花火大会2

 七月二十二日――。

 夏の日差しが強く照りつける中、涼と凛は並んで歩いていた。付き合い始めた二人は、夏休み初日の今日水族館デートをすることを電話で決めたのだ。

 涼はクールな表情を保ちつつも、内心では凛と過ごすこの時間に期待と緊張が入り混じっていた。凛は付き合ったときからこの日を楽しみにしていたため、終始興奮気味だった。

「わぁ、リョウくん! 見て見て! あのイルカ、すごく可愛い!」

 水族館の入口を入るとすぐに大きなイルカの水槽が広がっていた。

 透明な水の中を泳ぐイルカたちは、太陽の光に反射してキラキラと輝いている。凛はその美しさに目を奪われ、笑顔を浮かべて涼に声をかけた。

「本当に楽しそうだな、凛。あのイルカはボトルノーズドルフィンだ。ハンドウイルカって言う方が聞き覚えあるかな。知能が高くて、人懐っこい性格なんだ」

 涼は少し照れながらも知識を披露した。

 涼自身もイルカの美しさに感心していたが、それ以上に凛の笑顔を見ることができて嬉しかった。

「さすがリョウくん、なんでも知ってるんだね! でも、そういう豆知識って結構面白いね」

「知識は力だからね。でも、今日は楽しむことが一番大事だよ」

 涼の言葉に凛は頷き、二人は次の展示へと進んだ。

 巨大な水槽の中を優雅に泳ぐ魚たちに、凛は目を奪われ続けていた。色とりどりの魚たちが水槽の中を自由に泳ぎ回る様子は、まるで異世界に迷い込んだような感覚を与えてくれる。

「リョウくん、この魚たちすごく綺麗だね。名前わかる?」

 凛が指差したのは、青や黄色、赤など鮮やかな色合いの魚たちが群れを成して泳ぐコーナーだった。

「あれはアカハタといって、サンゴ礁の周りに住んでいる魚だよ。美しい色合いと模様が特徴なんだ」

「へぇー、サンゴ礁の周りに住んでるんだね。リョウくんの知識って本当に面白い!」

 凛は目を輝かせながら、涼の説明に感心していた。涼もまた、凛の反応に満足感を覚え、内心では自分の知識が役に立ったことを嬉しく思っていた。

 次に二人は、海底トンネルに足を運んだ。ガラスのトンネルの中を歩くと、頭上を巨大なエイやサメが優雅に泳いでいく。凛はその迫力に驚き、思わず涼の腕にしがみついた。

「リョウくん、見て! あんなに大きなエイがいるよ!」

「そうだね。あれはマンタといって、海の中では非常に大きな存在なんだ。でも、人間には危害を加えないから大丈夫だ」

「本当にすごいね、リョウくん。こんなに近くで見られるなんて感動しちゃう」

 凛は涼の腕にしがみつきながらも、その目は興奮で輝いていた。涼もまた、凛と一緒にこの迫力ある光景を共有できることに喜びを感じていた。

 しばらく展示を見て回った後、二人は少し休憩することにした。水族館内のカフェテリアに立ち寄り、飲み物を買ってテラス席に座った。

「ここ、いい眺めだね。あの水槽が見えるし、風も気持ちいい」

 凛が飲み物を一口飲みながら、嬉しそうに周りを見渡した。

 カフェテリアのテラス席からは、巨大な水槽が一望でき、色とりどりの魚たちが優雅に泳ぐ姿が目に入った。

「本当だね。ここで少し休憩しよう」

 涼も飲み物を一口飲み、心地よい風に吹かれながらリラックスした表情を見せた。

「リョウくん、今日は本当にありがとう。付き合い始めたばかりでこんな素敵なデートができるなんて幸せすぎるよ!」

 凛が感謝の気持ちを伝えると、涼は少し照れたように笑った。

「いや、俺も楽しんでるよ。凛と一緒にいると、どんな場所でも楽しくなるから」

「リョウくん、ありがとう。私も涼と一緒にいると幸せな気持ちになるよ」

 凛はその言葉に少し頬を赤らめながらも、嬉しそうに微笑んだ。

 二人の間には、自然と心地よい空気が流れていた。

 休憩を終えた二人は、再び展示を見て回ることにした。

 クラゲの展示に立ち寄ると、凛はその幻想的な光景に目を見張った。淡い光を放ちながらゆらゆらと漂うクラゲたちの姿は、まるで夢の中のようだった。

「リョウくん、あのクラゲすごく綺麗だね。まるで宙に浮かんでるみたい」

「クラゲは確かに美しいね。彼らの体はほとんどが水でできているんだ。だからあんなに透明感があるんだよ」

「へぇー、知らなかった! リョウくんのおかげで今日は色んなことを学べそう!」

 次に二人は、カラフルな熱帯魚の展示に立ち寄った。鮮やかな色彩の魚たちが、まるで虹のように水槽の中を泳ぎ回る光景に、凛は思わずため息をついた。

「リョウくん、この魚たちも本当に綺麗だね。まるでおとぎ話の中にいるみたい」

「あれはパロットフィッシュやアングルフィッシュだよ。彼らの色彩は自然の中でも特に美しいとされているんだ」

「自然って本当に不思議だね。こんなに美しい生き物がいるなんて」

 涼は凛の感嘆の声に微笑みながら、自然の美しさを共有できることを嬉しく思った。

 水族館の展示を楽しんだ後、涼と凛は『触れる水族館』と呼ばれるコーナーに立ち寄った。そこは、特に子どもたちに人気のあるエリアで、さまざまな海の生き物に直接触れることができる場所だった。

「見て、リョウくん! あそこに行こうよ! 魚に触れるコーナーだ!」

 凛の目がキラキラと輝き、興奮した声を上げた。

 涼は少し戸惑いながらも、凛の期待に応えるため頷いた。

 「うん、行こう」

 コーナーに近づくと、透明な水槽がいくつも並んでいて、その中には小さな魚たちが元気に泳いでいた。

 水槽の周りには、子どもたちが歓声を上げながら、楽しそうに魚に触れている姿が見受けられた。

「わぁ、ほんとにたくさんいるね! この魚、すごく可愛い!」

 凛は周りの子どもたちと同じように目を輝かせながら水槽を覗き込んだ。

 中にはカラフルな小魚や、ひらひらとした尾びれを持つ魚が泳いでいて、まるで水の中を舞っているようだった。

 涼はその様子を見ながら、少し緊張していた。

「触るのって、どんな感じなんだろう……」

「リョウくん、一緒に触ってみようよ!」

 凛は無邪気に笑顔を見せ、さっそく水槽の縁に手をかけて身を乗り出した。

「いいけど、気をつけて」

 涼もそれに続いて水槽に近づくと、案内しているスタッフの人が優しく説明してくれた。

「この魚たちは非常に人懐っこいので、優しく触れてあげてくださいね。彼らも触れられるのが好きなんですよ」

 凛は目を輝かせながら、そっと手を水の中に入れた。すると、すぐに小さな魚が近寄ってきて、彼女の指に触れた。

「うわぁ、リョウくん! すごい! 触れた!」

 凛の声には驚きと喜びが混ざり、心が弾んでいた。

「本当に? どうだった?」

 涼も興味津々で聞く。

「ふわふわしてて、ちょっと冷たい! でもすごく気持ちいい!」

 凛は楽しそうに手を水の中で動かし、小魚たちと遊んでいた。

「俺もやってみるよ」

 涼は少し緊張しながら手を水に入れた。冷たい水に触れると、すぐに小さな魚が涼の指に寄ってきた。優しく触れると、魚の柔らかな感触が指先を伝わり、思わず笑顔になった。

「本当に気持ちいいな。これ、楽しい!」

「でしょ? リョウくんも楽しんでるじゃん!」

 凛は水槽の中で魚と戯れる自分の姿に、心からの喜びを感じていた。二人は自然と笑顔になり、その瞬間を楽しんでいた。

 しばらくの間、魚たちと触れ合った後、二人は水槽の前で立ち止まり、しばらくその光景を眺めていた。色とりどりの魚たちが泳ぎ回る姿は、まるで小さなアートのようだった。

「触れるって、すごく楽しいね。こんな体験、初めてだよ」

 凛は満足そうに微笑んだ。

「俺もだ。こうやって生き物に触れることができるのは貴重な経験だね」

 涼は凛の笑顔を見て、自分も心から楽しめたことを感じていた。

 その後、二人はお土産コーナーへ向かうことにした。水族館の中を楽しんで回りながらも、心は次の楽しみへと向かっていた。

 お土産コーナーの色とりどりのぬいぐるみや雑貨が並ぶ店内は、明るく賑やかだった。

「リョウくん、見て! この魚のぬいぐるみ、すごく可愛い!」

 凛が笑顔で手に取ったのは、カラフルな魚のぬいぐるみだった。ふわふわとした手触りが心地よく、見るだけで癒されるようなデザインだ。

「本当だ。凛にぴったりだね」

「えへへ、ありがとう! でも、どれも可愛くて迷っちゃうな」

 涼も周りを見渡しながら、小さなイルカやクラゲのぬいぐるみを手に取った。どれも精巧に作られており、思わず微笑んでしまうような魅力があった。

「凛、これなんかどう? クラゲのぬいぐるみ、君の好きなクラゲだよ」

「わぁ、可愛い! 選んでくれてありがとう。これにしようかな!」

 凛は嬉しそうにクラゲのぬいぐるみを抱きしめた。涼もまた、凛が喜んでいる姿を見て、心が温かくなった。

 さらに涼はイルカやサメなどの形をしたカチューシャを手に取り、凛の頭につけた。

「え? 何?」

 何をされたかわからない凛は、自分の頭を近くにあった鏡で確認した。

「かわいい、似合ってる」

 涼は少し照れながら凛が映る鏡を覗き込む。

「ありがと。リョウくんも、はい!」

 凛は自分が涼につけられたものと同じものを商品棚から取り、涼の頭につける。そしてさっきと同じように二人で1つの鏡を覗き込んだ。

 自然と二人の顔が近くなる。

「今日は本当に楽しかったね、リョウくん。また一緒に来ようね」

「もちろん、次どこに行くか考えておくよ」

「うん! 私も! 二人でいろんなところにいっぱい行きたい!」

「そうだね。思い出いっぱい作ろう」

 涼と凛は、手をつないで夕日に照らされた道を歩きながら、新しい思い出を作り続けることを約束した。

 涼は、凛と過ごすこれからの時間がもっと楽しみになったし、凛は、涼と一緒にいると自分がどんどん幸せになっていくことを感じていた。

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