第5話
「これがカレーですか。」
鍋でカレーを煮込んでいるとリビングで勉強をしていたアリシアさんが匂いにつられたのかキッチンにやってきた。
「うん。本当に辛口でいいんだね?」
「はい!それが美味しいのでしょう?」
「アリシアさんがいいならいいけど......」
不安だなぁ。向こうの世界で辛いもの食べたことなかったけど大丈夫かな。私は最初甘口か中辛にしようとしていたがなぜ辛口を買ってきたのかというと学校からの帰りにスーパーに寄ったときまで遡る。
「あれ?たくさん種類があります。どれがいいのでしょう。」
アリシアさんは甘口と中辛と辛口で迷っているようだった。
「私はいつも辛口だけど....」
「じゃあこれでいいですか?」
アリシアさんは私の持っていた買い物かごに辛口のカレールーを入れた。
「大丈夫?辛口食べれる?」
「大丈夫です!私辛いの得意なので!」
あの時アリシアさんは得意げにそう言っていたがよく考えると向こうの世界に辛いものがあった記憶がない。もしかしたら辛さの度合いを勘違いしているかもしれない。
「ほんとに辛いから中辛にしてもいいよ?」
「大丈夫ですよ。辛口で。」
そう言って私はレジまで押されてしまった。一応のために甘口を手に取ってアリシアさんにばれないように会計を通した。
「アリシアさん。一応味見お願いできる?」
あとは一時間くらい寝かせるところまでカレーができたので味見をしてもらう。もし辛すぎて無理なようなら甘口を急いで作ることにしよう。アリシアさんは私が差し出したスプーンをぱくっと咥えるともぐもぐとジャガイモを咀嚼して飲み込んだ。あれ?平気そうだな。
「美味しいです!」
「辛くない?」
「はい!ここまで辛いのは初めてですけど美味しいです!」
「そっか。じゃあこのままでいいね。少し置いた方が美味しいからその間にお風呂に入っちゃおうか!」
「お風呂!はい!」
アリシアさんは素早くお風呂を沸かすボタンを押した。こっちのお風呂は向こうの物と比べて多機能なのでアリシアさんは大分気に入ってくれたようだ。
「お風呂が、沸きました。」
10分と数分後に給湯器が機械音声でお風呂が沸いたことを教えてくれた。
「じゃあ、お風呂行ってきます。」
嬉しそうにスキップをしそうなくらい弾んだ声で私に一声かけてからアリシアさんはお風呂場に向かっていった。
シャーとシャワーの音がリビングに聞こえてきた。私は洗い物を乾燥機に並べてから着替えを持ってお風呂場に向かった。
「私も入るー。」
「はーい。」
服を脱いで浴室に行くとちょうどアリシアさんは頭を洗っているところで髪があわあわになっていた。
「髪洗ってあげる。」
私がそう言うとアリシアさんはすっと手を下に垂らしたので手にシャンプーを取ってアリシアさんの髪に指を滑り込ませた。アリシアさんの髪はサラサラしていて柔らかいので丁寧に撫でるように洗っていく。軽く指圧でマッサージをしながら洗っているとアリシアさんは体重を私の方に預けてきた。
「アリシアさん。しっかり座って。危ないから。」
「つい気持ちよくて......」
眠そうな声だなぁと笑いながらシャワーで泡を流していく。完全にシャンプーを落とし切ってからトリートメントを髪全体になじませるようにつけた。
「もう体は洗った?」
「まだです.....」
「体は自分で洗える?私は自分の髪を洗うから。」
「はい.....」
アリシアさんは少し不満げに返事をした。
「なに?体も洗ってほしかった?」
とからかうように言うとアリシアさんは顔を真っ赤にして
「そ、そんなことはないです!」
と叫ぶように言って体をスポンジで洗い始めた。
「は~~生き返る~」
体と頭を洗い終わってトリートメントを流してからお湯に浸かる。昨日は忙しくてゆっくり入る暇がなかったから今日は少し長めに入ろう。
「アリシアさん。おいで。」
私は真正面に座っていたアリシアさんに手を広げて言う。アリシアさんはお風呂のせいなのか照れているのかわからないけど顔を赤くして私の膝の上にゆっくりと座った。
ぎゅっとアリシアさんのお腹に手を回して私の方に引き寄せるとどこからが私なのかわからなくなるほどに肌と肌がぴったりとくっついた。最初はプルプルと震えていたアリシアさんも徐々にリラックスしてきたようだ。やっぱりハグって幸福ホルモンが出るんだなぁ......ずっとこうしてたいくらい......
「長風呂しすぎた......」
ついつい長くお湯に浸かりすぎてしまったせいでのぼせる一歩手前まで来てしまった。浴室から出て脱衣所にあるウォーターサーバーから水を注いでアリシアさんに渡す。
「ありがとうございます。」
アリシアさんはコップを受け取るとすぐに飲み干してしまった。もう一杯水を飲んでいるアリシアさんの横で私は体を拭き、下着のままリビングに行きエアコンの電源を入れた。脱衣所に戻るとアリシアさんは体を拭いていたので大事にはなっていないようだ。でも危険なことには変わりないので反省。
リビングに戻って来た私たちがカレーを食べていると一日ぶりに女神様が部屋の中から出てきた。
「いい匂いがしてきたので出てきたのですが私の分もありますか?」
「ありますよ。」
女神様にはテーブルに座っておいてもらってカレーとご飯をよそう。サラダも簡単に盛り付けて女神様の前に置いた。
「わぁ!美味しそうですね。いただきます。」
ぱくっとスプーンを咥えた女神様はスプーンを咥えたまま動きを止めた。そっとスプーンをお皿の淵に置いて喉を鳴らして飲み込んだ。次の瞬間。
「からぁぁああああああああ。」
そう叫んで火を吹いた。比喩表現とかではなく本当に口から火を吹いた。
「ちょ、ちょっと女神様!?」
「辛すぎますよぉ....」
涙目でそう訴える女神様にヨーグルトと牛乳を渡すと女神様は数口食べてはヨーグルトを食べると言った方法でなんとか完食した。
「ごちそうさまでした。美味しかったですけど辛すぎません?」
「沙月さんはいつもこれを食べているそうですよ?」
「次は甘口にしましょうか。買ってありますので。」
「お願いします......」
女神様はコップに注がれた水を飲み干して部屋に戻って行った。
「甘口、買っていたのですね。」
「アリシアさんがもし辛口が食べれなかったら甘口にするためにね。」
「もう........」
アリシアさんに甘口を買っていたことがばれちゃったけどなぜかニマニマして嬉しそうだった。そのあとしばらくニヤついているアリシアさんを横目に洗い物をしているとスマホから着信音が鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます