第3.5話
瀬名沙月。私たちの国が召喚に成功した勇者であり、私のこ、恋人の名前。
今でこそ彼女は私の祖国を救ってくれた英雄だけど初めて彼女を目にしたときの私の感想は「私と同じくらいの歳の少女に魔王を倒す力などあるのか。」だった。沙月さんが召喚された時とても驚いていた様子で、償還の儀式に参加した他の聖女たちも本当に勇者なのかと疑う声も多かったです。
しかしそんな不安は杞憂に終わりました。彼女は類稀な魔法の才能を持っていて王国に攻め込んできた強敵に被害を出さずに圧勝したことで自分の強さを王国中に知らしめると父様の命令で魔王を倒す旅に出ることになりました。
旅に行くことが決まったとき、沙月さんは一人で旅に出ようとしていました。そもそも仲間を探してすらいませんでしたけど。私は王宮で訓練していた沙月さんによく回復魔法をかけてあげていたし、話をすることもあったのでついて行くことにしました。私があの王国で一番強かったのも理由ですけどね。
私が王女だということは隠していたけど、それでも対等に話せることは私にとって初めてだったので私にとって沙月さんは初めて”友達”だと言える存在でした。
でも私は沙月さんに隠していることがあります。本人には話せませんが私はお父様からある神具を持たされていました。それは所有者が命を落としたときに指定した場所で生き返れるというう少し変わった能力を持つ神具でした。だからもし私が旅の途中で沙月さん諸共死んでいたら私だけは生き残れてしまっていました。
そんなこんなで旅に出た私たちだけど以外と魔王の住む魔王城と呼ばれるお城まではすんなりいくことができました。もちろん敵とは戦ったけど日に日に強くなっていく沙月さんは敵をバシバシ倒していくので予定より相当早く魔王城にたどり着くことになったのでした。
ただ旅の途中で一度だけ喧嘩、までとはいかなくても口論になったことがありました。それは沙月さんが自分の犠牲を顧みないことがきっかけでした。私の回復魔法やポーションがあるからと危険な依頼を受けたり、危険な場所に単身で乗り込んだりを繰り返していました。ある日傷だらけで宿まで帰って来た沙月さんを見て私はつい怒ってしまいました。
「沙月さん。危険な場所に一人で行くのはやめてくださいと言いましたよね。せめて私を連れて行ってください!」
「だってアリシアさん戦えないでしょ。アリシアさんを守り切れなかったら.....って考えると怖くてね。」
「それよりも自分のことでしょう!もう回復魔法は使いません!」
「じゃあポーションで良い。別にアリシアさんに頼らなくても私は進める。」
「どうしてそこまで.....」
「だって私には帰る場所が無いから。」
私はハッとした。そうだ。沙月さんは他の世界から召喚されたからいきなり日常を失ったわけで。なのに沙月さんから帰る場所を奪った私がそんなことを言っては....
「ごめんなさい。そんなつもりじゃ...」
「ごめん私も言い過ぎた。」
シーンとした空気が部屋を包みこんだ。私は立ちあがると沙月さんの傍に座り回復魔法を唱えた。いくら回復魔法と言えど時間が経ち過ぎた傷は残ってしまうから。
「沙月さん......私だって王国では最強と言われるほどの聖女でした。少し、少しでいいんです。私を頼ってはいただけませんか?」
「でも.....」
「別に戦闘に連れて行けとまでは言っていません。ダンジョンに潜る前に支援魔法をかけさせていただくだけでいいのです。お願いします。」
「それなら.......」
「ありがとうございます。」
何とか沙月さんを説得した次の日。私はダンジョンの前で沙月さんに魔法をかけた後、沙月さんの後をこっそりとつけてダンジョンに入りました。
「沙月さん。」
「○!※□◇#△!:@^¥」
後ろから声をかけるとそれはもう文字通り飛び跳ねて驚いていました。
「あはは。驚きすぎですよ。」
「どうして!危険だって。」
「でももうダンジョンに入っちゃったのでせめて途中の休憩エリアまで行かないと出れないですよ。」
「ああもう!私の傍から離れないで。」
「いいえ。今日は私が戦います。というより今沙月さんの魔法は使えないはずです。」
「え?本当だ....」
「さっきかけた魔法は支援魔法ではなくて弱化魔法。デバフの類ですね。」
「ダンジョンは遊びじゃないんだよ!?」
「まあ見ててください。」
私は自分に強化魔法をかけて沙月さんを背負いながらダンジョンのモンスターを休憩地点まで狩りつくしました。休憩地点についてから沙月さんを下ろして弱化魔法を解きました。
「どうですか?私も戦えますよ。」
「こんなことのためにわざわざついてきたわけ?」
「あ、ご迷惑でしたよね...ごめんなさい......」
やりすぎてしまったと頭を下げる私に沙月さんはゆっくり近づいてきて......私の頭を撫で始めました。
「え?」
「もー、私に認めてもらうためにわざわざこんなことを?あーだめだ。おかしい。」
「あの?え?」
怒っているかと思えば私の頭を撫でてきてさらに笑い始めた沙月さん。私が戸惑っていると
「わかった。これからは戦うときとかは一緒に行こう。約束。」
「本当ですか!」
顔を上げると沙月さんは笑って返してくれた。
そのあとのダンジョンは支援魔法を受けた沙月さんが目にもとまらぬ速さでダンジョンを制覇していきました。
この件で私と沙月さんは本当の意味で仲間になれたのだと、今は思います。
それから沙月さんとの距離が縮まって、沙月さんは私の髪を触るのが好きなのかよく寝ぼけたまま触るようになりました。私も沙月さんに頭を撫でられるのは好きなのでされるがままになっていたのですけど。
それからついに魔王と戦うことになりました。流石世界征服をたくらむ魔王ということもあり、今までの戦いとは一線を画す戦いになりました。死闘の末、何とか魔王を倒して世界に平和がもたらされました。
沙月さんは力を出し尽くしたのかその場に倒れこんでしまったので私の残った魔力で回復魔法をかけました。今度は逆に私が倒れてしまいましたが沙月さんに背負ってもらって周辺の街の宿まで帰ってきました。帰っているときの記憶は曖昧でしたが沙月さんの背中があったかかったことは覚えています。
そうして王国に帰ってきて沙月さんは報酬をお父様から貰うことになりました。沙月さんは貴族とかには興味ないのだろうと勝手に思っていると沙月さんは私が欲しいとお父様にお願いしました。私は驚きましたがもちろん答えはYESです。沙月さんはその後元の世界に帰ることになりましたが私もついて行くことになりました。というかもしおいていくつもりなら無理やりにでもついて行きます。
なぜって?旅の途中に聞いた話だと向こうの世界には私のライバルになりえる人たちがたくさんいるらしいですから。
「アリシアさーん。」
沙月さんが私を呼んでいます。日記をつけるのはここまでにしましょう。明日から学校という所に行くらしいです。ある程度は沙月さんの記憶から見せてもらいましたが何かあっても沙月さんと一緒なら問題ないでしょう。
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