緑の男(3)
今日は何を書こうかな……。
植木さんが東京に転勤してから十日が経っていた。
急に決まった転勤だった為、彼はほぼ毎日送別会が入り、私たちはあの夜以来会うことなく離れ離れになった。
会うことはできなくなったが私は毎日、彼に短いメッセージを送り続けている。
送るのは一日一通、平日のみ。内容はその日あったことや感じたことで、ほとんど日記のようなものだ。
愛の言葉を送ることは決してないし、通話はしない。
メッセージは読んだらすぐに削除するように伝えているけれど、いつ何時、彼の家族に見られるかわからない。リスクは最小限にしなければならない。
それでも既読が付けば彼が読んでくれたことが確認できるし、短いメッセージが返ってくることもある。
それで充分だった。
そんな毎日を過ごしていたある日、課長に声をかけられた。
「阿部さん、今年度のスキルアップ研修計画書の提出日、明日だけど出来てるか。」
「はい。出来てるのですぐ送ります。」
我が社は従業員のスキルアップ教育に多くの予算を割いていて、たとえ事務職員でも一年に一度は社外の研修に参加する義務がある。
昨年は近場で適当な研修を見つけられたのだが今年は更にステップアップしたものを受ける必要があり、その会場は東京だった。
会社の予算で植木さんのいる東京に行けると思うと、自然と心が弾んだ。
一週間ほどで研修参加の承認が下りたので、私は彼に日程を知らせるメッセージを送った。
約一か月後の夜、彼と東京で会う約束を取り付けることができた。
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