第6話
私のスマホから着信音が鳴っている。
「誰からかわかる?」
私はお皿洗いで手が離せなかったのでアリシアさんに確認してもらうことにした。
「えっと、瀬名 はく..し?ちょっと読めないです。」
「あー多分私のお父さんだ。ちょっと待って。」
お皿洗いをやめて手をタオルで拭いてからスマホを手に取ると瀬名
「ごめんちょっと外行ってくる。」
アリシアさんに一声かけて部屋の外の廊下に出た。
「もしもし。」
「久しぶり。沙月。僕だよ。」
スマホから聞こえるトーンの低い声は私のお父さんの声だ。久しぶりに聞いた気がする。実際久しぶりなんだけど。
「今回は何?」
お父さんとは仲が悪いわけではなくむしろ良好だがお父さんから電話がかかってくるときは大抵なにか私にとって面倒ごとが起きる。
「実はね.....今度パーティーに出て欲しいんだ。」
「パーティー。」
「そう。まぁパーティーは名ばかりでいろんな人が挨拶に来るんだけど。」
「.....わかった。けど一つ条件がある。」
「珍しいね。何だい?」
「一人連れて行ってもいい?」
「え?彼氏でもできた?」
「ん~そんなとこかな。」
「ぜひ、というか必ず連れてきなさい。お父さんが見極めるから!」
「お父さん.....キモイ。」
「ぐっ.......」
電話先でダメージを受けた音がしたけど実際きもかったし。
「まぁ僕は沙月を信じてるけど。日程とかは後でメッセージで送るから。
「りょーかい。」
「じゃあもう暑いからエアコンとか使って寝るんだよ。」
「はーい。ばいばい。」
「おやすみ。」
電話が切れた。やっぱり面倒ごとじゃないか。
部屋に戻るとアリシアさんが洗い物を済ませておいてくれて手をタオルで拭いているところだった。
「やってくれたの!?ありがと~。」
「私も何か手伝いたかったので.....わぷっ。」
勢いのままアリシアさんに抱きついた。なんかもう愛があふれてくる。....その前に。
「手だして。」
「?」
一旦離れて手を出してきたアリシアさんの手のひらに保湿クリームを塗る。アリシアさんの綺麗な手が乾燥にやられるのは嫌だ。
「くすぐったいです」
そう身をよじるアリシアさんの手のひらに入念に保湿クリームを塗りこんだ。
「そういえば何のお電話だったのですか?」
アリシアさんは手をもにゅもにゅとさせながら聞いてきた。
「三日後にパーティーに参加しろってさ。」
「パーティー.....なにか嬉しいことでもあったのですか?」
「いいや.....パーティーよりも食事会の方が近いかも。」
「お食事....いいですね。」
「まぁ食べるのがメインじゃないんだけど。」
「お食事会なのに食べるのがメインじゃない?ちょっとよくわかりません。」
「確かにおかしいよね。それでそのパーティーについてきて欲しいんだよね。」
「私もですか?」
「そう。一人にさせたくないし、お父さんに紹介しなきゃいけないから。」
本当は実家に連れては行きたくないけどまだアリシアさんを留守番させておくのは少し心配だ。
「お、お義父様に?」
「そう。でも特に準備は要らないから気楽にしといて。」
「わかりました。」
「じゃあさっきの続き~。」
私の足の上にアリシアさんを乗せて後ろから抱きしめるようにしてテレビを見たり、英単語帳を見たりしてのんびり過ごした。
そして三日後。
「迎え来たから出るよ。」
「はーい。」
ラフな格好で家を出た。実家に行けばそれ用の服なんてたくさんあるし、家から着て行ったら疲れてしまうだろう。女神様にはクッキーを買って廊下に置いておいた。
「お久ぶりです。沙月様。」
一階のエントランスに行くと実家での私についていたメイドさんの
「今日はよろしくね。琴さん。」
「初めまして。アリシアと申します。」
「アリシア様ですね。私は
外に停まっていた車に乗り込むと音を立てずに発進した。
「なんだか緊張してきました。」
私の横に座っているアリシアさんが私にだけ聞こえるような声量で言った。私は王様にもとから会っていたから緊張はほぼなかったけどアリシアさんは初対面だから緊張するのも無理はないか。私はアリシアさんの手を取って、「不安だったら手を繋いであげるから。」とからかいをすこしだけ含めてアリシアさんの手を握りながら言うと、「不安じゃなかったら手は繋いでくれないのですか?」と思わぬ反撃が帰って来たのでつい手を離してしまった。しかし次はアリシアさんから手を私の手に絡めてきた。私はもう恥ずかしさや幸せとかが頭の中がぐるぐる回っておかしくなってしまい結局実家に着くまで手を握っていた。
家の鍵を開けて玄関に入る。少し懐かしい匂いがした。
「ただいまー。お父さーん。」
玄関でお父さんを呼ぶと二階から物音がした。そのあとすぐにスーツ姿のお父さんが階段から下りてきた。
「元気にしてた?えっとそちらが.....」
「初めまして。アリシアと申します。」
お父さんは一瞬キョトンとした顔を見せたがすぐに気を取り直し私に耳打ちしてきた。
「ねぇ。彼氏って昨日言ってたじゃん。」
「私はそんな感じって言っただけだよ。」
「ええ......で付き合ってるの?」
「うん。でもその辺は後で話そ。」
「そうだね。」
お父さんは私から離れると
「僕は瀬名 伯士。沙月の父だよ。よろしくねアリシアさん。」
「よろしくお願いします。」
お父さんが自己紹介をしたタイミングで階段の方から足音が鳴った。
「あ、
「お母さん!」
階段から下りてきたのは私のお母さんで名前は佳澄だ。お母さんは真っ赤なドレスに身を包んでいた。
「お母さん綺麗。」
「ありがと。話は聞いていたわ。アリシアさんね。瀬名 佳澄よ。よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします。」
「ねえ。沙月ちゃん。」
お母さんはアリシアさんの方から私の方に向き直るとガシっと私の肩を掴んだ。
「ねえ!こんなかわいい子どこで捕まえたのよ!私がドレスを選んでもいいのかしら。」
お母さんの興奮した声が玄関に響く。アリシアさんを実家に連れて行くのが嫌だった理由の一つがこれだ。私のお母さんは極度のかわいいもの好きであり、アリシアさんを連れて行ったらお母さんの着せ替え人形と化すのはわかっていた。
「さ、沙月さん?」
興奮しているお母さんに腕を引かれて家に上げられたアリシアさんは困惑した表情で私を見つめてきた。もちろん私は.....親指を上げて「頑張れ!」とウィンクを返した。
「か、佳澄さん.....」
アリシアさんには申し訳ないけど犠牲になってもらおう。私は着せ替え人形にはなりたくない。そっとその場を離れようとすると二階からお母さんが覗いてきた。
「もちろん沙月のも選ぶからいらっしゃい。」
「.....はい。」
まじか......
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