秘密

 夏休みの間、涼と凛はいろんなことをしてたくさんの思い出を作った。

 まずは海辺へと向かった。涼は海の青さに目を輝かせ、凛は波打ち際で笑顔を見せていた。二人は手をつないで砂浜を歩き、貝殻を探したり、波と戯れたりした。

 二人は地元の小さな夏祭りに行ったりもした。花火大会の時とはまた違って、人も少なかった。

 夏休みも中盤に差し掛かると涼二人は図書館で一緒に宿題をすることにした。

 二人は静かな図書館の一角に座り、各自の課題に取り組んだ。涼は数学の問題集を開き、凛は英語のエッセイを書いていた。休憩時間には、二人で図書館のカフェで冷たい飲み物を買い、一息ついたりもした。

 夏休みの終わりが近づくと、二人はもう一度海辺に行くことにした。夕暮れの海は一段と美しく、二人は並んで座り、波の音を聞きながら語り合った。

 こうして作った二人の思い出はしっかりと二人の心に刻まれた。




 九月五日――。

 夏休みが終わり、学校が再び始まった。涼と凛は、朝の澄んだ空気の中、一緒に登校することとしていた。

 涼は待ち合わせ場所の公園のベンチに座り、凛が来るのを待っていた。

「リョウくんおはよ!」

 凛は時間通りにやってきて、元気よく挨拶した。

「おはよう、凛」

 涼も微笑んで応えた。

 二人は学校までの通学路を並んで歩き始める。二人は自然と手を繋いでいた。

 暦上では秋だというのに、全然そんな気配を感じさせなく、まだまだ夏のままだ。

「夏休み、あっという間だったね。」

 涼が言うと、凛は「本当に。楽しかったけど、もっと一緒に過ごしたかったな」と答えた。

「また休日はいろんなところに行こう」と涼が提案すると、凛は「うん、ぜひ!」と目を輝かせた。

 学校が近づいてくると、二人は少し足を止めた。涼はふとしたことで緊張し、凛の顔を見つめた。

「学校でも、こうして一緒にいられるのが嬉しい」

「私も!」

 涼が言うと、凛は少し照れながらもそう応えた。




 放課後になり凛は部活へ、涼は凛を待つため図書室へと向かった。

 廊下の窓から差し込む夕陽が、柔らかく校舎内を照らしている。

 放課後の図書室は静かで、涼は机に広げた教科書とノートに集中していた。周りには数人の生徒が勉強しているが、誰も話すことなく黙々と作業を進めている。

 いい感じの場所を見つけて座ろうとした時、図書室のドアが静かに開き、美優が入ってきた。

 彼女は涼を探していたようで、辺りを見回しすぐに涼を見つけると、軽く手を振って彼に近づいた。

「やっぱりここにいた」

「どうしたんだ?」

 美優は何も言わず涼の向かいの席に座る。そしてしばらく考え込んでいたが、ついに意を決して涼の方を向いた。

「ねぇ、涼君……、もしかして白石さんと付き合ってるの……?」

 涼は少し驚いた表情を見せたが、すぐに平静を装った。彼は視線を外し、机の上に置かれた本へと目をやる。

「……どうしてそんなことを?」

 美優は軽く肩をすくめ、少し笑ったが、その目には真剣な光が宿っていた。

「ただ……最近、二人がよく一緒にいるから気になったの……」

 涼はしばらく沈黙し、美優の言葉を噛みしめた。そして、ゆっくりと頷いた。

「うん、そうなんだ。俺たち、付き合ってる。でも凛には恥ずかしいからあんまり言わないでって言われてる」

 涼のその言葉を聞いて、美優の顔には一瞬驚きと切なさが入り混じったが、すぐに微笑みを浮かべた。

「そっか、良かった。凛……白石さんは良い子だし、涼君にとってもお似合いだと思う」

 涼は美優の表情を見つめ、彼女の心情を察した。しかし、何も言わずにただ頷くだけだった。

「ありがとう、美優。君の気持ちは嬉しいよ」

 美優はその言葉に小さく微笑み返し、再び窓の外に目を向けた。

「花火……、いけなくなったのはそのせい?」

「……そう」

 涼は申し訳なさそうに視線を少し下に向け、そのまま続けた。

「俺は正直、君を信じきれていないところがある……」

 涼の突然の言葉に、美優は少し悲しそうな表情へと変わる。しかし少し俯いて話す涼は、その表情の変化に気が付かなかった。

「……」

 美優は黙って涼の言葉を待つ。

「前に一度君を問い詰めた時があっただろ? あの時は思わなかったんだけど、よくよく考えたら不思議に思うことがあった。どうして君はタイムリープしたのが俺だとわかったんだ……? 君は誰かがしたとわかってもそれが誰とまではわからないって言っていた。のにわずかな時間で俺のとこまでやってきた……。美優……、やっぱり君はまだ隠してることがあるんじゃないのか……?」

 涼は下げていた視線を美優の方へと向ける。

「涼君は前私に、夢に出てくるのは関係してるのかって聞いてたよね?」

 涼はそう言われて美優が夢に出てきていたことを思い出した。最近は全く出てこなかったので、あまり気にしていなかった。というかほとんど忘れていた。

「……そういばそんなこともあった。確かにそれも気になるな……」

「それはね、私がタイムリープするずっと前の世界での涼君の潜在的な記憶だよ」

「……潜在的な、記憶……?」

「そう。順を追って説明するね。その前に場所、移さない?」

 美優はあたりを気にするように見ながら涼に提案する。

「確かに、屋上がちょうどいいかも」

 二人は鞄を肩にかけ、図書室を後にした。

 屋上の扉を開けると西日がまぶしく、二人は目を細める。グラウンドからはホイッスルの音や吹奏楽部員たちが楽器を吹く音など様々な音が聞こえてくる。

 美優はフェンス越しに見下ろしながら彼女のこれまでを話し出した――。

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