記憶の彼方に囚われた少女は、昨日見た楽園に包まれるような夢をみるか?
甘織玲音
第1話 追憶、或いは失われた記憶
私は夢を見た。その夢はとても心地良くて、とても暖かかった。しかし、私はその夢をハッキリと思い出す事ができない。脳を司る相葉がまるで拒否するかのように感覚でしか残っていなかった。何処か見知らぬ場所で、幸せに暮らす。そんな夢幻のようなものであった。
私は時々考えた。この夢こそが、私のあるべき場所であり、私の居場所である。
そして、見知らぬ場所で、記憶のない少女......。
私だ。
覚えているのはこの何も無いところでただ一人立っていたって事だけ。それ以外は何も覚えていない。私は何歳なのか、何処で産まれたのか、誰が親なのか。わからない。分からないままだった。でも、それも何処かに落ちている気がする。それだけを思い、自分を励ましていた。過ぎゆく日々に勿体無さを感じ、何か行動しなくてはと思った。
こうして私は歩いた。あるべき場所へ帰る為に。それから数日間、荒野を抜け、廃街を抜け、あるべき場所へ旅立った。様々な建物、場所をみてきたが全く手応えがなかったのだ。そう、簡単に見つかることは無かった。私は街探索と同時に水と食料の確保もしている。この世界には物流の類が全て消え失せているのだ。食べなければ死ぬ、飲まなければ死ぬ、それだけは分かっていた。本能的な感覚だろう。
そして、私は街探索を続け、13番目の街へと着いた。看板には古びた文字で「Planet City」と書いてあった。この文字を見た時、私は感じた事がない感覚に襲われていた。何処か、記憶にあるのかもしれない。
僅かな希望を感じ、私は吸い込まれるようにしてこの街に入った。
街は相変わらず廃墟で、動物類などは住み着いてなかった。また、ハズレか.....と思いつつ食料を漁ろうとした
その時、人影が見えた。私は思わずその人影に話しかけていた。
「誰がいるんですか?」
私がそう問いかけると、ビルの端から20代前半位の女の人が出てきた。着ている服こそは質素な感じだが、身なりが整っている。この世界では異質な事だ。
「ええ、貴方は生き残り?」
「うん」
「良かった!!大丈夫?何か食べる?」
「い、いえ。そんな......」
しかし、その女性は微笑みながら私の手を取った。私は、現実で温もりを感じていた。それは決して虚構などではない。現実だ。手の温もりら人の温もり。それは何者にも変え難いものだ。
「大丈夫よ!!こういう時は助け合いでしょ?ほら!!」
私は女性から乾パンをもらい蓋を開ける。そうして硬い乾パンをただただ必死に食べていた。
「貴方名前は?」
「......分からない」
「じゃあ、あだなをつけましょう!うーむ、そうだなー。じゃあ貴方はリボンちゃん。」
「なんでリボンちゃんなの?」
「だって、貴方ステキなリボンをしているじゃないの」
それを聞いて私は恐る恐る自分の髪に触れた。すると確かに布の感触を感じた。とってみると黄色いリボンが付いていたのだ。私はそのリボンを見つめながら驚いた。私はここ一ヶ月間、このリボンの存在について全く気がついていなかったのだ。
「えっあ、本当だ。」
「ふふふ、なんだか懐かしいわね。」
「懐かしい?」
女性が私を見つめるその瞳は何処か懐古的であり、私に似ていた気がした。その瞳はキレイだった。
「いえ、気にしなくて良いことよ。」
「わかった。ところで貴方の名前は?」
「ああ、私はそうね。ミレイって呼んでね。」
「ミレイさん。ありがとうございます。」
「良いわよ、気にしなくても。困っているのはお互い様でしょう?あっ、そうだ。良かったらお風呂に入る?」
私はびっくりした。この世界でお風呂だなんてものがあるなんて。とても贅沢な事であった。
「お風呂?そんなものがあるの?」
「まあ、結構簡素なものだけどねー。」
「入りたい!!」
「そうこなくちゃね。じゃあ準備するからちょっと待っててね。」
ああ、暖かい。あの夢のようで心地が良い。この人は私のあるべき場所の人なのであろうか?ただ、少し足りない。何かが欠けている気がする。そうして、私は夢の中でシルエットが複数あったのを思い出した。
「じゃじゃーん。どう?ドラム缶だけど、あったかいよー。」
「あらがとうございます!」
私はその場で服を脱ぎドラム缶風呂に速攻で浸かった。私は全身の力が抜ける感覚がし、とても気持ちが良かった。
「気持ちよさそうだね。」
ミレイさんはニッコリしながらこちらを見ている。私はとてもリラックスしていた。
「お風呂は久しぶり。とても心地良くて嬉しい。どうやってこの水を用意したの?」
「この街にはね、一人じゃ使いきれない量の貯水があってね、それを使ったんだよ」
「ねぇ、私って幾つに見える?鏡がないから自分の姿が分からないの。」
「そうねぇ、大体14か15歳くらいに見えるけど。」
私はふと自分の体を確認した。ミレイさんと比べたら貧相な体つきだった。私はチラチラとミレイさんと私を比べてみた。しかし、その大きさは一目瞭然で、私は謎の敗北感を感じた。
「ん?どうしたの?」
「な、なんでもない」
私は恥ずかしくなって、お湯を口までつけ、ぶくぶくと空気を抜いた。
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