第4話

キーンコーンカーンコーン

        キーンコーンカーンコーン


 8月の最終週。今日から2学期が始まった。ついに文化祭まで残り2週間をきった。朝イチから、体育館での始業式は正直だるいが、コスモは少しワクワクしていた。なぜなら、吹奏楽部がコンクールで金賞を受賞したため、この後表彰されるからだ。

 コンクールの本番前は、もうめちゃくちゃに緊張したが、演奏が始まるとあっという間だった。演奏後の嵐のような拍手はとても気持ちよかったし、部員みんなで全力を出し尽くすこともできたと思う。今でも、舞台の上からの景色を思い出しては、思い出に浸っているほど、コスモにとってこのコンクールは凄くいい経験となった。

 でもこのコンクールに、あかりは出ていなかった。本番の少し前から、体調を崩してしまったのだと言う。勿体無いなぁ、なんて思っていたら、校長の話を聞き逃していた。あわてて校長の声に耳を澄ませる。


「夏休み中にも皆さんに連絡しましたが、

未だに、深夜の屋上へと侵入した生徒が名乗り出てきていません。できるだけ、学校内で解決をしたいと思っていますが、今月中に侵入した生徒が名乗り出てこなかった場合、警察に通報しようと思っています。」


 体育館内の空気が、一瞬にして重くなった。さっきまでざわついていたのは、嘘だったのだろうか。水を打ったかのように、体育館は静寂に包まれた。やっと、ことの重大さを理解した瞬間だった。


 「もう一度言います。学校がしまっている時間帯に、学校へと侵入することは立派な犯罪です。不法侵入なんです。何年もの歴史を受け継いできた我が校でも、初めてのことです。もっと自覚を持ってください。我が校の卒業生にまで、迷惑をかけたのですよ。我が校の名に泥を塗ったのですよ。このような事件が起こってしまい、本当に残念です。改めて、心当たりのある生徒は、誰でもいいので先生に言うように。」


 始業式はこの話で終わってしまった。表彰は次回の集会らしい。コスモはがっくりと肩を落としながら教室へと向かった。


「秋桜、久しぶりー。元気だった?

 てか、なんかコンクールで良い賞だったんだって?すごいじゃん」


「愛美ー、久しぶりじゃーん。コスモは元気だったよ。愛美は日焼けしてんね。

 そうそう、コンクールで金賞取ったんよ。でも、始業先での表彰がなくなって、朝からテンションダダ下がり。」


「うける。表彰楽しみにしてたんだ。それはドンマイ。

 遙と海、行きまくったからちょー日焼けした。後で写真見せてあげるわ。」


「海かーいいなぁ。めっちゃ羨ま。」


「そういえば秋桜、あかりって人知ってる?確か吹奏楽部だったと思うんだけど。」


「同じ学年の子でしょ。知ってる知ってる。夏休みよく、一緒にお昼ご飯食べてた。」


「あー多分その子だ。なんか、遥が通ってるサッカークラブがあるんだけど、そこにあかりの弟がいるらしくて。」


「なんだっけな。中学2年生でしょ。あ、そうだ。ゆう君っていう名前だった気がする。」


「そうそう。そのゆう君って子が言ってたらしいんだけど、夏休みに何度か、お姉ちゃんが深夜に家を出て行ってるのを見たんだって。それも制服を着ていたらしくてさ。なんか怪しいくね。」


 コスモは驚きのあまり声が出なかった。だってコスモの知っているあかりんは、大人しくてマイペースで、そんな深夜に家を抜け出すなんてしない人だ。


「ゆう君の見間違えかもよ。あかりはそんなことしないと思うし。人から聞いた話なんて、どこで脚色されているか分からないしね。」


「まぁ、そうだね。ごめんごめん。ただの噂話。でもなんか意外だったかも。」


「何が?」


「秋桜があかりを庇うなんて。そこまで他人に興味があるようには見えなかったから。

 あー忘れてた。秋桜に聞いて欲しい話があったんだよ。遙と海に行ったときなんだけどさ……」


  コスモは愛美から、あかりんのことを聞いて以来、ずっと胸騒ぎがしているのを、無視することはできなかった。

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