第3話

 コスモはいつもの場所、第一音楽準備室で、お弁当を広げた。


「おつかれー、秋桜。クラスの方は進んでる?」


 同じ学年で、トランペットパートのあかりが、お弁当を持ってやって来た。夏休みに入ってからは、毎日ここで2人でお昼を食べている。

 

「あかりんもお疲れ様。クラスの方はぼちぼちかな。とりあえず今日もダンボール切ってた。そろそろ、ダンボール切り大会が開催されたら、優勝できるレベルにまでなったかも。あかりんのクラスはどう?」


「私のクラスもぼちぼちだよー。みんな手よりも口の方が動いてるし。」


「そうだよねー、この間なんていつの間にか作業止まってて、みんなでお菓子パーティー始まってたもん。」


「秋桜ちゃんのクラス楽しそうだね。いいなぁ。」


 あかりはそう言って、ゆっくりとご飯を食べ始めた。でも小さなおにぎりを少し食べただけで、すぐにお弁当箱を片付けてしまった。


「もうごちそうさまなの。」


「うん。夏バテかな。あんまりお腹が空かなくてさ。」


「大丈夫?夏休みに入ってから、部活も忙しくなって、クラスの方にも毎日顔出してるんでしょ。休まないとだめだよ。」


「大丈夫、大丈夫。体力ないだけだから。それにほら、私トランペット下手くそだし、もっと練習しないとだから。あと、クラスに顔出してるのも、補習のついでだしね。」


 そう言って、自主練習に戻って行った。確かにあかりは、どちらかと言えば要領のよくない方だと思う。というよりも、あまり努力していないだけにもみえる。

 コスモは、みんなの見えないところでも、コツコツと頑張るタイプだと自負している。勉強だって、授業の予習復習は当たり前だし、部活でも基礎練習を蔑ろにすることはない。努力をすれば、ある程度までは報われると思う。

 実際に全然努力していない人が「私には向いてないから無理だよ。秋桜ちゃんは天才型だからいいよね。なんでもできて羨ましい。」なんて言ってきた日には、私は怒りで狂いそうになる。

 でももう、テスト返しの度に睨まれたり、悪口を言われるのにも慣れた。イライラも全て、努力への燃料にできるようになったのだ。そもそも、頑張っている人が報われるのは当然ではないか。そんなこともわからないなんて。

 あかりはいい子だ。誰にでも優しくて、文句だって言わない。でも、頑張るという割には、努力しているようには思えないのだ。授業中もよく寝ていると言うし、トランペットの基礎練習の音も聞こえてこない。きっとどこがでサボっているか、寝ているかでもしているんだろう。

 でも、別にコスモは、それが悪いとは思わない。やりたくないのならばやらなくてもいいと思う。それにコスモは、あかりが好きだ。不器用でちょっとおバカさんだけど、愛らしくてふわふわしていて、一緒にいると癒される。

 コスモもお昼ご飯を食べ終わったので、自主練習をすることにした。もうすぐコンクールだ。気を引き締めていこう。コスモは目に炎を宿し、準備室を出て行った。




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