MESA PHILIA
ぴくるす
1章
1.
『おい、犯罪者が来たぞ逃げなきゃ殺されるぞ逃げろ』
そちらを見れば下卑な笑い声をあげながら俺から距離を離す子供の形をした影たち。そんな声を無視して離れようとすれば子供たちは、握りこぶし程度の石を持ち俺を狙ってくる。
『犯罪者が逃げるぞ捕まえろ』
その声を皮切りにいつの間にか子供ではなく石を持った大人に変わり拳大の石を投げてきて、何個かが体にぶつかる。それでも無視を決め込み、目的地へ足を進める。
その行動が癪に障ったのかだんだんと投げる量と強さが上がっていって。そのうちの一投が頭に当たって体が地面にぶつかる……。
ハッと目が覚めた俺は、ベッ卜の上だった。
「最悪だ、こんな日に悪夢を見るなんて」
俺は後味の悪さをうがいした水とともに吐き出す。
俺、辻村
前の学校では問題があり、色々あって年が変わるのを期にもともと住んでいたところからこっちに引っ越してきた。久しぶりに同年代と話すことになるけど大丈夫、大家さんとの会話はちゃんとできていた……はず。
時計を見るとまだ六時、まだ外は暗いし、もう少し寝ることも考えたが今日は転校初日、寝癖で悪印象を持たれては困る。前回の二の舞にはなりたくない。身支度をする前に朝食にしようと冷蔵庫を開けるがゼリー飲料しか食べられそうな物は何もない。
しかたないとゼリー片手に、暇つぶしになればと買った中古の型落ちテレビをつけると、天気予報を伝えているところだった。どうやら夜の七時頃、大雨が降るらしいのだが、軌道がなかなかに変な動きをしている。右から左に動いているらしく、こんな動きはベテランのリポーターでさえ見たことがないようだ。丁度今元々住んでいた所に雨が直撃しているらしい。速めに引っ越してよかった。
ゼリー飲料をすぐに飲み切り、身支度をするが生まれてこの方お洒落なんてする機会はなく前の家から持ってきた櫛くらいしかない。ないものねだりをしても仕方が無いので、後々揃えればと深くは考えないでおく。
そうこうしているうちに時間は七時半に迫ろうとしているところで、意味のない身支度を終えてテレビを見るとニュース番組がやっていて、最近巷を騒がせている雨男について報道されていた。
「またPHILIA犯罪者、速く捕まればいいのに」
PHILIA、2019年から突然飛来した水晶のように透明な隕石の総称であり当時は人間を進化させる石だと言われていた。だが蓋を開ければどうだ、世界人口の約0.2%の人が死に至り、PHILIAを使って生き残ったやつらが自らを覚醒者と称して世界各地で大犯罪を行い始めた。あいつらは人の力では扱えないような特殊能力を1つ持ち、自分は特別だから何でもしていいと本気で思っている。
世界がPHILIAを持つ者たちを嫌悪するのは必然だったと言えるだろう。
半数以上は世界各地で捕らえられたが何千人も殺害するような大犯罪者は、まだ捕まっていない。雨男もそのうちの一人で、雨男は名前の通り雨が降っているときにしか現れなず、元々俺が住んでた地域の近くで出没していたらしい。雨の日は皆、冠婚葬祭でも家からは絶対に出ないほど怖がられていた。
らしいというのは、俺が雨の日に外に出ても現れたことがないからだ。元々地元は雨が強い地域だ、雨に飲まれて死ぬ人を減らすために実際にいる犯罪者の取り戒めにしたんだろう。
いつものように無駄なことを考え、気が付けば家を出る時間、俺は前日のうちに用意した荷物を持ち家を出る。家から数メートルほど歩いた後に今日雨が降ることを思い出したが、七時には帰れるだろうと取りには帰らず学校へ向かった。
俺の家は駅から徒歩15分ほどにあるマンションで少し遠いがその分ほかのマンションよりも安くて契約することができたんだが、俺のリサーチ不足で近くにコンビニやスーパーも無かったし、街灯も少なくかなり暗い。それを知ったのが引っ越しをして1日目の夜、お腹が空きコンビニに行こうと飛び出したのはいいもののスマホの充電は切れて真っ暗の中、道も分からず迷いながら30分もかかってコンビニに着いたことを思い出した。
あの時に比べればこの辺と学校周辺の地理はもう覚えたと言っても良いだろう。
駅に着き十分ほど電車に揺られれば俺の転校する高校の雲原高校に着く。俺は事前に言われていた通り、空き教室に向かう。現在の時刻八時半、普通なら遅刻だがサプライズをするために他の生徒に見られにくい時間に登校するように言われたのだ。空き教室自体教室から離れていて見られずらいのだが。
「失礼します」
「おー! よく来た座れ座れ」
この人は俺の担任になる新井田先生、俺の過去を知っても態度を変えずに接してくれる。熱血系で数学科の先生だ。誰にでも同じように接するので嫌う人と好きな人が半々くらいいると笑って教えてくれた。
「ちゃんと来てくれて良かった、良かった、もしかした学校にトラウマがあるかもと思っていたからな」
「大丈夫です、サプライズをするという話でしたが何をするんですか?」
「おっ、そうだなもう行くか」
そう言うと新井田先生は空き教室から出て行ってしまい俺は、慌てて後を追う。どうにか追いつくことができない速度では無いが歩幅を大きく少し小走りじゃないと横に付いていて歩くことはできない。
「先生もう教室に行くんですか、サプライズは」
「転校生がいること自体がサプライズだ胸を張れ」
何にも準備が出来ていない俺をよそにそのまま先生は、代わりに連絡事項を伝えていた副担任と変わり教室に入っていってしまった。
俺は先生の合図を待とうとするが、先生は目で速く入ってこいと圧をかけてくる。俺は諦めて、教室に入る。急に入ってきた俺のことを皆が見ているのを感じながら先生の横につく。
「皆こいつが気になっているな、こいつは今日からお前らと学ぶ転校生だ」
クラスで悲鳴にも似た絶叫が巻き起こる。先生もサプライズ大成功だなと頷いている。まだ顔も名前も知らないがここまで喜んで貰えると少し嬉しくなる。
絶叫が終わるくらいに先生に背中を叩かれ、そうだったと俺は自己紹介を始める。
「初めまして、俺の名前は辻村一よろしく」
簡単に名前だけ伝えて先生に席を案内してもらう。俺ももっと好きなこととか言った方が良いのではと思ったけど、先生いわく相手から歩みよってもらえるから友達ができやすいそうだ。
俺は前の高校では誰も話しかけて貰えなかったので知らなかったが、今は自己紹介にも技術がいるらしい。
そんなこんなで朝礼も終わり、先生が授業で教室から出る前に、クラスの九割方が俺の机に集まってきた。その時点で嫌な予感がして出ていく先生を見るが先生は笑うだけで教室を出てしまう。次の瞬間、嫌な予感通りの質問ラッシュに俺は頭を抱えてしまう。
とりあえず聞き取れた質問だけを返していくが、まだ熱は冷めないのか質問に答えるたびに来る質問の量が増えてくる。神はここに居たのか質問が捌ききれなくなった俺に救いの手が差しのべられる。
「みんな、ストップだ辻村が困っているだろう」
その言葉に皆が文句ありげな目で見つめる。しかしそんなこと気にも留めないの彼は言葉を続ける。
「みんなが質問をクラスの目安箱に入れればいい、中身はすでに抜いておいたから」
そう言うと机の周りに集まっていた人たちは質問を書くためか机に戻って行った。俺の所には助けてくれた彼だけが残った。彼はクラスの中心人物なのだろうか風貌から真面目な印象を受けるが、先の話し方からどこか気さくな印象も受けた。それはそうと助けられたことのお礼をしていないことを思い出した。
「助けてくれてありがとう、えっと」
「濱田遼西、このクラスの学級委員だ、何かわからないことがあったら何でも聞いてほしい」
「わかった濱田さん? 今日からよろしく」
「遼西でいいよ、これから一緒に学ぶんだ壁は方が楽しいだろ」
「ok、よろしく遼西」
そうして遼西は自分の席に帰って行った。これでようやく一息付くことができた、質問攻めに合うことは分かっていたがここまで囲まれるとは思っていなかった。気が付くと次の授業まで時間が迫っていて慌てて用意を始める。
_________________
正直、授業について行けるか不安だったが前の学校とあまり変わらなかった。体感二時間くらいでで6時間目まで終わり、帰りの会も今終わった。いつものように帰ろうとしたところで遼西に呼び止められた。どうやらカラオケで俺の歓迎会をしてくれるらしい。
「歓迎会に主役が来ないなんてないだろ」
「大丈夫、帰っても暇で暇で何しようと思っていた」
「それはよかった、みんなー主役が行くって」
遼西の後ろから朝の時に似た歓声が湧き上がる。そのテンションのまま俺たちは、遼西の案内でおすすめらしいカラオケに向かう。さっと見たところクラスの半数以上ががついてきており、この人数でカラオケに押しかけて入れるのかと危惧したが杞憂だったようで、すでに朝のあの時から予約していたらしい。俺が断ったらどうするつもりだったんだろうか。
そうして学校から数分ほど歩くと有名カラオケチェーンに着いた。店に入ると流れで部屋に案内された。予約すればここまでスムーズなのかと思うと同時に、部屋のデカさに驚いた。クラスの半数以上が入っているのにまだ余裕がある。驚く俺をよそにみんなは、食べ物を頼んだり、もう歌を入れ始めている。
誰が歌うんだろそう思った時、流されてきたマイクが俺に渡る。どうやら俺に歌わせたいようだ。入っている曲も流行りの中でも簡単で俺でも知っている曲が入れられていた。あまり得意ではないが一生懸命歌う。
歌い終わると盛大な拍手が俺に降りかかる。単純だが世界が明るくなった気がした。
そうして俺たちは歌い、俺が目安箱から質問を返し、また歌う。それを繰り返すうちに時間が来てしまった。
会計を割り勘で終え、外に出ると現在六時、もうすでに暗い。名残惜しい中俺と遼西はみんなに別れを告げて駅方面に歩き出す。どうやら方面は違うが駅までは同じらしので一緒に帰る。
「今日は楽しかったか?」
「そうだな、ここまで楽しいと思えたのは久し振りだ」
「よかった、結構強引に連れてきたから」
「大丈夫だ、急にマイクを渡された時は驚いたけど」
「はは、悪かったよ」
俺たちは互いの顔を見て笑う。本当にここまで笑うことができたのはいつぶりだろう。今が一番輝いているような気がする。だが彼の顔は段々と真面目な顔に変わって行った。
「どうした?」
「いや急なんだけど、この街には行ったらダメなところが何個かあるんだ」
「ダムや廃墟とかのことか?」
「もっと危険なところだほらこれを見て」
そう言って彼は携帯のマップを見せてきて場所を指し始めた。
「まずはここPHILIA犯罪者が拠点にしてるって噂、噂だけどここの近くにはいつもPCCHが常に監視してる。」
PHILIAその言葉を聞いて体が強張る。もうあの事を知っている人はここにはいないはずなのに、誰かに監視されるような錯覚に陥ってしまう。
「次はここ、ここが一番危険で異能解放軍の幹部の拠点があるって噂」
「異能解放軍? 何だそれ」
「PHILIA至上主義みたいな考えを持ったマフィアみたいなの、PHLIAを全人類に与えようとしてるらしい。」
PHILIAがばら撒かれるなんてゾッとするがそれ以上に地図を見てびっくりしてしまた。一番危険と言われる場所が住んでるところから行けるほど近くにあったのだ。
彼にどうしようか聞こうと思ったが、気づけばそこは駅で彼はもう電車が来るからと、さっさとホームに降りてしまった。呼び止めようと思ったが俺が乗る電車もすぐに来てしまう。俺は諦めて明日聞くことにした。
現在六時半、俺は電車に乗り込み帰路に着いた。
MESA PHILIA ぴくるす @pikurusuc_c
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