桜流しに君が散る
ユキちゃんは立派な桜井家の一員。さすがに2年も過ごしていたら自ずとそうなるよね。
僕はもうすぐ高校生。昨日あった中学の卒業式にはなんとか行った。すごい疲れたけど。でも行って良かったって思う。自分で学校というものに区切りをつけられた気がしたから。
「ね、ユキちゃん」
「ユキチャン! トリトリチャン!」
ユキちゃんに話しかけると気まぐれに返事をしてくれる。これが本当に嬉しい。
「冬真ー、そろそろ寝なー」
「はーい。……それじゃあユキちゃん、おやすみ」
ユキちゃんの鳥籠に布をかけ、僕は自分の部屋へ行く。
まだ昨日の疲れが抜けてないかな。いつもより眠い気がする。なんてことを考えながら。
「——冬真! 起きて! ユキちゃんが!」
母さんの悲痛な声で夢から引き戻された。
……ユキちゃん、……ユキちゃん?
「ユキちゃんがどうかしたの!?」
「早く、来て!」
母さんに急かされるままにリビングへ向かった。
僕の心臓はばくばくと嫌な音を立てている。何があったのか、知るのが怖い。
「っ!? ユキちゃん……?」
目に飛び込んできたのは父さんの手の上で荒い呼吸をするユキちゃんだった。
どうしてこうなったのかは分からない。突然こうなった理由も分からない。だけどこれだけは分かった。
————ユキちゃんが死に近づいている。
「冬真、ユキちゃんを……!」
父さんから震える手でユキちゃんを受け取る。
苦しそうに呼吸をし、くちばしをぱくぱくさせているユキちゃん。何か今、伝えなければ、ユキちゃんが聞いてくれているうちに伝えなければ。そうしないと後悔する。
そう思い、僕はぴったりな言葉を探した。
うちに来てくれてありがとう。
僕の友達になってくれてありがとう。
話し相手になってくれてありがとう。
パワーをくれてありがとう。
笑顔をたくさんくれてありがとう。
生まれてきてくれてありがとう。
「——ありがとう、ユキちゃん」
その直後、ユキちゃんは息を引き取った。桜流しの雨が降る夜のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます