第8話 明日のこと

無事実力テストを終えて、名駿アカデミーのアカデミー生となって1週間経った頃。


「塚本さん、明日のことなんだけど……。」


巧望君が休み時間に、私の席の側に自分の椅子を置いて座った。

私は頷きながら巧望君の話に応じる。

週の初め、今日は金曜日だから、4日前の月曜日の話を思い出しながら。


月曜日に巧望君が、明日明後日にあるサッカーのクラブチームの練習試合の詳しい日程などを話してくれた。

自己PRの時に言ってた練習試合を見に来ないかという提案は、本気だったみたい。

その提案に特Aのクラスメート、秋君たちもノって、結局特A全員で巧望君の試合を観に行こうって話になったんだ。


「明日の試合なんだけど、開始は10時ちょうどで場所はうちのチームのグランド。ここまでは良かったよね。」


巧望君に聞かれて、私は月曜日の話を思い出しながら頷いた。


「うん、よく覚えてるよ。」


巧望君はほっとした表情になった後、


「問題は移動手段だ。うちのチームのグランドの場所、塚本さんは知らないよね?」


苦笑いを浮かべる。

私もつられて、


「うーん、そうだね。巧望君のクラブチームのグラウンドどころか、この辺のスーパーやコンビニの場所もよく分からないくらいだからね……。」


苦笑する。

すると、そこへ秋君がやって来て、


「分かんねぇなら俺らと行けばいいじゃん。ここと近いし。」


教室の床を指しながら言った。

ここ、というのは名駿アカデミーのことらしい。

秋君の言葉を聞いて、巧望君ははっとした表情を浮かべ、


「そうか、その手があった!俺はアップで、開始時間より早く行かないといけないし、どうしようかと思ってたけど。」


秋君の方を見た。


「秋、彼女のこと、頼んでもいいか?」


秋君がは大きく頷いて右手の親指を立てると、


「おう、任せろ。俺らと一緒なら迷子になることは絶対ねぇよ!」


トンッと自分の胸を突いた。


「ねえねえ、何の話してるの〜?」


秋君の後ろからヒョコッと信武君が顔を出す。


「決まっとる!明日の試合の話や。」


その肩に手を置いて依那ちゃんが言った。

律君がその横に来て、じーっと私たちを見る。

秋君はみんなを見回して、


「明日の試合、巧望はアップがあって動けねぇ。そして、塚本はグランドの場所が分かんねぇ。だから俺らと塚本でグランドに行くことになった。明日の9時30分、駅集合な!遅れんなよ?」


自分と私、依那ちゃんと信武君と律君を指差して言った。

みんながそれぞれのタイミングで頷いたのを確認し、


「はい、というわけで解散、解散。」


巧望君が散れ散れというように、手を振ってみんなを自分の席に戻るように促した。

みんながそれぞれ席に戻ったのを確認して、巧望君が口を開く。


「秋の話の通り、俺は明日手が空かないから分かんないことあったら全部秋に聞いて。側にいれない分、プレーで魅せるから!」


真っ直ぐ見つめられ、思わず息を呑む。

そんな目で見つめられることに慣れていなかったから、少し照れ臭かったんだ。

やっとの思いで頷くと、巧望君はふっと微笑んだ。

今まで見た誰の笑みよりも爽やかだった。

かっ、かっこいいなぁー。

こんなかっこいい子が、明日、ピッチに立ってどんなプレーを見せてくれるんだろう……。


明日を待ち遠しく思う私は知らなかった。

これから、10代になって間もない私たちが経験するには大き過ぎる事件に巻き込まれるなんて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る