第2話 かつて見た景色

 お風呂を出て、服を着ようとした時、ミレイさんは小綺麗な服を持ってきた。私にはそのただのT-シャツが珍しく感じた。

「その服......」

「え?ああ、あそこのショッピングモールの跡地から見つけてきたのよ。まあ、オシャレでは無いけどね。気に入らなかった?」

「いえ、ありがとうございます......」

 私はミレイさんから渡されたT-シャツを早速着た。T-シャツには文字が書いていて「my girl」と書かれていた。少し恥ずかしさはあったものの、この世界でそんな贅沢が許されるはずもなく、私はこのヘンテコなシャツを愛用する事になった。

「おお、似合ってる似合ってる!!」

 本当かな......?

「すみません、こんなに良くしてもらって」

「何言ってるの?ほら、私たちはさ唯一の生き残りなんだよ。」

 唯一.......。

「あの、この街で他に生き残った者はいないの?」

 ミレイさんは少し躊躇った後、こう宣った。

「うん、私だけだね。みんな、何処かに行っちゃった。」

「そうなのね」

 私は何があってこんな世界になってしまったのかはわからない。ただ、唯一というのも間違っていない気がした。私はここまでに13番の街を巡ってきたのだが、そこに人影はおろか、生活していた痕跡ですら殆ど残っていなかった。人たちはどこに消えたのだろうか。

 その時、私の脳内に電流が走った。頭の中を何かが駆け巡るような。私は、薄らと何かを思い出せそうにいた。何度も味わって来た感覚だ。

 私は思わず頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

「大丈夫?」

 ミレイさんが心配そうに駆け寄って来た。

 脳内が薄いフィルムのようにぼやけているが、断片的には見えるのだ。それは、人が大勢いて、街に建物が並び、周りには緑の自然がある情景。なんなの?これが、かつてのこの世界なのか?それとも、私の妄想なのか?全然わからなかった。

「あの、聞いていいですか?」

「どうしたの?」

「この廃れたセカイは元から?或いは、現実なの?」

「......違う。元はこんなのじゃなかった。私も記憶が曖昧でよくは覚えていないの。でも、このセカイはかつては平和だった事だけは覚えている。」

 ミレイさんもハッキリと覚えていない。やはりそこが引っかかる。何故思い出せないのか。そこが最大の謎である。

「大丈夫?マシになった?」

「はい、少し。」

 しばらく経った後、私の謎の頭痛にも似た現象が収まる事になった。ミレイさんは心配そうにしていた。

「まあ、とにかく今日はもう寝ましょう。ここに布団敷いてるから。」

「すみません。ありがとうございます。」

 私は敷かれていた布団に寝転がり、空を見ていた。太陽は沈み、空には月光が輝いていた。無数の星々を観ていると、どこかノスタルジックな雰囲気を感じる。かつての私はこの景色を見ていたのだろうか?

「あの、ミレイさん」

「ん?どうしたの?」

「私はあるべき場所がある気がするの」

「へぇ、あるべき場所って?」

「それは、何処か暖かくて、楽園のような所なの」

 私の目指す場所はイマイチ具体性に欠けている。自分でも分かっている。しかし、それ以外に表現のしようがないのだ。その為ミレイさんはあまりわかって無さそうだった。

「うーん、なるほどー。暖かくて楽園のような場所か.....それって家族ってこと?ほら、なんだかさ、家族って安心出来るし、暖かさがあるよね。」

 家族......もしかしたらそうかもしれない。

 でも、重要な事が一つある。そういえば、家族って.....なんだけっけ?

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