手を取った。
「沙月の祖父の博士じゃ。沙月をどうぞよろしくお願いします。」
「私はギノ・アリシアと申します。こちらこそよろしくお願いします。」
流石は王女様。対応もばっちりだ。こっちの世界だとじい様の圧でたじろいでしまう人がほとんどだからかじい様も嬉しそうにしている。
「ギノと言ったね?どこの出身だい?」
じい様は何気なく聞いたつもりだろう。でもアリシアさんの出身はこの世界ではないから答えようがないんだよな。アリシアさんもどう答えたらいいかわからなさそうだ。
「じい様。少し事情があるので後程時間を頂けますか?お父さんたちと一緒に。」
正直家族に嘘をつきとおすのは難しいだろうし、アリシアさんを認めてもらうにも伝えておくべきだろう。
「わかった。この後は儂の家に来ると良い。ばあさんも会いたがっておったしの。」
「ありがとうございます。」
それからつつがなくパーティーは終わり、おじいちゃんの家にやってきた。使用人さんにテーブルと座布団が置いてある部屋に案内されたのでアリシアさんを私の横に座らせる。
「えっとじゃあ話していいかな?」
私はみんなが頷くのを待ってから順序だてて話した。
「――って感じなんだけど.....」
「沙月を疑っているわけじゃないんだけど、何か証拠になるようなものは持ってたりしないかな。」
話し終えた後お父さんが聞いてきた。まぁ何もなしに納得してもらえるなんて思ってないけど。
「おばあちゃん。電気消してもらってもいい?魔法を使うから。」
「ええ。」
一番電気のスイッチに近かったおばあちゃんに頼んで部屋を暗くしてもらった。私は手のひらに力を集めて炎を出した。
「これで信じてもらえる?」
私の手のひらから出てきた炎は部屋中を明るくした。
「マジックとかじゃないよな。」
「伯士。これは疑いようもないだろう。」
まだ信じられない様子のお父さんにおじいちゃんが諭した。
「確かにタネは無いけど......」
「沙月、とにかく無事に帰ってきてくれてよかった。儂も全てを理解できたわけではないがな。」
「おじいちゃん....」
「それで他にはどんなことができるんだ?」
「いろいろできるよ。氷を出したり、光を出したり。」
「あとでもっと見せてくれ。」
「良いよ。」
「沙月ちゃん。おじいちゃんを甘やかしすぎちゃダメよ。すぐ調子に乗るから。」
テーブルに身を乗り出してきたおじいちゃんをおばあちゃんが手で制止した。
「婆さん。こんなチャンスは二度とないんじゃ。」
「他に話は無いの?」
おばあちゃんとおじいちゃんの言い争いを割って入ったのはお母さんだった。
「他?特には。」
「じゃあいいじゃない。沙月も無事で、アリシアちゃんも合意の上でついてきているのでしょう?なら私たちから言うことはアリシアちゃんを大事にしなさい。くらいでしょう。」
お母さんはきっぱりと言い切った。
「そうだね。僕も取り乱しちゃった。」
「そうね。」
「そうだな。」
「それよりもアリシアちゃんの歓迎パーティーをしましょうよ!お寿司でも頼んで。」
「お、それはいいな!おい!」
おじいちゃんが手を鳴らすとどこからか人がやってきた。
「寿司を頼んでくれ。できるだけ早くな。」
「かしこまりました。」
それから数分もした後、机にお寿司が並べられていた。
「え、早くない??」
「そうか?こんなものだろう。」
おじいちゃんは平然と言うがおじいちゃんの家は山奥だしこのあたりにお寿司屋さんはなかったと思うけど.....
「ああ、沙月には言ってなかったか。この家の近くに寿司屋を立てさせたのだよ。」
「お寿司屋さんを?」
「ああ、といっても儂等かこの屋敷の使用人たちしか使わないけどな。」
「ええ......」
本当におじいちゃんの行動力はすごいな。お父さんも大変だろうな。
「私はやめとけって言ったんだけどね.....」
ちらりとお父さんの方を見ると俯いてそんなことを呟いていた。ほんとお疲れ様です。
でもお寿司に罪はないので食べる。アリシアさんも初めて食べるお寿司に感動している。
「美味しいです!」
「遠慮しないで食べな。どうせおじいちゃんのお財布からだし。」
「あはは。」
「今回は僕からも少し出すよ。沙月にはいろいろお世話になったし。」
そうお父さんが言った。
「なんだ。伯士、今回も沙月ちゃんに頼んだのか。」
おじいちゃんはそんなお父さんを叱るような口調で言った。
「沙月の目には敵わないからね。」
「沙月の目が特別なのはその通りだがそれではいつまでたってもそのままだぞ。」
「はい......」
お父さんは叱られてシュンとしている。ここで反論しないところもお父さんのいいところだと思うけどな。なんて考えているとアリシアさんが私の袖を引っ張った。
「目ってなんのことですか?」
「なんて説明すればいいかわからないけど私は目が良いの。」
「視力が良いってことじゃないですよね?あ!人を見る目とか?」
「正解!すごいね。」
アリシアさんの頭をご褒美に撫でてあげるとアリシアさんは「えへへー」とかわいらしく微笑んだ。
「私の目はね。人を見るのに長けてるんだ。一目でこの人は成功する。失敗するがわかるんだ。もちろん百発百中じゃないから失敗すると思った人でも成功する人はいるけどね。」
ただ成功すると思った人は例外なく成功しているけど。ちなみにパーティーが始まる前に会った加賀さんは失敗すると思っていたけど成功したタイプの珍しい人だ。
「そうなんだよ。いつも沙月には感謝だよ~。」
お父さんが割って入って来た。お父さんは私の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。いつもだったら振り払うけど今日はもう出かける用事もないからおとなしくされてやるか。と思ったけどお父さんの口からお酒の匂いがしたので振り払った。
「お母さん!お父さんお酒飲んでない?」
「え?あっ。ノンアルコールと間違えてる。」
「もう...早く寝かせてあげて。」
「伯士さん。行きますよ。」
お母さんがお父さんに肩を貸して部屋から出て行った。
「お父さんはお酒に弱いからすぐ酔っちゃうんだよね。」
「そうなのですか。」
「どうした?」
アリシアさんは妙に弾んだ声で表情も緩み切っていた。
「どうしたって?」
アリシアさんの顔は赤くなっていた。
「え、まさかお酒飲んでないよね?」
慌ててアリシアさんのコップを確認したけど普通のジュースだった。
「いや、そんな沙月さんのお目にかかったんだなーって。」
アリシアさんは視線をそらして指を弄りながら頬を真っ赤に染めていた。
「おじいちゃん。眠くなっちゃったから部屋に戻るね。」
「そうか?部屋はそのままにしてあるが.....」
私はアリシアさんの手を取って立ち上がると部屋を出た。
「さ、沙月さん?」
困惑しているアリシアさんを無言でおじいちゃんの家にある私の部屋まで連れて行きベッドの上に押し倒した。
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