第2話

「おはようございます。さ、沙月さん。」

目を開けると愛しのアリシアさんがいた。寝ぐせがついていてかわいらしい。

「名前で呼んでくれるんだ。」

「こ、恋人なので。だめですか?」

「ううん。嬉しいよ。おはよう。アリシアさん。」

昨日の夜と同じようにアリシアさんのおでこにキスをする。

「き、着替えてきますね!」

顔を真っ赤にしたアリシアさんは部屋から出て行ってしまった。しばらくぼーっとしてから私も着替えようとベッドから下りて着替えていると部屋のドアが開いた。

「沙月さん。朝ご飯を.....ごめんなさい!」

アリシアさんは手で目を覆い隠した。本当にいちいちかわいいな。この子は。でも.....

「見てもいいから扉だけしめてもらえる?」

流石にアリシアさん以外に見られるのは本意ではない。


「いただきます。」

「いただきます。」

手を合わせて朝ご飯を食べる。この世界の料理は見たことがないものばかりだけど全部美味しい。

「そのいただきますとはなんだ?」

一緒に朝ご飯を食べていた王様が聞いてきた。

「これは沙月さんの国での風習ですよ。生き物に感謝をして食べるのです。」

アリシアさんも最初聞いてきたっけ。いつの間にかアリシアさんも言うようになっていた。

「それは素晴らしいな。」

王様も手を合わせて「いただきます。」と言った。


「食事後すぐで申し訳ないのですが。」

私はそう前置きして元の世界に帰らなければならないことをアリシアさんと王様に伝えた。

「儂はいつでも構わないぞ。」

「私も大丈夫です。」

二人は思ったより軽いリアクションだった。そういえばこの世界に戻ってこられるのだろうか。

(いつでも戻ってこられますよ。)

頭の中で女神様の声がした。帰ってこれるならそこまで重く考えなくてもいいのか。二人と話し合った結果五日後に元の世界に戻ることになった。


「じゃあ沙月さん。行きましょうか。」

アリシアさんは私の手を取って私を立ち上がらせた。

「どこに?」

「沙月さんはこの国を観光したことが無いですよね。案内しますよ。」

「じゃあデートだね。準備するから少し待ってて。」

「で、デート。」

急いで部屋に戻るとクローゼットを開けて服を漁った。どれが似合うかなと鏡越しに合わせながら服を選ぶ。結局白いワンピースを着ることにした。このワンピースは旅の途中に寄った町で買ったものだ。

「お待たせ。じゃあ行こっか。」

「は、はい。」

 

 アリシアさんと手をつないで王宮を出た。町中のあちこちには飾り付けがされていてまだまだお祭り気分は冷めていないようだ。

「さ、どこに行く?」

「ちょ、ちょっと手を離してください。」

「いいけど。」

手を離すとアリシアさんは指と指を絡めるようにして手をつないできた。

「こっちの方が好きです。....沙月さん?」

あまりの可愛さに天を仰いでいるとアリシアさんに心配されてしまった。

「ごめんごめん。まずはどこに行くの?」

「えっと最初はですね――。」

そのあと街の洋服屋さんに入って服を見たり、食事処でお昼ご飯を食べた。日が沈みかけてきたのでアリシアさんは帰ろうとしたが私の希望で宝石屋さんに入った。

「店長さん。もうできてる?」

「あー。勇者さん。できてるよ。」

私は店長さんに話しかけた。店長さんが裏から持ってきた紙袋を受け取って店の外に出た。アリシアさんは鈍い方だと思うがなんとなく察しがついたようで恥ずかしそうだけど嬉しそうな顔をしている。足取りもなんだか浮ついている。

 夕日の見える時計塔のある広場までやって来た。いつもは人がいるけど今日もパーティがあるので私たち以外に人はいなかった。私は一呼吸おいてから口を開いた。

「アリシアさん。」

「ひゃい。」

私はアリシアさんの正面に向き合う。そしてアリシアさんに気付かれないように歩いている龍に紙袋からポケットに移しておいた掌に収まるくらいの箱をポケットから取り出した。箱を開けるとそこには黄色の宝石をあしらった指輪が入っている。なぜ黄色なのかと言うと私の目の色が黄色だからだ。ちなみにお揃いのデザインのもう一つの指輪はアリシアさんの目の色の青色の宝石が埋め込まれている。

「手、出して。」

私がそう言うのよりも先にアリシアさんは左手を私に差し出していた。私は指輪を箱から出すと、アリシアさんの薬指にはめた。

「これからもよろしくね。アリシアさん。」

「こちらこそ....よろしくお願いします。」

アリシアさんは指輪を右手で優しく触れながら微笑んだ。私はもう一度アリシアさんを幸せにすると誓った。

「じゃあ私にもつけてもらえる?」

私は自分で用意したもう一つの箱をアリシアさんに渡した。アリシアさんは指輪を取り出して丁寧に私の左手の薬指にはめ込んでくれた。

「沙月さん。」

「なに?」

「私、幸せです。」

「私も。」

ここには私たち以外誰もいない。私はつい気持ちが昂ってアリシアさんの唇を奪った。


その日の夜、お風呂に入った後も指輪を眺めているアリシアさんが可愛くてたまらなくてまたキスをしてしまった。

同じベッドに入ってお互いの心音が聞こえるほどの距離で私は夢の世界へと落ちて行った。

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