第6話

 コスモは、あかりんとどうしても話をしたかった。何故なら、屋上のプールに侵入したのが、あかりんではないという確信が欲しかったからだ。しかし、あかりんは最近部活に顔を出していない。どうしたものか。


「あれ、秋桜ちゃん?どうしたの?」


 たまたま 第一音楽準備室の前で、フラフラしたいたらあかりんに声をかけられた。


「あかりーん。会いたかったよー。」


 コスモの反応に戸惑いつつも、あかりんも会いたかったよ、といってくれた。


「あかりん、今から変なこと聞いてもいい?」


「変なこと?いいよ。」


「もしかして、あかりんが屋上のプールに侵入した犯人だったりする?」


「どうして?」


「いや、悪い気分にさせちゃってごめんね。でもコスモの友達が、あかりんかもしれないって言ってたから。違うよね。あかりん、侵入なんてしてないよね。」


「そうだよ。」


「えっ?」


「だから、私が屋上に侵入した犯人。しかも首謀者。」


「冗談やめてよ。」


「冗談じゃないよ。嘘なんてついてない。」


「え、なんで。どうしてそんなことしたの。」


「秋桜ちゃんには分からないと思うよ。説明したところで。」


「なんでそんなこと言うの?」


「じゃあさ、頑張りたくても、頑張れない人もいるって言ったら信じる?」


「どういう意味?病気とか、金銭的な問題があってとかそういうこと?」


「まあ、そうだね。実はさ私、精神疾患持ちなんだ。毎日情緒不安定で、過眠症も合併してる。

 どうして生きてるの、早く死にたい、もう消えたい、生まれてこなければよかったのに…ずっとこんなことを考えちゃうんだよ。

 生きていることが苦痛なの。死んでしまうことよりも。ねぇ、分からないでしょ。秋桜ちゃんはいいよね。器用で、なんでもすぐにできて、天才様が羨ましいよ

 嗚呼、もうどうしてこの世界は、こんなにも不平等なんだよ。」


「天才じゃない。」


コスモはボソリと呟いた。小さいけれど、芯の通った声だった。


「コスモは天才じゃないよ。ただ負けず嫌いなだけ。めっちゃくちゃ努力してるのに、器用だの、天才だの言われるのが、1番ムカつく。

 それに、世界が不平等だなんて当たり前だよ。だからこそ、みんな努力するんでしょ。努力は裏切らないよ。無駄になる努力はひとつもない。」


「だから、努力しないんじゃなくて、できないの。生きているだけで、精一杯なんだよ。」



「「ごめん」」


 2人の声が重なった。途端におかしくなって笑い合った。


「あかりんごめん。言い過ぎたね。毎日毎日辛いなか、生きていてくれてありがとう。あかりんは、十分頑張っているよ。」


「私の方こそごめん。秋桜ちゃんが、たっくさん努力してること知ってたのに。嫌な言い方したよね。私は個人的に、天才よりも努力家さんの方がカッコいいと思うよ。」


「でも、学校に侵入するのはいくらなんでもダメなんじゃない?」


「うん。反省してる。後で先生のところに自首しに行ってくるよ。」


「そっか、そうだね。それがいいと思う。もし学校に侵入した話が、笑い話になる日がきたら、コスモに聞かせてね。」


「わかった。私がその日がくるまで生きていたらのことだけど。」


「うん。約束だよ。コスモは、あかりんが優しくて、人との約束を簡単には破れない人だって知ってるからね。」



 これは、モヤモヤを抱えた高校生たちの物語。まだ、あおくて、もろくて、簡単に人を傷つけてしまうけれど、一瞬で過ぎていく"今"をキラキラと輝かせながら生きている者たちの物語。           

         終











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青いプールと春の星 オラシオン @orasion

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