◆Ⅲ或る神の夢
私たち13神皇は元来神ではない。私だって田舎町の或る牧師の子どもとして生まれた。ただ、勉学や芸術に関して才があっただけだ。だが、今では人々は私を神皇と呼ぶ。もし私が神だというのなら、それは先代の7th様の箱を開けた時からだろう。そして今、私も自身の役目を終えようとしている。否、全人類の我慢がようやく実を結ぼうとしているのだ。
神殿に集ったのは13神皇、最高位神官、そして特別な許可を得た管楽の才を持つ者だった。皆一様にところどころ金の刺繡のある真っ白の布を纏っている。今から終末の儀が執り行われるのだ。
私たち13神皇は、各々が配下とする最高位神官たちに、葡萄酒が注がれた盃を渡していく。その葡萄酒に眠るように安らかに死ねる毒薬が仕込まれていることは暗黙の了解とされていたし、それを拒もうとする信徒はいなかった。神官たちは盃を受け取ると、神皇に深く、深く頭を垂れた。
「皆に、行き渡ったな?」
神皇を取り囲むように円陣を組み、盃を胸の位置に掲げる最高位神官たちに向かって、1st=万真天が確認するように問いかけた。最高位神官たちは一様に頷いて返事とした。
「では、始めるとしよう。これより一切離輪の儀を執り行う」
1stの合図とともに、管楽隊の演奏が始まった。楽曲の題は『球遠』といい、高位な神官たちの葬儀でよく演奏される交響曲の一つであった。球とは昔は星を意味していたが、今では宇宙全体を言い表す。つまり、球遠とは全時間の宇宙のことである。
曲が終わるころには、神官たちの盃は空になっていた。管楽隊らは演奏を終えると、ナイフを手にし、自身の首を掻っ切った。そして、13の神が神ではなくなった。残った13人はかつて自分らを崇拝していた者たちだった黒い箱を次々と開けていく。全ての箱が消えたら、今度は1stと13thが盃を飲む。2ndと12thが一つずつ箱を開けて盃を飲む。そして最後には7thだけが残った。7thは盃を手にし、涙を流した。7thが死ぬことで儀式は幕引きとなり、本当の終わりがやってくる。
7thは盃を傾けた。だが、葡萄酒は7thの口に落ちることはなかった。
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