第八話 戦闘の後
ベレッタとミリデは一階へと降りた後、昼食を作りに料理場へと向かって行った。
リビングの椅子に座って待ち、五分。やがて二人は完成した料理を運びながら黒兎の元に戻って来るのだった。
「不本意だけど、アンタの分も作っておいたから。感謝してよね!」
彼女らしい言葉と共に、品と食器がテキパキと並びられる。
自身の前で芳しい香りを漂わせている料理へ視線を向け、黒兎は心の中で呟いた。
(ナイフ、フォーク。サラダにスープ、ステーキ。一見前の世界と変わらない食事に見えますが……)
使われている食材は大きく違う。
「翼竜の尾を使ったスープ、不死鳥の卵を加えたサラダ、飛び兎の腿肉のステーキ。見慣れない食べ物がいっぱいあると思うけど、味は保障する」
「残したら許さないから」
黒兎と同じように席につき、二人は並べられた料理に手をつけ始める。彼女らの様子を冷えた目で観察。どうすればいいか把握した後、二人を習いスプーンを手に取り、スープを掬って口に運んだ。
「……」
喉の奥に流し込み、続けて二口、三口。
変わらない平坦な口調で一言零した。
「……美味しい」
そのまま黒兎は、淡々と処理するように口の中へ食べ物を放っていく。
彼女の様子を二人は意外そうな面持ちで眺めていた。
「とても美味しいです。味覚など私にはもう残っていないと思っていましたが……確かに感じられる」
サラダやステーキにも手を付け、あっという間に完食してしまった。
「ふ、ふーん……中々わかってんじゃない」
「意外……何考えてるかわかんなくて、味の良し悪しすら理解できないような奴だと思ってたから……」
「ご馳走さまでした」
軽い会釈をし、黒兎は食器をテーブルの上に。まだ食事を続けている二人に対し、まだ答えを聞けてなかった疑問を口にする。
「では、質問の続きをさせていただきます。どうしてベレッタとミリデは組むことになったのでしょう。こちらの世界の住人が、権能持ちに力を貸す必要性が見えません」
「別に力を貸すって程じゃないけどね、今の私じゃ戦えないし……ただ匿ってるだけ」
「まあでも匿うだけでも危険が伴うのは確か。権能持ち同士の戦いに巻き込まれて命を落とす可能性はあるし、特別な事情がない限り関わらない方がいい」
「つまり、二人には特別な事情がある……ということで間違いないですか?」
「そういうことになるね。私達が協力するようになったきっかけだけど、それを話すより先にこの村に起きているある事件について話した方がいいかな。そうした方がわかりやすい」
「ある事件、とは何でしょう? 魔王が倒されたというのはこの村というよりこの国の問題ですし……」
「若い女性が突然行方不明になる。そんな事件が二週間程前から多発してるの」
ミリデに深刻そうな面持ちで告げられ、眉を顰める黒兎。
二週間前、その単語は妙に聞き馴染みがあった。最初に送られた権能持ち、『
「まさか、それも死神が?」
「ハッ、そんな単純な話じゃないっての」
呆れるような声色でベレッタが言う。
「そいつより少し後に来た権能持ち。『
「そう。タロットの六番目、『恋人』の権能をシンメトラから授かった奴がこの村の女の子を何人も攫ってる」
「街へ買い物に行ったきり帰ってこなかったり、夜出歩くとそのまま戻ってこなかったり。魔物が霧の森から消えて廃村が安全になって、ようやく活気が戻って来たな~って思ったときにこれよ」
この村を回ったとき、若い女性が少ないことに違和感を持ったの思い出す。殆どが男性で、見ても年寄りばかりで。その原因も権能持ちのせい。一般人に手をかけても得にならないだろうに、わざわざ攫う意味などあるのだろうか。
「魔王が死んでから私に目的が無くなってさ、取り敢えず故郷に戻って来たのが一週間前。廃村に起きている異変を知ってそれを解決しようと動き回ってる中、霧の森でミリデを見つけて家に泊めさせたのが六日前」
「そしてベレッタから村の現状を聞いたのが五日前。情報を手に入れ、それが権能持ちである『恋人』のせいだとわかったのが三日前」
「ミリデは私に言ったの。自分が別の世界から来た事、チート・ロワイヤルのこと。それと自分が事件の元凶を倒して、攫われた人達を助けてくれるって。正直意味不明だったけど、表情は真剣だったから嘘言ってるわけじゃないってのはわかった。だから今は協力し合っている。と言っても、さっき言ったように家を貸しているだけなんだけど……勇者の杯はその恋人ってのに反応しなくてさ。どう? これでアンタでも理解できたんじゃない?」
コクリと頷く。二人の説明で彼女達が組んでいる理由がよく分かった。
ベレッタは廃村で起きている事件の解決のため、ミリデは刻印を手に入れるため。こちらの世界の住人はチート・ロワイヤルと全く関係無いが、勝利のためなら彼らも利用するのも手だろう。
ミリデは僅かに残っていたサラダをまとめて口にいれ、咀嚼。飲み込んだあと、話を切り替えた。
「今までは恋愛を倒しに行く機会を伺っていた。そいつの権能は強力で、私一人だと正直不安だったから。でも今は違う。君がいる」
手にしたフォークを置き、真っすぐ黒兎を見た。
「権能に力は無いみたいだけど、強さは十分だった。早速行こう」
「恋愛を倒しにですか?」
「そう。だけど、その前にあいつの元に行きたい」
「あいつ……とは?」
「『
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