第13話 目立つ少年

巧望君が驚いて振り返ると、秋君の手をスルリと抜けた少年がそこには立っている。

少年は巧望君のスマートフォンを何やら操作した後、巧望君に返す。

みんなの驚愕の視線を一身に受けつつ、さっきまで意識がなかったのが嘘みたいな堂々とした立ち姿の少年。


よく見ると、その少年はとても目立つ容姿をしていた。

芸能人にいそうな整った容姿に、服は十字架と大きな翼が中央にプリントされた厚手の黒のパーカーに、下は黒の縦ラインが入ったグレーのジャージと派手な格好。

おまけに、髪は白っぽい青髪で襟足の長いウルフ。


助けるので精一杯で気付かなかったけど、この人めっちゃ目立つ!

みんなからマジマジと見られて、少年は気まずそうに苦笑いを浮かべる。


「なーに?そんなにじっと見つめられちゃ、おにーいさん困っちゃうな。」


フランクなその様子にも私たちが固まっていると、1番最初に動いたのは、


「大丈夫〜?怪我してるね〜。」


信武君だった。

素早い身のこなしで少年に駆け寄ると、少年の口元をシャツの袖で拭う。


「ああ、大したことない。って……待て、それ白シャツじゃん!」


少年が焦った声を上げて、信武君の手首を掴む。


「大丈夫〜。替えはいくらでもあるし、何ならクリーニングに出せばいいから〜。」


信武君は問題ないと言うように首を振って見せる。

その袖には血が付いていた。

その血に気付いた私たちは、慌ててその少年に駆け寄る。

少年をよく見ると、口の端に血痕が残っていて、その様子を見るに口の中が切れているようだった。


「口の中、切れたみたいだね。口、開けて〜。」


信武君が少年の顎を、親指と人差し指で掴んで持ち上げる。


「大丈夫だって。避けられなくて一発食らったけど、歯は無事!」


少年が身を捩って抵抗しようとするが、信武君がその頭を押さえつけて睨む。


「口、開けて。」


今まで見たことない信武君のその強気な様子に、私はびっくりして目をパチパチさせた。

いつになく強引だな、信武君。

その様子に負けたと言うように、少年は口をパカッと開ける。


「ふんふん、べろが切れてるね〜。食いしばろうとした時に噛んじゃったみたい。歯は、無事そう〜。」


信武君はシャツの胸ポケットからペンタイプのライトを出して、口の中を見回して言った。


「だろ!だから、大したことないんだって。」


少年は信武君の言葉に安堵したように笑う。

だけど、信武君は顎を掴む指を緩めない。

再び胸ポケットに手をやると、滅菌パックに入った木の板状の物を取り出す。

滅菌パックをビリッと破って、その板状の物を取り出して少年の舌に当てる。


その板状の物は舌圧子ぜつあつしだ。

口や喉を診る時に舌を抑えるために使う医療器具で、病院に行ったことのある人は一度は目にしたことがあると思う。

何故それを信武君が持ち歩いているかは、分からないけど。


「うん、虫歯1つないし、歯茎も腫れてないね〜。」


少年の口の中を覗きながら、信武君は感心したように頷く。


「昔から俺、歯とかには自信あんの!どうも虫歯になりにくい体質みたいでさ。」


すると、調子付く少年。


「だけど、ここも、ここも、ここも、口内炎だらけ〜。さては、君、ちゃんと食べてないでしょ〜?」


その少年の口の中を舌圧子でぐりぐりと攻撃しながら、信武君は鋭い視線を向けた。


「うぐっ、痛ぇ、痛ぇ。分かったよ、降参!」


少年は悶えながら、信武君の攻撃する腕を掴む。


「正直にどうぞ〜。1日何食〜?」


持っていた舌圧子を口から引き抜いて少年に突きつけると、信武君は口調は穏やかに視線は鋭く聞いた。


「まちまちだ、日による。」


少年はふと真面目な顔になって、考えながら言う。

信武君は追及の手を緩めない。


「今日でも昨日のことでもいいから〜。」


自分に向けられた強い視線に、少年は言いづらそうに口を開いた。


「昨日は夜飯だけで、今日は……まだ、だ。」


その瞬間、信武君は舌圧子を放り投げて、その手で少年の腹部を触る。


「っ、痛って!」


少し力を入れて押したようで、少年は悶絶する。


「お、おい、一応怪我人なんだろ?そいつ。」

秋君が慌てて、その手を少年の体から引き剥がす。

だけど、信武君は秋君には目もくれず、少年をじっと見て口を開いた。


「病院、行っても行かなくても、まずはちゃんと食べないと回復しないから。」


真剣な中に呆れの混じった光を浮かべる、信武君のグレーの瞳。


「回復も何もない。大した怪我じゃねぇんだからさ。」


少年はそれを鼻で笑う。


「いいや、信武がこんなに口うるさく言うっていうのは、大したことある証拠だ。そうだろ?」


巧望君が少年の言葉に大きく首を振ると、話を信武君に振る。


「うんうん、そうそう〜。だって、肋骨折れてるから〜。もしかしたら、お腹も集中的に殴る蹴るされてるから、内臓にもダメージあるかも〜。」


信武君はのんびりとしたいつもの口調で、とんでもないことを言い放った。

発言にも驚きだけど、その口振りはどこか医療関係の知識を持っているかのようだった。

でもそんなこと、任務の資料には書いてなかったけどな……。

不思議に思いながら信武君を見ると、少年もぎょっとした様子で声を上げた。


「マジで!?通りで、さっきから話したり息する度に痛みが走るわけだ……。」


事の深刻さに気付いた少年に、信武君は満足気に頷くと、少年の来ていたパーカーの裾に手をかける。


「ほら、見て〜。脇腹が内出血してる。」


バッと勢いよく裾を捲ったので、目を背ける時間もなく、みんなはその痛々しい内出血を直視することになった。

脇腹に広がる赤い内出血、それを見た秋君が真っ先に顔をしかめながら口を開く。


「うげっ、痛ったそう!範囲的に2〜3本イってんじゃねぇ?」


巧望君がそれに同意しながら信武君を見る。


「肋骨の骨折は大体が保存療法だから、病院に行ってもあまり大した治療はしてもらえないはず。信武が懸念してることは他にあるんだろ?」


巧望君の視線を受け、信武君はその瞳に強い光を浮かべて頷いた。


「1番俺が危惧してるのは、生活習慣。ちゃんと食べてないから、骨折なんかしたら治りが遅くなるのも当たり前〜。骨だけじゃなくて内臓なんかも大分弱くなってると思うから、ダメージがすごく心配〜。でもODしてないことだけは、褒めてあげる〜。」


信武君のODという言葉に反応して、少年が声を大きくする。


「ODは誓ってしてねぇよ!俺らの界隈、タタ界隈は、そういうのに手を出したら追放っていう決まり事まで作ってんだから。それであいつらに目を付けられてこの様だ!」


興奮して話したせいか、言い終わった後に痛みで少年は座り込んで呻いた。

巧望君がその横にしゃがみ込んで、その背中を摩る。


「とにかく、俺は君に数日でもいいから病院で療養生活してほしいの〜。」


信武君は放り投げた舌圧子を拾って滅菌パックに丁寧に仕舞いながら、少年を真っ直ぐ見据えた。

その目は憂いを帯びていた。

だけど、信武君のその視線を受けて、少年は困ったような表情になる。


「俺も自分の体がボロボロな自覚はあんの。でも、保険証とかは親に持ってかれてるし、第一病院に入院となったら親に連絡行くだろ?親に居場所バレんのがちょっとね。」


少年には少年の事情があるようだった。

私はちょっと息を吐いて、さっきから何度も考えて何度も打ち消した考えを1つみんなに提案しようと口を開く。


「あの、私、知り合いの医師がいるんだけど。もしかしたら、保険証とかなしでも診てもらえるかも……。」


おずおずと言うと、真っ先に信武君が目を輝かせた。


「スーちゃん、やる〜!!」


バッと私の正面に飛び込んでくる信武君を受け止めながら、私はグルグルと思考を巡らせる。

何故なら、これは大きな賭けだったから。


私には知り合いの医師はいない。

でも、おそらくTerminus専属の医者または病院はあるのではないかと考えたんだ。

確証はないけど、確信はしている。

組織の任務によっては負傷することは少なくなく、組織の事情で一般の病院にかかるのは難しいところがある。

そのため、組織の本部があるワシントンDCを始めアメリカには、専属の病院に加えて、組織関係者専用の大学病院まである州もあった。

だから、規模は本部ほどないけど、日本支部にもそんな存在があるはずだと考えたんだ。


だが1つ、ここで問題がある。

今回は任務による負傷でもないし、当の負傷者の少年は組織の人間じゃない。

それを加味して、日本支部の支配人グレイソンがこの要求に応じてくれるのか。

そんな不安を少し感じながら、私は少年を見る。


「名前くらいは教えてほしいな。流石にどこの誰かなのかは、病院も知りたいはずだよ。」


渋っていた割には意外と嫌そうな顔をせず、少年は口を開く。


「名前は世羅、よろしく!お前は?」


友好的に伸ばされた手の内側には、複数の切り傷が見える。

その腕に世羅君の闇や苦悩を感じながら、私はその手を握り返した。


「珠明、塚本珠明。よろしく、世羅、君で良かったかな?」


世羅君は私の言葉に頷きかけて、私を食い入るように見る。


「ん、何なら呼び捨てでも良いけど。てか、お前、女なのな。フードしてんのと、声変えてんので気づかなかったわ。」


少年に指摘されて、私は自分がフードを深く被って顔の全く見えない、不審者スタイルだということに気付く。


「確かにひどい格好してたね、失礼!改めて、珠明です、よろしく。」


慌ててフードを脱ぎながら世羅君を見ると、世羅君は呆気に取られた表情を浮かべていた。

紐をきつく結んでフードが取れないように被ってたかと思うと、あっさり取っちゃうんだから、側から見ると変人だよね。

呆気に取られる世羅君の気持ちは分からなくもなかった。


「世羅君、名前を教えてくれたのは嬉しいんだけど……世羅君?」


さっさと話を進めようと世羅君に問いかけるのだけど、世羅君は私を見つめたまま動かない。


「俺、秋、上は早川な。よろしく、世羅。」


秋君が話しかけて、やっと動き出すのだった。


「秋ね、よろしく。ところでお前ら、何歳なの?」


世羅君がみんなを見回して問いかけると、


「俺は墨田巧望です。秋が12歳、俺と塚本さんが11歳で小6、信武……彼が10歳、一つ下の学年です。」


巧望君がそれぞれに視線を向けながら、即座に答える。


「俺が信武ね〜、宗方信武、よろしく〜。」


最後に視線を向けられた信武君がのんびりと口を開いた。


「お前ら、見えねえけど小学生のガキかよ。だったら、余計に俺なんかと関わらず、真っ直ぐ家に帰んな?見たところ、俺らの界隈みたいに何か問題があるわけじゃなさそうだし。親にバレたら面倒だぜ?」


世羅君は小学生相手にモタモタし過ぎたと言うように、肩をすくめて言う。


俺のことは放っておけと言いたげな様子に、信武君が真っ先に反応して厳しく追及するかと思いきや、


「俺らに出会ったのが運の尽きですから、諦めてください。俺はさておき、秋と信武は武闘派なんで、あなたを気絶させてでも病院に行かせるでしょうね。」


信武君より先に口を開いたのは巧望君だった。

得意な教科が国語で言葉選びの上手な巧望君、説得は彼の得意な分野だ。

その説得はバッチリ効いたようで、世羅君は少し焦ったような表情を浮かべる。


「マジで!?秋は分かるけど、信武が武闘派はないだろ。」


世羅君の視線は、長袖の白シャツの袖に向けられていた。

女の子みたいに華奢な細腕。

私も、世羅君と同意見だった。

こんな腕で人を害することなんて出来っこない、それこそ本当のSERE訓練を受けたって言うなら信じられるかもしれないけど……。

半ば舐めたような視線を向けられた信武君は、


「ねえねえ、秋。気絶させるなら、どこを狙うのが良いと思う〜?やっぱ首かな〜?」


その視線を気にすることもなく、秋君を見る。


「そうだな、首がソッコーだと思うぜ?」


秋君が信武君とともに世羅君を見ると、


「いやあ……年上に脅しに暴行なんて悪ガキどころの騒ぎじゃねえな。お兄さん、困っちゃう。」


世羅君は茶化すようにそう言う。

が、その体は強張っていた。

やる気?やる気なの?2人とも。

今にも手が出そうな2人に、世羅君にこれ以上怪我を負わせたくなかった私は少し焦り気味だった。

ここは言葉での説得が得意の巧望君の出番!

期待を込めて巧望君を見ると、巧望君はちょうど口を開きかけているところだった。


「何をそんなに渋っているのか分かりませんが、病院に入っていた方が安全です。家に帰れる状態ではないようですし、ここらでふらついていてはまた襲われますよ。病院は守秘義務と言うものがあるので、彼らからあなたを匿うに相応しい場所だ。」


そうだろ?と言うように私を見る巧望君。

私はそれを肯定するために頷いて見せる、とても深くね。

Terminus専属の病院なら、それはそれはとても秘匿性が高いからだった。

そこら辺の病院よりも口は硬いはずだよ。

そう言いたいのを抑えて口を開く。


「あの、電話かけてきて良いかな?話を通しておかないと……。」


おずおずと言うと、世羅君を除くみんなが大きく頷いた。

私は唯一頷かなかった世羅君の方を見る。


「あの、世羅君。名字も出来れば教えて欲しいな。どこの誰かくらいは、あちらも知っておきたいだろうから。」


フルネームすら知らない人を、グレイソンが受け入れてくれるはずはないだろうから。

交渉に持ち込むのであれば、世羅君がどう言う人物なのか知るための鍵である氏名が分かることが大前提だった。

氏名さえ分かれば、あとは組織の情報網で彼を調べる。

そして、グレイソンが彼を吟味して、組織に有益なら手を貸してくれるって形だ。


「ん、名字は蓬莱ほうらい。漢字は、中国の神仙思想の蓬莱そのまんま。変な名字だろ?中国人みてえだから、あんま名乗りたくねえし、好きじゃねえんだ。」


名字を名乗ることを避けていたようにも見えた世羅君が、素直に名字を教えてくれたことに驚きつつ、


「蓬莱世羅君、か。これで君の氏名が分かった、教えてくれてありがとう。私は蓬莱っていう名字、良い名字だと思うな。三神山の1つで不老不死の薬を持つという仙人が住んでいると言われている蓬莱、何だか縁起が良いと思わない?」


世羅君を見据えてお礼を言う。

ついでに、フォローも兼ねて彼の名字を褒める。

何だか自分のルーツまでも卑下しそうな勢いだったから、そんな風に自分を下げるようなことを思ってほしくなかったんだ。

世羅君はそんな私の言葉に、少し嬉しそうな表情を浮かべて頷いた。


それを横目に、私は背負っていたリュックを体に持ってくる。

そのリュックにある小さなポケットにあるスマートフォンを手にして、みんなの方を向く。


「電話かけてくるね。世羅君のこと、話を通してくる。」


この場を離れることへの許可を取って、みんなに見送られてその場を後にする。

移動しながら、cominusを開く。

グレイソンが登録名の連絡先を見つけ、そこへ電話をかける。

少ししてから、応答の声が聞こえた。


「こちらグレイソン。何か用か?No,15778。」


きょとんとした声だったが、その声で私の緊張は解れることなく、心臓の音は早まるばかりだった。


「日本支部には専属の病院ってありますか?」


おずおずと言うと、グレイソンは声を固くする。


「あるが……、何かあったのか?詳しく事情を話せ。」


張り詰めた緊張の中でどこか私を心配するような声色に、私は申し訳なさを感じながら口を開く。


「診てもらいたい患者がいるんです。未成年のため、保険証を親に管理されていること、親から身を隠していることなどの理由で、通常の病院にかかるのが難しいようです。怪我や健康の問題が見受けられ、すぐにでも医師に診てもらいたいような状況ですが……その患者は組織の人間じゃないので……。」


歯切れ悪く言うと、グレイソンは小さく溜め息を吐く。


「聞けない頼み事ではないが……組織の人間でない人物をタダで連れて行くわけにはいかない。色々な面でな。」


言葉とは違い、思ったよりも柔らかい声が聞こえてきて、私は勝機を掴めたような気がした。


「その患者は蓬莱世羅という少年なのですが、夜直街という歓楽街に出入りしていて、何か情報を持っているかもしれません。」


グレイソンが世羅君に少しでも興味を持ってくれますように、と願いながらグレイソンの言葉を待つ。


「蓬莱世羅、か。少し時間をくれ。その少年に利用価値があるのか調べたい。結果次第では、病院にかかれるよう手を回そう。」


良かった!少し興味を持ってくれたみたい。

私はお礼を言って、結果が出たらすぐに連絡をくれるようにお願いして、電話を切った。

みんなの元へ戻るため、小走りで先程の駐車場へと急ぐ。

私の顔が見えると、真っ先に信武君が口を開いた。


「スーちゃん、どうだった〜?」


少し不安げなその様子に、はっきりとした答えをまだ言えないことに申し訳なく思いながら、


「今すぐ受け入れってことは難しいみたい。少し時間をくれって。受け入れ可能になったら連絡をくれるそうだよ。」


答えると、


「まあな、いくら知り合いの医師がいたって、かかりつけの患者だっているだろうし……そう簡単な話じゃねえよな。」


残念そうな表情を浮かべる信武君の肩を叩きながら、秋君が納得したように頷いた。


「ここにいてもあれだし、取り敢えず世羅さんを連れてグランドに戻ろうか?選手が怪我した時のために救急セットも一応あるし、応急処置が出来る信武がいるしね。それに私的なことだけど、公式じゃないとは言え、試合を抜けて来ているから早く戻らないと。まあ、監督の雷が落ちることはもう決まったことだけどね。」


巧望君が同意の相槌を打ちつつ、苦笑いを浮かべながら言う。

その巧望君の言葉で、私は巧望君が大事な練習試合を抜けてこの場にいることを思い出す。

巧望君だけじゃなく、秋君や信武君も巻き込んでいる。

もしかしたら、依那ちゃんや律君たちにも心配をかけてしまっているかもしれない。


「うん、それが良いと思う。ごめんね、私が勝手に動いたばかりにみんなを巻き込んじゃって……。」


好奇心に突き動かされて、先に起こることを想像出来てなかった。

この調子だと、いつかみんなを事件や事故に巻き込んでしまうかもしれない。

人生のほぼ9割を組織の中で過ごしてきた私は、危険性のある場所にも躊躇なく足を踏み入れてしまうところがあった。

でもそれは治さないといけない、彼らと行動を共にするなら尚更。


「気にすんな!塚本のおかげで、世羅は無事なんだから。下手したら死んでたかもしれないだぜ?」


私が心の中で1人大反省会をしていると、その肩を秋君が叩いた。

その顔を見上げると、その目には暖かな光が浮かんでいた。

気にすんなって言うように。

私がその暖かさに少しホッとして頷いた瞬間、秋君が顔を歪める。


「って!」


その頭を軽く世羅君が叩いたのだ。


「どこが無事だよ?さっきから息吸う度に全身が軋むように痛えんだけど。」


睨むように秋君を見る世羅君の隣にやってきて、信武君がその腕を引く。


「秋〜、おんぶ頼んだ〜。」


秋君の後ろに世羅君を連れていき、秋君が構える。

世羅君を背負って秋君が歩き出すと、


「信武、後ろ、念の為に警戒しておいて。」


先頭を行く巧望君が、私の後ろにいる信武君へ指示を飛ばした。

信武君が頷いたのを確認して、一行はグランドへの道を進む。

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