第4話
「アリシアさん。もう行ける?」
「ちょっと前髪が....」
「まだー?」
今日からというかこの世界では時間が進んでいなかったので当然なのだが今日は学校がある。玄関でアリシアさんを待っているのだが5分くらいアリシアさんは鏡とにらめっこしている。
「そろそろ遅刻しちゃうよ?職員室にもいかなきゃだからね。」
「もうちょっと....よし!」
アリシアさんは玄関までとことこと歩いてきた。
「かわい.....」
思わず口から漏れる。アリシアさんは真っ白なブラウスに劣らないほどの色素の薄い腕をあらわにしていた。さらに紺色のリボンが全体的に薄めなアリシアさんとマッチしていて似合っている。本当に本の中から出てきたかのような存在に見惚れていると
「沙月さん?行きましょう。」
学校が楽しみなのかいつもよりテンションの高いアリシアさんが私の手を引きながら外へと出た。
「暑い.....」
朝だというのに太陽はやる気に充ち満ちていた。向こうの世界は年中過ごしやすい気温だったからアリシアさんはこの暑さに慣れていないだろうな。
「もし体調悪くなったら言ってね。」
「はい!私には魔法がありますけれどね。」
「そのことなんだけどね.....できるだけ魔法は使わないようにしてほしい。」
私は学校へ向かいながらアリシアさんに話す。
「どうしてです?」
アリシアさんは不思議な様子だ。まぁ向こうの世界だと適正はあるけど誰だって魔法が使えたし。
「前にも話したけどこの世界の人は魔法が使えないんだ。だから魔法を使うのは本当にどうしようもない時だけね。」
「わかりました。ちょっと不便ですが頑張ります。」
「助かるよ.....」
本当は別の理由もあるのだが納得してもらえたならそれでいいだろう。私も違和感くらいで確証は無いし。
「初めまして。私はギノ・アリシアです。最近日本に来たばかりなので迷惑をかけてしまうかもしれませんがよろしくお願いします。」
アリシアさんが教壇に立って話すとクラス中から歓声が上がった。ちなみにギノというのはアリシアさんの苗字で本当はもっと長いのだけれど本名は長すぎると女神様の計らいでこうなった。
.......アリシアさんが可愛いのは知ってるけどあまりいい気はしないな。なんか妬ける。おそらく私はあまり良い表情をしていなかったのだろう。アリシアさんは私を目を合わしてから、
「あと。」
と歓声を遮って口を開いた。
「そこの瀬名沙月さんとお付き合いをさせていただいています。なので沙月さんに下心を持たないでください。」
クラス中がシンと静寂に包まれた。きょとんとするアリシアさんと頭を抱える私。別に隠すつもりもなかったけど自分から言うか。どうしようかと考えていると
「えええええ!瀬名さんとアリシアさん付き合ってるの?」
「新聞部!出番よ!」
「あの瀬名さんに彼女?嘘だろ.....」
「ああ、尊い......」
私の不安とは裏腹にクラスメイトの反応はポジティブなものだった。驚きつつも教壇に立つアリシアさんに目を合わせると彼女はいたずらっぽく舌を出した。
「わぁ.....」
「尊過ぎて呼吸が.......」
「そんなことでまぁ瀬名が面倒を見てやってくれ。あ、みんな仲良くなー。」
担任の先生はそう言って朝の会を終わらせて職員室へと戻って行ってしまった。とりあえずアリシアさんは誰も使っていない席を使うことになった。
「ねぇアリシアさんはどこの出身なの?」
「家での瀬名さんってどうなの?」
「どんな馴れ初め?」
休み時間になるとアリシアさんの周りに人だかりができる。それ自体はまぁ転校生だし仕方ないのかもしれない。でも!私は恋人なのに.....
本当はアリシアさんをあの輪から攫ってどこかの空き教室に逃げてもいいのだけど....今日はそれもできない状態だった。なぜなら
「瀬名さん。石川さんと付き合ってるのって本当なの?」
「いつから?」
「でも石川さん最近日本に来たって.....」
噂好きの女子たちが私の周りも囲んできたのだ。これでは次の授業の準備すらできない。アリシアさんがうまく切り抜けてくれることを祈って私はひとつづつ質問に答えていった。
「疲れた.....」
昼休みも囲まれるのは面倒だと思い、授業が終わった瞬間お弁当袋を持ってアリシアさんを連れて空き教室にやって来た。追ってくる人もいたがなぜか途中から追手がなくなったので不気味だがもう大丈夫だろう。一応結界を張ってくる人がいたら気づけるようにしておく。
「はい。これアリシアさんの。」
お弁当袋からアリシアさんの分のお弁当箱を取り出して渡した。
「はい。お弁当。」
「わぁ!ありがとうございます!」
今日のお弁当はおにぎりを二つとおかずを数品入れたシンプルなものだ。たこさんウィンナーとか入れてみたけどアリシアさん喜んでくれるかな。
アリシアさんはお弁当箱の蓋を取ると顔を輝かせた。
「何ですか?これ。」
アリシアさんはお箸でたこさんウィンナーを持ち上げた。
「それはたこだよ。」
「たこ?」
「そう。海に住んでる生物。」
「お魚みたいなものですか?」
「あ、でもそれはウィンナーって言ってお肉だよ。」
「魚なのにお肉?」
アリシアさんは頭の上にはてなを浮かべていた。とりあえず食べてみることにしたのかアリシアさんはウィンナーを一口で頬張った。
「美味しいですっ!」
アリシアさんは顔を上げて笑顔で言った。
「良かった。」
アリシアさんの口に合うか不安だったけど良かった。これならこっちの料理でも喜んでもらえそうだな。
なんて今日の晩御飯の献立を考えつつ、慣れないお箸でお弁当を食べるアリシアさんを見ながら私もお弁当箱の蓋を開けた。
午後の授業が終わって帰りの会が終わった瞬間、私はアリシアさんの手を引いてすぐに学校から出た。どうせ今日は残っていても面倒になるだけだろう。でも帰りは話しかけてくる人がいなかったけどどうかしたのだろうか.....
――昼休み。沙月とアリシアの教室では三人の女生徒が教壇に立っていた。もうすでに沙月たちは空き教室に逃げていた最中だったが。その三人の中の中心に立っていた女生徒が口を開いた。
「我々!瀬名ファンクラブは名称変更をし、瀬名アリシアを
彼女は元瀬名ファンクラブ会員NO.001、ファンクラブの創設者であり会長の
そんな彼女の提案によりこれから沙月とアリシアが一緒に居るときに間に入っていく行為、必要のない会話をしに行く行為は厳罰化されることになった。
ただ当の本人たちは裏でこんなことがあったことも知らずにスーパーマーケットで夕飯の買い出しをしていたが。
「今日はカレーを作るよ。」
「かれー?なんだかわからないけど美味しそうです!」
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